【カクコン10応募作品】Hit Prade 2~新たなる旅立ち~

夏目 漱一郎

 プロローグ

「陽子さん、次は何歌います?」

「そうだなぁ~、今度はノリのいいところで『椎名蜜柑』とか……」


 TV NETから程近い渋谷でも有名なカラオケボックス『センターステージ』。その日、TV NETの音楽部門ディレクターの初音陽子はつねようこは、後輩のAD吉田真紀よしだまきと二人でカラオケを楽しんでいた。


「じゃあ、真紀ちゃん先に選んでいて。私ちょっとトイレに行ってくる」


「わかりました。じゃあ、アタシは『abo』でも練習しようかな~」


 通常カラオケボックスは各部屋の壁やドアが防音施工されているが、完全防音と言う訳ではなく、通路に出るとそれぞれの部屋の歌い声は僅かに漏れ聴こえてくる。陽子達の10号室の隣、11号室からはアニソンメドレー、その隣の12号室からは昭和の演歌、そして向かいの21号室からは最新のアイドルソング……というように、各部屋で盛り上がりをみせている中、21号室の隣の22号室からは歌声とは違う音が漏れ聴こえてきていた。


「えっ何これ、エレキギターの音?……」


 歌声ともカラオケの音源とも違う、エレキギターの生演奏と思われる音源が、通路を歩く陽子の耳へと届いてきた。スタジオでもないこんなカラオケボックスにギターを持ち込んで演奏するなんて、一体どんな人間が弾いているのだろうと興味を抱いた陽子は、無意識にその音のする部屋へと近付いていた。


「 ……………… 」


そのとてつもないギター演奏を聴いて、陽子は息を飲んだ。


 22号室のドアに付いているガラス窓に顔を近づけて中の様子を窺うと、背中向きなので年齢も性別も判らないが、誰かがこの音源と思われるギターを弾いているのが確認出来た。テレビ局の音楽部門ディレクターである陽子は自分でギターを弾く事はないが、普通の人に比べれば生演奏を観たり聴いたりする機会は圧倒的に多い。そんな彼女でも、かつてこんな凄まじいギター演奏は聴いた事が無かった。……いや、本当は一度だけあった。あれは、忘れもしない2024年の夏に行われたTV NETの24時間ライブ……その最後トリを飾った日本最高のロックバンド。だった。



          *     *     *



♦この作品を手に取って下さってありがとうございます。この作品は前作

『Hit Parade~奇跡のライブステージ~』の続編になります。この作品の内容を十分に把握する為に前作を読んだ事が無い読者様は、一緒に前作を読んでみる事をお勧めします。 https://kakuyomu.jp/works/16817330669181021663


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