第6話 オムライス

俺たちはアリ塚を抜け、村に向かい歩いていた。


「あと村までどれくらいで着きそう?」


「順調にいけば、明日のお昼には着くわ」


「もうひと頑張りだな」


 火アリに襲われたが、それ以外は順調に旅は進んでいた。ミーシャの地獄の修業に耐えきった俺は一日歩き続けても、大丈夫なほど体力も付いている。火アリ以外のモンスターにも襲われたが、ゴブリンや小さい獣型の魔物だけなので、俺でも簡単に処理することができた。ミーシャは俺では厳しい魔物が出るとき以外は、手を出さずに見ている。教官みたいだ。


「この辺だとどんな魔物が出るんだ?」


「そうね、この辺だとコッコの変異種が出るわ」


 コッコとはミーシャの家でも飼われていた鶏のようなモンスターである。一般的に家畜としてよく飼われているらしい。


「あんまり強そうには思えないけど」


「この辺のコッコは大きいのよ」


「どれくらい?」


「高さが六メートルくらいあるわ」


 でかすぎる。そんなのが暴れだしたら……


「それ、ミーシャでも倒せるの……?」


「戦ったことがないからわからない。でも多分依頼として出てると思うから、村に着いたら受けるわよ」


 村に着く前から憂鬱な気分になる。いのちだいじに、じゃなかったのかよ。

 ミーシャが立ち止まり、山の方を指差す。


「あれを見て、あの山のてっぺん辺りに巣を作るのよ」


 山は五百メートルくらいだろうか。


「巣まで行くのも大変そうだな」


「それだけ報酬もいいのよ。卵を持ち帰れば結構なお金になるわ。とは言っても山に住んでるコッコを倒しに行くことはないのよ」


「そうなの?」


「そう、基本は町の近くに巣を作った個体を倒しに行くのよ」


「ああ、なるほど」


 そんな話をしていると、いつの間にか日が沈みかけていた。


「今日はここまでにしよう、さぁテントたてるわよ」


「りょーかい」


 テントをたて、食事を済まし、明日に備えて、眠る。


「おやすみ、しょーた」


 朝早くから移動を再開する。お昼前には村が見えてくる。た


「村が見えてきたわ」


「思ったより早く着いたね」


「そうね、お昼を食べたら依頼を受けに行くわよ」


 村に入り宿屋を探す。数分歩けば宿屋が見つかった。木造の大きな宿屋の扉を開ける。

「いらっしゃい」


 白いひげを貯えた初老の男性がカウンターに立っている。


「宿を借りたいのだけど」


「一人一泊銀貨八枚だよ」


「二部屋お願いするわ」


「あいよ、確かに」


 店主はけだるそうな声で受け答えをする。


「店主さん、この辺でおいしいお店はあるかしら?」


「飯なら、マーガレットの食堂に行くといい。ここを出て右に少し行けば見えてくる」


「店主さんありがとう」


 俺たちは、荷物を部屋に置き、食堂に向かう。この村は小さな村で、お店が少なかったからか、すぐに食堂を見つけることができた。


「いらっしゃい」


 店に入ると、店主のおばあさんが、笑顔で迎えてくれた。席に案内され、座る。


「ご注文はどうされますか?」


「おすすめとかありますか?」


「おすすめはオムライスだねぇ。坊やたちは旅の途中かい?」


 この世界にもオムライスはあるらしい。


「そうです、王都に向かってるところです」

「それは大変だねぇ。コッコのオムライスを食べて、力をつけるがよいさ」


「じゃあおばちゃん、オムライス二つで! しょーたもオムライスでいいわよね?」


「うん。それでいいよ」


「はいよ」


 おばあさんは厨房に戻っていった。


「食べたらすぐにギルドに行くわ」


「この村には何日くらい滞在する予定なんだ?」


「お金が目標額に届いたらすぐに出るわ。 次の町まで一ヶ月はかかるから、準備はしっかりしないといけないけど、長居はできないわ」


 おばあさんが厨房から出てくる。


「おまちどうさま」


 二人の前に、オムライスが置かれる。


「いただきます」


 オムライスはアツアツふわふわでおいしかった。卵が違うのだろう。


「おばちゃん、最近困りごとってない?」


「困りごと? そうねぇ、最近ビッグコッコが、村の近くに住み着いてしまって、この村に来る人が少し減ったわねぇ」


「ギルドに依頼は出てるかしら」


「出てると思うさね」


「しょーた! 昼からの予定は決まりね」


 嫌な予感は当たってしまったな。


「ビッグコッコを倒せば、すぐに村を出れるくらいには稼げるのか?」


「目標額の三倍は稼げるわ」


「それならやるしかないね……」


「おばちゃんごちそうさま!」


「気を付けていくんだよ」


「はーい」


 食堂を出て、ギルドに向かう。ギルドは村で一番大きな建物だった。役場の中の一部をギルドが間借りしているような感じだった。


「依頼を受けたいのだけれど」


 ミーシャが受付の人に話しかけている。


「依頼ですね、まず冒険者証を確認させていただきます」


 ミーシャはポケットからカードのようなものを取り出す。


「そういえば、しょーたは冒険者登録してなかったわね」


「登録されますか?」


「じゃあお願いします」


 受付の人から渡された、書類に記入していく。書き終わり、書類を受付の人に渡す。


「少々お待ちくださいね」

 そう言って受付の人は後ろに引っ込んでいった。数分して戻ってくる。


「こちらがしょーた様の冒険者証です。無くされますと再発行には手数料がかかりますので、無くさないようにお願いします」


 名前が書かれた冒険者証を受け取る。キャッシュカードくらいの大きさで、名前以外は何も書かれていなかった。


「現在の依頼はこちらです。


 受付の人が数枚の紙を見せてくる。


「これで!」


「ビッグコッコの討伐ですね。危ない依頼ですのでお気を付けください」


 依頼を受け、ビッグコッコの元へ向かう。村の西側、歩いて十五分の距離にいるらしい。道すがら、ミーシャからビッグコッコとの戦い方を教えてもらう。


「ビッグコッコは大きくて攻撃力が高いわ。蹴りが強力だから足には注意して」


「足も速いわ。人間じゃ追いかけられたら逃げきれない」


 六メートルの巨体がものすごいスピードで走ってくるのか……恐怖でしかないな。


「あと、飛ぶわ」


「飛ぶの!?」


 六メートルの巨体が飛ぶ……?


「そう、飛んで上から押しつぶしてくるわ」


 一歩間違えればぺしゃんこか。


「見えてきたわね、あいつよ」

 ミーシャが指をさした方向を見る。見たこともない大きさのニワトリが座っている。体色は白色、頭には赤色の立派なトサカが付いている。


「でかいね……」


「見つからないように移動するわよ。左右から挟み撃ちにするわ」


 気配を殺し、ビッグコッコに近づいていく。


 パキッ


 しまった、小枝を踏んでしまった。ビッグコッコが振り向く。見つかってしまった。


「クエェェェェェェェェェェ」


「見つかったわ! このまま戦うわよ。左右に分かれて!」


「了解!」


 左右に分かれ、ビッグコッコとの戦闘が始まったのだった。

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異世界転移したらヒロインを手にかけてました 五十嵐 @igarashirai

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