94 夏!

「皆さん! もう少しで夏休みが来ます!」

「わぁ……」

「わぁ……」

「なんだよ……! 陸くんと宮内くん! ちょっとテンション上げて!」

「わぁ……」


 なんで俺が生徒会の仕事を手伝わないといけないんだよぉ……。

 それはいいとして、なんでこのタイミングでエアコンが故障したんだ。マジかぁ。

 そしてひなはもう……。


「死んでいる……」

「三木さん!?」

「暑さに一番弱い人がここにいる……。てか、さっきからずっと机に突っ伏していたけど、ひなぁ!!! 大丈夫!?」


 すると、手を挙げるひな。その手がすごく震えていた。

 やっぱり暑すぎて倒れていたのかよ、ここ……マジで大丈夫なのか? てか、会長も倒れそうな顔をしている。生徒会室が狭いのもあるけど……、ここ通気性が悪いからさ。一応ひなを起こして、俺たち3人はぼーっとしてホワイトボードを見ていた。


 白いのはホワイトボードで黒いのは字、そして暑い。

 それだけだった。


「みんな! 起きてよぉ!!!」

「起きてますぅ……」

「冬子……、元気だね…………」

「だから、聞いて! そろそろ夏休みでしょ?」

「はい……」

「みんなでうちの叔母さんがやっている旅館に行くのはどうですか!」

「旅館! 温泉!? いいね!」

「いいね」

「…………」


 ひな……、また机に突っ伏したのか。


「よっし! じゃあ、今年の夏休みは私たち4人で楽しい思い出を作るんだよ! おう!」

「おう!!!」

「それでは解散!」


 こっそり親指を立てるひな。


 ……


 帰り道、ひなと近所のカフェに寄って飲み物を買う。


「ひな、幸せそうに見えるね」

「うん……。生徒会室本当に暑かったからね。家に帰ったらすぐお風呂入りたい」

「俺もそうだ……」

「そういえば、奏多。あの話はちゃんと考えてみた?」

「な、なんの話……?」

「同居するって話」


 チッ、うっかりしたと思っていたのに…………。

 ちゃんと覚えていたんだ。


「…………」


 この前、ひなとテレビを見ていた時の話だけど。

 どうせ、学校が終わった後はいつもひなの家に来るから「いっそ同居しない?」ってそう言われた。確かに……、ほとんどの時間をひなと過ごしていたから、うちに帰る理由がなくなってしまったよな。


 家の掃除も全然やってないしさ。


「でも、その前にうちのお母さんと……三木さんに———」

「うちのお母さんは大丈夫って言ったよ? そして奏多のお母さんにもよろしくって言われたし」

「なんですか? その凄まじい行動力は? てか、うちのお母さんといつそんなことを話したんだ……? 全然知らなかった」

「ふふふっ」


 どうせ、同居しているのと同じなのになぜか悩んでしまう。

 プロポーズまでしておいて、同居するのを悩むなんて。でも、ひな……夜になると変なスイッチが入ってしまうからさ。小学生の頃からずっと我慢してきたよとか、変なこと言ってるけど、スイッチが入った時は俺の力じゃ足りないから怖い。マジで怖い……。


「何考えてるの? 奏多」

「な、なんでも……! いいよ。同居しよう。でも、荷物は…………」

「あ、お母さんの部屋使ってもいいよって言われたから。どうせ、あの部屋にはベッドしかないし、荷物はそこに置けばいいと思う」

「そんなことしてもいいのか? 俺が三木さんの部屋を使っても……」

「うん? 奏多は私の部屋で私と一緒に寝るんだよ? 何考えてるの? そこに置くのは荷物だけ」


 そうか……、俺はこっちじゃなくてそっちだったのか。


「そ、そうだよね」

「お母さんは会社の近くにあるマンションに住んでるから、うちに泊まったりしないよ。仕事のせいでこっち来てもすぐ帰らないといけないから無理」

「だよね」

「よっし! 同居の話はこれで終わりだね。早くお風呂入ろう! 奏多。暑いよ〜」


 なんか、封印を破ったみたいな感じ……。

 あれがあってからさりげなく俺と一緒に入ろうとしている。てか、もう小学生じゃないのに、どうして俺がひなの体を拭いてあげないといけないんだよ。何度も自分でやれって言ったけど、全然聞いてくれない。


 そこが問題だぁ———!


「ど、どうしたの? 奏多」

「今日は絶対一人で! ちゃんと! 体を洗うんだ! ひな、分かった!?」

「そ、そんなぁ……。じゃあ、今度は私が奏多の背中を……」

「俺も自分でやるから、ひなも自分でやれ!」

「そんな……。でも、私は———」


 結局、ひなの背中を拭いている俺だった。

 まさか、夕飯で俺を脅かすとは……。くっそ、俺も料理ができる人だったらあんな脅かしに屈服しないのに、ひなの料理は美味しいから仕方がなかった。そのまま背中を流す。


「…………」


 なんか、綺麗だ……。


「これだよ〜、これ〜」

「何が?」

「私はこれが好きだからね〜」

「ひなは……、変態かな?」

「どっちが変態なのかは見れば分かるでしょ? 奏多〜」

「うるせぇよ!」

「ひひっ。奏多! 前も拭いて、これすごく気持ちいいから……」

「勘弁してぇ」


 黙々と体を拭いている俺とニヤニヤしているひな。

 いくつになってもこれは変わらないと、なぜかそう思っていた。


「そういえば、冬子と会長上手くいってるように見えたよね?」

「そうだね。会長、あれからめっちゃ幸せそうに見えたから」

「恋ってすごいよね〜。好きな人と一緒にいると力が出る! 奏多は他の意味で元気だけどね〜」

「…………あっち見ろ、変態」

「ひひっ。でも、温泉かぁ。楽しみ〜。みんなといい思い出を作りたいな〜」

「うん、楽しそうだね」

「ふふっ」


 背中を流してあげた後、風呂に入る二人。

 そうやってまた二人の夜が始まる。


「てか、ひな」

「うん?」

「今日はやんないから、今日は寝たいから! 今日だけは!」

「ええ」

「ええじゃねぇよ!」


 いや、始まると俺が困る。

 うん、やっぱり困る。

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