第20話:エピローグ
何か足りないところがあるか?
これ以上のお預け、我慢できない。
そう健斗に迫られてしまうと……。
彼を拒む理由などない。
足りないところ?
あるわけがない。
自身の命さえ懸けてくれた相手に、これ以上を望むなんて!
罰が当たる。
むしろ。
今度は私が健斗を幸せにしてあげたいと思った。
それを伝えると……。
「杏奈……。いや、杏奈様。自分はまだ運動は禁じられているのに……。参ったな」
健斗は悶絶し、有り余る熱量を、これからの二人の未来のために使ってくれた。
その結果。
彼の傷の抜糸が終わる頃には、婚約が済み、新居の目途が立っていた。
会社には、乗り換えなしで、三十分で着く都心の一等地のマンション。駅前築浅の高層マンションを、まさかのローンなしでの一括購入。健斗が会社でエースと言われていることは知っていた。社内でも何度も表彰されていたけど。ここまでとはと、もうビックリ。
さらに「完治しました」と医者からお墨付きをもらった時には、新居に引っ越しをしていた。収納の多い物件だったので、家具を揃える必要がないのが、とても楽だった。
引っ越しと同時に入籍を済ませ、年が明ける時には、私は黒川杏奈と言う名前に変わっていた。
仕事の方は、新年度から新規事業が動くため、年明けからプロジェクトチームが発足。リーダーになった私は、スケジュールを立て、予算を組み、必要なリソースの確保など下準備をすすめている。
忙しい日々だが、健斗は二人の時間を大切にするため、家事代行サービスを使うことも提案し、私の負担を減らしてくれる。そこはもう、心から健斗に感謝だ。
ただ、その分、浮いた私の時間は……。
「杏奈様。今日は一日。もうベッドから離しませんから」
「え、でも、朝食は?」
「この世界は便利ですね。スマホ一台あれば、どんな料理も家まで届けてもらえるのですから……」
ヴィンスになった健斗は、こちらも有言実行で溺愛が止まらなかった。
しかも二人きりの時は、ヴィンスで通すと決めている健斗は、ベッドを……天蓋付きにしていた。さらに照明はシャンデリア。壁にはヨーロッパの景色を描いた絵画。
つまり寝室だけ、中世西洋風というこだわりよう。
でも私を一番ドキドキさせるのは……。
隊服!
この世界に戻った時に来ていた隊服を着て、マントをまとい、ヴィンスにチェンジした健斗に、お姫様抱っこをされると……。
気持ちはもう「ヴィンス隊長!」になってしまう。
しかもあのアスリート並みの引き締まった体は……。
細マッチョ万歳! 溺愛万歳!
もう幸せで、幸せでたまらない。
企画書のアイデアを盗まれ、階段から突き落とされ、恋人は身を挺して私を守ろうとして……。私は聖女として異世界に召喚され、健斗は異世界に転生していた。
すべての元凶はあの女。
ただ、神様はちゃんと見ていたのだと思う。
今頃あの女がどうなっているのか……。
正直、どうでもいい。
もう、思い出したくもない。
悪魔のような人間はこの世の中に沢山いる。
そういった悪人には関わらない。付き合わないに限るのだから。
今の幸せが続くように。
もうあの女のことは忘れることにした。
◇
ヴィンスが書いた手紙は、国王の元に届けられた。
近衛騎士団の隊長であるヴィンスは、魔物討伐でも活躍し、国王からの信頼も厚い。彼からの情報は信頼できるもの。国王は迅速に動き、聖なる力に目覚めたと主張する女を捕らえた。
本当に聖なる力に目覚めたと言うのなら。
その力を示して見よ、と国王は命じる。
女は青ざめ、よく分からない言い訳を並べた。
これを見た王太子は、自分を騙したのかと問い詰める。
嘘ではない、と女は主張するが……。
女は牢にいれられ、そこに下男がやってくる。
オイルを使い、女の左手をこすり続けると……。
聖女の証である紫の薔薇は、いびつな形へと変わって行く。
それはすぐ様、国王と王太子に報告された。
こうなるとこの女が二枚舌であることが明白となり、もう一人の聖女を送還したことが大いに問題となる。神殿付きの魔術師は全員、国外追放。つまりは魔物がいる聖域外へ追い立てられた。
さらに国王と王太子は、隣国と交渉した末、隣国で新たに召喚された聖女を自国へ迎えることに成功。同時に。
あの二枚舌女は国外追放になった。
王太子に話していた身の上話も作り話。王太子と一晩を過ごしたというのも嘘。勝手にもう一人の聖女を送還。ブラウン王国を牛耳ろうとしていることも発覚した。もはや情状酌量の余地はない。
国外追放……すなわち聖域の外に出た瞬間。
二枚舌女はオーガにさらわれた、いやゴブリンに襲われた、トロールのこん棒でつぶされた……など様々な憶測が囁かれた。いずれにせよ、自己中で身勝手な女は、想像を絶する不幸な最期を遂げたことは、間違いない。
~ fin. ~
悪女に全てを奪われた聖女―絶体絶命からの大逆転― 猫好き。 @aquaAcolor
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