第4話 謁見
「ルートリ……」
夢で会った時と変わらない姿で浮遊しているルートリを、私は呼んだ。けれどルートリは、玉座に向かって鋭い視線を向けて言い放つ。
「全く、心配して見ていれば、想定内の反応でガッカリしたよ。それからリリア、済まなかったね。無理なことを言って」
「いいえ、大丈夫です。それに今から言おうとしていたところでしたから」
「そうなのかい? 私にはそんな風に見えなかったけど?」
私に向けられていた優しい眼差しが、再び鋭くなって玉座にいるお父様たちを射抜く。案の定、お父様たちの表情に緊張が走り、私は咄嗟にルートリの関心を引く言葉を口にした。
「は、恥ずかしかったんです。ルートリが私の心配をしてくれていたとはいえ……わ、私の結婚相手を探せ、だなんて自分の口から言うのは」
「うん。でもちゃんと言えたね。偉い偉い」
そう言いながらルートリは私の頭を撫で、場は一気に和やかな雰囲気に……残念ながらならなかった。むしろ、騒然となる。
「リリア王女殿下の結婚相手……!」
「確かにそろそろお考えになられてもおかしくない年頃だが……」
「相手は限られてくるぞ」
周りの貴族たちが口々に言うのも分かる。誰が精霊の愛し子を貰いたいと言うのだろうか。現に今、小姑のようにルートリが現れているのだ。
皆が臆する中、玉座に座るお父様とお母様はただ静観するのみ。
恐らく、下手を言ってルートリの怒りを買いたくないのだろう。嫌われていることは、先ほどの行為で自覚しているはずだからだ。それはここにいる貴族たちも同じこと。
けれど果敢にも手を上げる者がいた。
「その大役、このラーキンズ公爵家が引き受けてもよろしいでしょうか、夢見の精霊ルートリ様」
「お前は……その瞳の色。なるほどな。決めるのはリリアだが、話は聞こうか」
「ありがとうございます」
アルデラーノ・ラーキンズ公爵。
髪の色は水色だけど、瞳は薄紫色をしている、中年の男性だ。代々、ルートリと契約をしている家門なだけに、どちらか一方の色を継承しているのが特徴だった。
だから、私と同世代のラーキンズ公爵令嬢は、同じエメラルドグリーン色の髪をしているが、その下の妹は、父親であるラーキンズ公爵と同じ瞳の色と、公爵夫人の金髪を引き継いでいた。
そして先代に当たるルートリの愛し子は、ラーキンズ公爵の今は亡き妹君。
噂では、王城で蔑ろにされている私を、養女として引き取りたいとお父様に掛け合ったらしい。が、幾度となく門前払いをされていたとか。
だから今回の件はチャンスだと思って、手を上げたのだろうか。
ラーキンズ公爵家には、息子がいないのだ。私の結婚相手を見つけた暁には養女に、と思っているのかもしれない。
形ばかりの養女であれば、二人の公爵令嬢との軋轢も生まないだろう。そう安易に考えていたのに、予想をはるかに超えた展開が待っていた。
「お許しをいただけるのでしたら、リリア王女殿下を我がラーキンズ公爵家に迎え入れたいのです」
「しかしそなたの家には、リリアと結婚できる息子がいなかったと思うが」
「はい。国王陛下の仰る通り、我が家には息子がおりません。ですから、私めが……」
「そなた! 公爵夫人がいるのにリリアと結婚できると思っているのか!」
普段、私を蔑ろにしている癖に、お父様が声を張り上げた。まるで、娘を大事に想っている父親のような振る舞いだが、本音はルートリへの配慮なのかもしれない。が、お父様を内心、褒め称えた。内容が内容なだけに。
お母様は扇子で口元を隠していて、その心境は分からない。
「妻とは離縁します。ラーキンズ公爵家として、ルートリ様の愛し子の存在は絶対です。妻も分かってくれるでしょう」
「分かる分からない、の問題ではないと思います」
「ノエ・パルディア公爵令息……発言の承諾も得ていないのに、失礼ではないか」
四大公爵家の一つであり、最前列にいた父親、パルディア公爵を押しのけてノエが姿を見せた。
父親と同じ銀髪の奥に見える、つり上がった緑色の瞳でラーキンズ公爵を見据える。ただそれだけなのに、まるで睨んでいるように感じた。が、それは私の勘違いではなかったらしい。
「承諾は得ましたよ、ルートリ様に」
「あぁ、先ほど許可した」
場がさらに冷たくなったからだ。
こ、怖い……。
「何故ですか、ルートリ様」
「いくらなんでも、そなたとリリアでは無理がある。人間社会に詳しくない私でも分かるぞ」
「それに、ラーキンズ公爵夫人の怒りが、リリア王女殿下に向かったらどうするんですか? 責任を取れるとでも?」
確かにノエの言う通り、王城から出ても、さらなる嫌がらせが待っているような気がした。
「わ、私もラーキンズ公爵の提案には乗れません」
「リリア王女殿下……」
「いつも何かと気にかけてくださっていることには感謝いたしますが、それよりも奥様をもっと大事になさってください」
あと二人の公爵令嬢も。同世代の母親なんて、想像しただけで哀れでしかない。いくら私がルートリの愛し子であっても、ラーキンズ公爵家の評判はガタ落ち。
終いには、家庭崩壊の未来しか見えてこなかった。それでもラーキンズ公爵は引き下がる意思はないらしい。さらに前へ出た。
「では、どなたが引き受けるというのですか⁉」
貴女のような人物を、という副音声が聞こえてくるようだった。思わず唇を噛むと、今度はノエが手を上げる。
「僕が立候補してもよろしいですか? リリア王女殿下も、見ず知らずの相手よりも、幼なじみの僕の方がいいと思うのですが」
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