第5話 火アリ
試験も終わり、王都に向かうために準備をする。
「ミーシャ、食料とかってどうするの? 日持ちするやついっぱい持っていくのか?」
「食料とかは旅先の村々で購入するの。依頼もこなしてお金稼ぎもするよ」
なるほど。歩いて旅をするから、荷物は最低限か。
「じゃあ、半年よりも少し余分にかかるか?」
「そうね、七ヶ月くらいで着くと思うわ」
台所からいい匂いが漂ってくる。
「そういや、ミーシャが王都に行く理由って何なんだ?」
「お父さんが死んだ理由を探すの。王都の依頼で死んだらしいから」
「そうか……なんかごめん」
「いいわよ」
台所からエレナさんがやってくる。
「ミーシャ、しょーた君準備は後にして、ご飯にしましょ」
「はーい」
机の上には豪華な料理がいっぱい並んでいた。
「すごいですね」
豪華な料理に圧倒される。
「冷めないうちにいただきましょう」
「いただきます」
俺は手を合わせる。
「しょーた、いつも気になってたんだけど、食事の前にする、その手を合わせるのは何?」
「これ? これは俺の国の文化だな。食事の前に、すべての命に感謝する。そんな意味がある。この世界で言う、祈りみたいなものかな」
「ふーん」
そういえば、ミーシャ達がいただきますって言ってるのを聞いたことが無かったな。
「でも、賑やかな食事は今日で最後ねぇ」
「そうですね、でも本当にお世話になりました」
「いいのよぅ、ちゃんと元気でいるのよ。ミーシャもね」
その日の食事は楽しく終わり、出発の朝が来る。荷物の最終確認をして、リュックを背負う。
「気を付けて行ってらっしゃいね」
エレナさんは心配そうだ。
「大丈夫よお母さん。私は強いもの」
そうやって笑うミーシャをエレナさんは抱きしめた。
「お世話になりました。どうかお元気で」
俺は、頭を深々と下げた。
「さぁ、行くわよしょーた!」
そして不思議な二人旅が始まった。
「まず、エラっていう村を目指すわ」
ミーシャが大きな地図を両手で広げながら言う。
「ここからどれくらい?」
「一週間も北に歩けば着くわ」
「一週間か、北って何を目印に歩くんだ?」
方位磁石なんてものもないし、北極星があるわけでもない。
「え? そんなの普通にわかるでしょ」
「どっちが北かなんて分からないけど……」
「感覚で分からない?」
感覚で分かるのかよ、野生の勘……みたいなものなのだろうか。
「いやわからん」
「じゃあはぐれたらしょーたは遭難するわね。あとエラ村までの道に、ファイヤーアントの巣があるけど、突っ切っていくから、はぐれないようにね」
ファイヤーアント!? 日本にもヒアリなる昆虫が、入ってきたときは騒ぎになったもんだ。ヒアリは火を吐くわけじゃなかったけど、ファイヤーアントさんはどうかな?
「ファイヤーアントってどんな生き物なんだ?」
「火を吐くアリね」
火、吐くんかい。
「群れで行動されると厄介だけど、単体ならしょーたでも簡単に倒せるわよ」
簡単に倒せるなら……まぁいいか
「でも、ファイヤーアントって面白いのよ」
「おもしろい?」
ミーシャはちょっと笑顔だ。
「ええ、ファイヤーアントって名前なのに火を吐き続けると、体が熱に耐えきれなくて、燃え始めて勝手に死ぬの。面白いでしょ」
いや、何も面白くないが……最近気が付いたが、ミーシャは若干Sっ気がある。ちょっと怖い。
「逃げ回ってれば、勝手に向こうが自滅してくれるってことか」
「そうそう、でも、たまになめてかかって囲まれて丸焼きにされる人もいるから、気を付けてね」
二人は歩き続ける。夜になると、簡易テントを張って休む。朝になれば、また歩き始める。五日ほど歩いただろうか。巨大な蟻塚ゾーンに入った。その蟻塚は俺が知っているものとは全く違った。海外の動画で巨大な蟻塚の動画を見たことがあったが、そんなレベルではなかった。もはやビル、十メートルくらいの高さがある。
「しょーた、アリが出たら戦うから、準備しておいてね」
とても嫌な予感がする。ミーシャは何も気にすることなく蟻塚ゾーンの横断を始める。
蟻塚ゾーンの横断を始めて、三時間は経った。アリはまだ出てきていない。前を見てもまだ蟻塚はいっぱい建っている。
「しょーた、来たわ」
その瞬間、ゴゴゴゴゴゴと大きな音と共に地面が震える。前から大量のアリが走ってきている。一目見た瞬間、異常に気が付く。
でかい。予想の倍くらいでかい。全長は三メートルくらいだろうか、赤い体、鋭い顎。あまりにも現実離れしすぎている。
「遅れないでね」
そう言って、ミーシャは群れの方に突っ込んでいく。美しい剣技でアリを切り刻んでいく。運良く生き残ったアリがこちらに向かって走ってくる。
「やるしかねぇか」
俺は覚悟を決めて、剣を構える。アリは口を大きく開けて火を吐いてくる。横に回避し、アリの胴体に切りかかる。
ガキィン
!?
剣が弾かれる。硬ってぇ。剣を握る手がしびれた。
「胴体は硬いから、首を狙うのよ!」
ミーシャが助言してくれる。ミーシャの周りにはアリの頭がいっぱい転がっている。なるほど、アリに向き直り、構えなおす。
アリがまたしても火を吐きながら突進してくる。さっきと同じように回避して、首めがけて剣を振り下ろす。
ザクッ。今度は剣がすんなり通る。
「やるじゃない! いっぱい来るからどんどん頼むわね!」
その日は夜が来るまで、アリと戦い続けた。夜になるとアリは居なくなっていた。全部倒したか。
「おつかれさまっ!ご飯食べたら、夜のうちに蟻塚を抜けるわよ。そして、今日はごちそうね!」
ミーシャはウキウキを隠せないでいた。
「ミーシャ、ごちそうってなんだよ?」
「アリだけど……?」
え? ファイアーアントって食えるの?日本では昆虫食が一時プチブームみたいになっていたけど、俺は食べなかったんだよなぁ……
「しょーたの国ではファイヤーアント食べないの?」
「そもそも、こんなにでかいアリがいねぇ」
「そう。でも、結構おいしいからハマると思うわ」
ミーシャは焚火の準備をしている。俺も覚悟を決めるか。
「できたわ。食べてみて」
アリの足……?を焼いたものが手渡される。うげぇ。見た目はとても悪い。深呼吸をして、一口かじる。
……あれ? うまい、なんというか、食感はせんべいに近いような気がする。味は塩味が効いていてうまい。たまにはこういうのもアリだな。うん。アリだけに。
「見た目はあれだけど、おいしい」
「そうでしょう。おかわりもあるから欲しかったら言ってね。無くなってもアリはいっぱいいるから」
そうだった、俺たちはアリの巣のど真ん中でアリを食ってるんだった。
「そういや、村についたら、何するんだっけ?」
「宿の確保、水と食料の調達。依頼があればそれをこなしてお金稼ぎ」
「依頼って、どうやって受けるの?」
「小さな村でもギルドがあるから、そこに行けば受けられるわ。報酬が良い依頼を受けるから、覚悟しておいてね」
「りょーかい」
どうやら、依頼の管理をしている、ギルドとやらから依頼を受けるようだ。
「さぁ、夜のうちに移動するわよ」
そして俺たちは、夜のうちに蟻塚ゾーンを抜けたのであった。
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