第?話 ドン・シュルツの「最期」
※突然ですが、ここで話が一気に飛んでいます。なぜかというとこの場面だけを勢いで書いたは良いのですが、その間を埋める(そこまでたどり着く)シーンを書く気力が未だ起きないからです。しかしせっかく書いた事だし、さらに言うとこのシーンはこの物語にとって非常に重要なので、投稿だけはしておこうと思います。後に気力が回復したらちゃんとした物語に仕上げたいと思います。
◇ ◇ ◇
「おい!俺を一体どうするつもりだ!?」
ドン・シュルツは半ば悲鳴に近い叫び声で怒鳴った。彼は椅子に縛り付けられていた。その部屋は薄暗く、ドン・シュルツの真上に一つの照明があり、彼だけが照らし出されている状態だった。薄暗がりの中には何人かの人影が居るようだが、顔の見分けまでは付かない。ドン・シュルツはまた叫ぶ。
「……大体お前ら一体何者なんだ!? この私を帝国軍大将・航空艦隊司令長官・侯爵・ジョン・ヴァン・ドン・シュルツと知っての狼藉かぁ!?」
「ああ、そうだよ……」
ヴィルソンが言った。
「……会いたかったぜ、ドン・シュルツさん。我々はシエルのレジスタンスだ……」
「……っ!!」
それを聞いたドン・シュルツは驚愕の表情を浮かべ、次いでガックリと肩を落とした。
「あぁ……やっぱりそうだったか……では、私の運命もここまでという訳だな……」
「そういう事だが……その前にアンタにゃあ色々と聞きたい事がある……」
すると白衣を着た二人の男がドン・シュルツにつかつかと歩み寄った。実はシトロイツ卿とステングロス教授の変装だ。二人はいかにも重要物を取り扱うといった感じで一つの注射器を取り出して言った。
「あっ…薬殺か…!」
ドン・シュルツの顔がサッと青ざめる。シトロイツ卿が言った。
「いや、まだ殺さんよ……これは、アーネムランド軍で密かに開発された最新の自白剤だ。知人の伝手で入手した。効果は注射後およそ5分程度で表れ始め、知ってる事は何でも隠さず喋るようになる……」
実はただの生理食塩水である。シトロイツ卿がドン・シュルツの袖をまくり上げ、ステングロス教授が注射した。
「や、やめろおぉぉーっ!!」
「さあ、今に効果が表れ始めるぞ……」
「そうだ。知ってる事は何でも全部喋るようになるぞぉ……」
二人は下がり、入れ替わるように暗がりの中から一人の人影が進み出た。光の輪の中にまでは立ち入らず顔などは不明だが。そいつはゆっくりと言った。
「ドン・シュルツ……俺を覚えているか……?」
「はあ?……レジスタンスの人間に知り合いなんてほとんど……ん?」
…と、そこで彼は何かに思い当たった。
「ま、待てよ……その声……お、お前、まさか……!!」
ドン・シュルツは激しく狼狽し、ガクガク震えながら叫んだ。
「お…お前は……デイビス・グロンケット!? い、生きていたのか!? そそ、それとも、亡霊か……っ!?」
「…フフフ…」
その人影はその質問には答えなかった。もちろんニセモノである。仲間内の中で生前のデイビスと声色の良く似ている者がおり、そいつがデイビスの口調を真似て喋っているのであった。
「そんな事はどうでも良い……こっちの質問に答えてもらおう。まず何よりも知りたいのはドン・シュルツ、お前はなぜシエルを裏切り、帝国と手を結んで俺を討ったのかという事だ」
「そんな事……決まってるだろ!誰かがやらなきゃいけない事だったからさ!あの時はな……」
ドン・シュルツは話しだした。
「……それも俺は何度も断ったんだぜ。何だかんだ、レジスタンスの英雄と呼ばれた男を死に追いやるなんて……自分には荷が重すぎるって……。でも事実上、拒否権なんて無かった。やれば出世させてやるし、断れば命は無いって言われりゃあね……。それにさ、あの頃の俺は――いや、俺だけじゃないな……シエル正規軍の軍人達の多くは――お前が人々を苦しめる悪いヤツだって信じてたんだからな!」
「……はあぁっ!? 何でだよ……っ!?」
こう叫んだのはルリスティーヌ(デイビス)だった……直後、気付いて慌てて口をつぐむ……が幸い、本当に自白剤を打たれて意識が低下していると信じているのか、この場には到底似つかわしくない少女の声にもドン・シュルツは疑問は感じなかったようだ。デイビスの「声役」の男が尋ねる。
「……一体どういう事なんだ!? 詳しく説明しろ!」
「……あの頃、レジスタンスの犯罪行為が問題になり始めていたんだ……『祖国のため』という正義を盾に、徴発と称して民衆から金や食糧を巻き上げたり女性に乱暴したり……」
「おいおい……俺はそんな事があったなんて、まるで聞いてないぞ……」
当惑するルリスティーヌにヴィルソンが説明する。
「そりゃあ『レジスタンス』を騙るならず者共の仕業さ……俺達本物のレジスタンスが祖国のために命懸けで戦ってた一方で、そういう連中が結構横行してたらしい……残念だがな……俺達もそういう連中の存在を知ったのは後になってからだ……」
ドン・シュルツは続ける。
「……そもそも正規軍は、レジスタンス自体を好ましく思ってなかった所もあったな……実は帝国の侵攻を受けた時、政府と正規軍の上層部は、適当に一戦ぐらい交えて後はサッサと降伏する算段だったんだ……その方が国土にも民衆にも被害が少なくて済むからな……レジスタンスが変にやる気になっちまったせいで戦いが長引く事になったんだ……」
