Track.1 憎まれそうなニューフェイス①
TV NETの開設50周年記念の特番で企画された武道館の24時間ライブをきっかけにして見事再結成を果たしたトリケラトプスだったが、このバンドが解散する原因ともなったギタリストである
「やっぱり、新しいギタリストの加入は急務みたいだな」
トリケラトプス再結成の前、ドラムの
「新しいギタリストか……しかし、前島にひけを取らない位の実力があるギタリストなんて、果たしているかね?」
既にビールジョッキ三杯を飲み干し、勝手に店の棚から新しいバーボンの瓶を取り出しながらベースの
「言っとくけど、この間の黒田みたいなのは御免だからな」
「よせよ、せっかくの酒が不味くなるだろ!」
『黒田』の名前を聞いて、森脇が吐き捨てるように言い放った。
24時間ライブの時には危うく黒田の事を殴り殺しそうになった森脇だが、もちろんあれくらいで森脇が黒田を赦した訳ではない。今度奴と顔を合わせる事があれば、次こそぶち殺してやらなければ気が済まない。
「とにかく、このままって訳にはいかない。早いとこ何とかモノになりそうなギタリストを見つけないとな」
森脇にしても、今のようなボーカルとギターの兼任では、以前のように歌う事に神経を集中する事が出来ない。全盛期のトリケラトプスのステージと比べれば、今の三人編成での演奏は、ボーカルもギターも両方が中途半端で、とても完全復活とはお世辞にも呼べない。
「しかし、ギターといってもなぁ……」
虚ろな表情で、武藤が天井を見上げながら呟く。確かにそれは簡単な事では無い。トリケラトプスほどのクラスのビッグネームの正式なギタリストともなれば、ただ単にギターが弾ければいいという訳にはいかない。トリケラトプスの名前に見合うだけの演奏技術と音楽センスを持ち合わせていなければならない。
ましてや、前任者はあの日本一の天才ギタリストの異名を持っていた前島晃である。加入直後には、必ず従来のファンから前島のギターワークと新加入者のギターワークが様々な観点から比較され、SNS等で興味本位に書き立てられるようになるのは火を見るよりも明らかだろう。
暫くの沈黙が続いた後に、俯きながら顎に手を充てて何かを思案していた森脇が、膝を叩きながら顔を上げ、独り言のように呟いた。
「よし、オーディションでもやるか」
「オーディションか……それは妙案だな」
膝を叩いて森脇が出した提案に、武藤と森田が頷いた。最初からトリケラトプスの正規ギタリストという条件で公募をすれば、それなりに腕に自慢のあるギタリストしか応募してこないのでは? という期待と、オーディションで実際に生で演奏を見て選考が出来るという事から、森脇のアイデアは暫く音楽から遠ざかり最近活躍しているギタリストをあまり知らない彼等にとって、『渡りに船』の提案だと思われた。
「オーディションもいいけどさ、それとは別に一度本田さんにも相談してみないか?」
森脇の提案には賛同しながらも、森田がもう一つの案を云い出してきた。
森田がいう『本田さん』とは、TV NET音楽部門のプロデューサー『
「本田さんか。確かにあの人ならば、誰かいいギタリストを知っているかもしれないな」
長年テレビの音楽番組プロデューサーをやっている本田が、ミュージシャンの才能を見る目には定評がある。その点については、森脇を始めとするトリケラトプスのメンバーも異論は無かった。
* * *
「確かに、新しいギタリストの加入は必須の課題でしょうね」
翌日、TV NETの来客用応接室でトリケラトプスのメンバー三人は、本田に腕のあるギタリストについて誰か心当たりはないか相談していた。
「24時間ライブの時、本田さんには二十人程のギタリストを撮影した動画を見せてもらったけな」
「そうですね。あの時はあくまであのライブに参加出来るギタリストという要件で探したメンバーでして、正式にトリケラトプスのメンバーに加入するとなれば、話は変わってくると思います」
当然の事だが、その場限りの助っ人ギタリストと正式な新加入ギタリストとでは、その意味合いは全くといっていい程違う。 それはバンド側にとってもそうだが、加入する側の問題が大きい。その場限りのライブであれば、当日の代役のスケジュールさえ合えば問題はないが、新加入ともなれば、そのギタリストはそれまで所属していたバンドから完全に脱退していなければならない。
「腕のいいギタリストは、大抵どこかのバンドで活躍しています。優れた演奏技術がありながらどこのバンドにも所属していないギタリストというのは、たまたまどこかのバンドを抜けたばかりか、あるいはどこのバンドからも敬遠される問題を持ったギタリストという可能性があります」
「なるほど、黒田明宏みたいにな」
「おい! アイツの名前は出すなって云っただろつ!」
黒田の名前を聞いた途端、森脇が過敏に反応する。その様子を見た本田が更に付け加えた。
「例えばそういったリスクも考えられるという事です。演奏技術も高くてどこのバンドにも所属していないギタリストというのは、そう簡単に見つかるものではないでしょう」
「 ……………… 」
暫くの間、辺りには重い沈黙が広がる。と、その沈黙を破ってその時応接室に同席していた
「あっ、そういえば! 」
「なんだよ、いきなりデカい声出して」
「わたし、もしかしたら知っているかもしれません。凄腕のギタリスト」
【カクコン10応募作品】Hit Prade 2~新たなる旅立ち~ 夏目 漱一郎 @minoru_3930
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