第56話 俺たちのやり方
「夏の終わりだし、綺麗な海を見にでも行くか」
「海! だとしたら沖縄!」
原稿用紙を床に投げ捨て、その代わりにタブレットとスマホを机の上に置く。
「綺麗な海を見た方が、俺たちの汚い心も浄化されそうだしな」
「それ、余計な一言だよ」
沖縄のことについて真剣に調べながらも、プクっと頬を膨らませる未奈。
「沖縄ねー。車が運転できれば島中周れたんだけどな」
『沖縄旅行ならレンタカー必須!』という見出しのネット記事を見せてくる未奈。
確かに、意外にも広い沖縄をバスなどで巡るのは難題かもしれない。
車があれば、念入りに計画を立てなくても余裕で過ごせそうだが、免許すら取れない俺たちはそうはいかない。
「行く場所絞るしかないよな」
「水族館は絶対行きたいし、オシャレなカフェにも行きたい。インスタ映えしたい」
「発想がJKなんよ」
「正真正銘のJKですが?」
「最強JKだよ」
メンタル的にも、本当に最強JKだよ未奈は。
それにしても、未奈との旅行は何年ぶりになるのだろうか。
家族ぐるみで旅行へ行ったことは何度かあるが、それは小学生の頃の話。
単純計算5年ほど前の話になる。
その頃と比べて、俺たちも成長している。
二人でどこへだって行けるし、金銭面にも少し余裕がある。
しかし、行けて数日の旅行だ。
ちゃんと計画を立てて、無駄のない旅行にしたい。こういうのは得意な俺だ。
「今日は夜通し計画を立てるぞ」
と、意気込む俺に、
「あれ? さっきまで反省文反省文~って言ってたのはどうしちゃったの?」
未奈はクスクスと口元を隠しながら笑ってくる。
「んなのは時間があるときに書けばいいんだよ」
「へぇー? さっきまで真面目ぶってたのは演技だったのかな」
「俺が不真面目なことくらい知ってるだろ?」
「うん。私が一番知ってるよ」
俺に向けられた笑顔は、俺がこれまでずっと見て来たもの。
それを見るだけで、笑顔がこみ上げてきて、安心する。そんな笑顔。
この笑顔を絶やさないために、俺は未奈の彼氏になったんだ。
俺が何をしても過去は変わらない。
変わらないからこそ、過去なんて思い出さないくらいに楽しい毎日にしてあげる。それが俺の役目だ。
「旅行、楽しみだね」
「そうだな」
初めてじゃない幼馴染と、初めてなことを。
それが俺たちのやり方だ。
俺の幼馴染、初めてじゃないってよ。 もんすたー @monsteramuamu
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