「「「……」」」
これにはその場にいた全員、言葉を失った……が、そこにシトロイツ卿が言った。
「……いや、長く抵抗を続けた事には立派な意味があったと思うぞ。なぜなら『民衆感情』という目に見えない非合理的な物がどうしようもなく存在しているからだ。損得勘定じゃあ割り切れない……もし殆ど抵抗せずに降伏・併合された場合、シエルの民衆の自尊心は大きく傷付いただたろう。それに支配する側の帝国の立場になって考えてみても、さしたる抵抗も無くアッサリ併合した民族と、大抵抗の挙句にようやく屈服させた民族とでは、その後の扱いが変わってくるはずだ。それこそシエル総督の地位にあったドン・シュルツ殿、そこはあなたが一番良くご存知のはずだ」
「ああ、その通りだよ」
そこはドン・シュルツも認めた。
「……確かに帝国は、シエル統治に当たって他民族よりは苛政を行っていないように思える。抵抗した意味は確かにあったのかも知れない……だがな、そんな事は後になって冷静に振り返ってから分かって来た事であって、あの当時は……確かに正規軍は、レジスタンスが戦いを長引かせる原因、一刻も早く解体するべき存在だと信じていたんだ……」
「「「……」」」
「…それで俺が汚れ役を押し付けられてデイビス・グロンケット……お前を討ち取る事になった訳だが……その後だよ!帝国軍と通じてお前を討った後になって……お前の無実を証明する情報や、戦いの中でのお前の善行や美談がわんさか出て来た――まあ、これに関しては死んだから美化が始まったってのもあるかも知れんが――それで俺も解かったのさ!デイビス・グロンケットはそんなに悪いヤツじゃなかったんだって!レジスタンスの功罪を一身に背負わされて生け贄に捧げられたヤツだったんだってさ!」
「「「……」」」
「……チクショウ……そうと知ってりゃあ俺もあんな任務は是が非でも拒否したぜ……俺は確かに保身主義の小心者だが、それでも人として最低限の良心ぐらいは持ち合わせてるつもりだ……」
「「「……」」」
「……本当に……必要な情報ってのは、必要な時が過ぎ去った後になってからもたらされる……いつもこんな感じなんだよなぁ……戦争ってヤツは……」
「「「……」」」
もう誰も言葉も無かった……。
「……解かった……」
ルリスティーヌがポツリと言った。
「……それだけ聞けば、もう充分だ……やってくれ」
目配せすると、デイビスの声役……というかもうデイビス役の男が懐から何かを取り出した。拳銃だった。
「ハハハ……いよいよ最期って訳だな……ようし!やれ!!撃て!……頭か!? 心臓か!? それとも腹か!? どこだって良いさ!この十年、何度自分で死のうと思った事か!それをそっちの手で終わりにしてくれるってんだから有り難いくらいだぜ!さあ撃て!!早く俺のクソな人生を終わらせてくれぇ……っ!!」
パァーンッ!!
……銃声が響いた。
「……」
ドン・シュルツはもう動かず、グッタリとしている……ところが、その身体のどこからも血は流れていなかった。
「……空砲だったが、本当に撃たれたと思って気を失ったようだな……」
「……さあ!準備を始めよう」
男達は隣の部屋から簀巻きにされた何やら重そうな物を持ち出してきた。包みが解かれると、そこにあったのは「ドン・シュルツの死体」であった。
「うわぁ……そっくりじゃねえか」
「よくここまで似た死体を調達できたなぁ……」
驚く面々にステングロス教授とシトロイツ卿が説明する。
「ご安心を……実は、樹脂製の精巧な作り物です。といってもよほど近くで見ても偽物とは気付かれないでしょう」
「検死官には金を渡してある。ドン・シュルツ氏と判断してくれるだろう」
「……それで良い。病院や教会から本物のホトケさんを調達してくるより良心が痛まなくて済む……」
・・・・・・
それから、数時間後……王都内を流れる運河の畔から一艘の小舟が出て行こうとしていた。舟に乗っているのは船頭と、かつて「ドン・シュルツ」と呼ばれていた、今は名も無き男であった。河岸からレジスタンス達が言う。
「『ドン・シュルツ』という人間は今日ここで終わった。お前はかつての名前以外の物は皆持って行くが良い」
「好きな所へ行って好きに生きて良いが、今日の出来事は生涯口外するな」
「あ、ああ……解かった……感謝する……」
舟は遠ざかっていく……と、元ドン・シュルツは思い出したように言った。
「そうだ……お前達の中にデイビス・グロンケットはいるか……?」
「それは……お前が知る必要は無い」
「そうかい……デイビスに伝えてくれよ。ローザの事だが……彼女との間の子は、実は俺の子じゃないんだ。俺が彼女を妻に迎えたのは……償いの気持ちもあったんだが……その時には彼女はもう身ごもっていたんだよ。あれはデイビスの子だ」
「……っ!!」
少し離れた所でそれを聞いていたルリスティーヌは驚いて目を見開いた。
「そうだったのか……ローザ……」
戦場の英雄、転じて姫となる 浦里凡能文書会社 @urazato2020
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