第33話 ライラ VS キースヴェル キスの戦い
――――午前十時。
身なりを整えてからもう一度、窓の外を見たら雪も降っていないし、空には雲もほとんどなかった。ライラは決意する。街へ行くには今日しかない!と。
このお出かけはキースヴェルに気付かれてはいけない難しいミッションだ。
(だって、キースへのクリスマスプレゼントを注文しにいくのだもの)
ライラは先日、キースヴェルは帽子が好きだという情報を王宮の侍女から仕入れた。彼の好きな色は青ということも知っている。だから、アイスブルー色の軽くて暖かい帽子を注文するつもりだ。
コンコンと部屋をノックする音がした。
「僕だよ」
「はい、どうぞ」
部屋に入って来たキースヴェルはダークグレーのひざ下まであるマントを羽織っていた。彼の洗練された容姿と相まって、とても似合っている。
「今日はいい天気だね。僕らが出かけたらどうなるか分からないけど、フフフッ」
「もう!そんな不吉なことを言わないで!!」
ライラはキースの腕に肘をワザと当てた。
(キースが言うと本当に大雪になりそうで嫌な予感しかしないのだけどー!)
「ふーん、ララは何処かにお出かけするのかな?」
「キースこそ、その服装は・・・もしかして、もう何処かへ出掛けて来たの?」
「うん、少し野暮用を済ましてきた」
「――――野暮用。秘密ということね」
ライラが呟くとキースヴェルはニッコリと笑う。
(これは守秘義務のあるお出かけで間違いなさそうね。こういう時は聞いても教えてくれないのよね・・・)
「ララ、朝の・・・」
キースヴェルは横に立つライラを片手で軽々と抱き上げる。
「はぁ?朝の何???」
ライラも慣れたもので抱き上げられたくらいでは驚かない。それよりも恐れていることがある。
(まさか、朝のキスを忘れてたから、わざわざしに来たとか言い出さないわよね・・・?いきなりミッションがバレてしまいそうなのだけどー!!)
ライラが恐れているのはキースヴェルのキスなのだ。彼はキスをした後、かなりの確率でライラがその時に考えていることを掴んでいるかのような発言をする。それがワザとしているのかたまたまなのか、未だ解明出来ていないのだ。本人に聞いてみようかと思ったこともあったのだがその場合、キースヴェルが口にした内容が正しいと認めることになると気付いたので止めた。
もしかすると、キースヴェルも悪気があるわけではなく無意識に何かを発動してしまっているという可能性も少しくらいはあるかも知れない。
(いや、あの性格でそれはないでしょう。間違いなく魔法を使ってるわよ)
「どうしたの?何か考えてるみたいだけど」
キースヴェルはライラの鼻先に自分の鼻先をコツンと当てた。そして・・・。
「―――ストップ!!ちょっと待って!!」
ライラは顔と顔の間に手を挟み込んだ。キースヴェルはあからさまに嫌そうな顔を見せる。これはかなり珍しい光景だった。彼はポーカーフェイスがとても上手な人。本心を悟られるような表情は普段から余り見せないタイプなのである。
「えー、お預けする理由は何?」
「あー、それは、えーっと、あっ、そうそう朝食で少し匂いの強いものを食べたじゃない?だから、今朝はナシでお願いします」
「匂いの強いものって言っても、同じメニューを食べてるよね。だったら、お互いが同じ匂いだから良くない?」
「いや、そこは乙女心なのよ。それくらい分かりなさいよ」
「じゃあ、ララのご希望通り、口にキスするのは止めておく」
キースヴェルは抱えていたライラを一度床へ下した。そして、流れるような所作で彼女の左手を取り、手の甲へ口づけを落とす。
(ああ、良かった。阻止出来たわ)
心中でホッとするライラ。ところが彼はそんなに甘くなかった。
「じゃあ、準備も出来ているみたいだし、早速出かけようか」
「へ?」
「ふふふ、面白い顔」
「失礼ね。私、今日は用事があるから、キースと一緒には出掛けられないわ」
「あー、大丈夫。分かってる。ええっと、ランチを一緒に食べた後、僕は書店に用事があるから、その間に帽子屋に行っておいで。で、その後は美味しいスイーツ店を見つけてるから楽しみにしてて」
ライラは背筋がゾ~ッとした。手の甲のキスでもバレてしまうのか!?と。
「ララ、大丈夫?顔色が悪いけど・・・」
ショックで立ち直れないライラをキースヴェルは問答無用で抱きかかえるとそのまま部屋を出た。
――――本日はライラの負け。
ちなみにこの日のライラの予定をバラしたのはクルム侯爵家の執事と王宮の侍女である。敵は身近にいるとライラが知るのはもう少し後のことだった。
氷のライラとお見合いしたのは国一番のプレイボーイと呼ばれる王子様でした(笑わないのは呪いのせいなので許してください) 風野うた @kazeno_uta
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