第55話 不法侵入はお互い様

『とりあえず、今から蓮馬の家行っていい?』


『今の話の流れでなんでそうなる?』


『ほら、反省文もアイデア出し合えばすぐ終わるかなって。今日中に終わらせて、その後は旅行の計画立てよ』


 やる気に満ち溢れたような口調で言う未奈であったが、絶対に反省文なんてしない。言い切れる。


 最初のうちは書いているだろうが、徐々に旅行の話に脱線して、最終的にはその話しかしない。


 もしくは、親がいないことで起きる確定演出。また時間を忘れて夜までシてしまうかもしれない。

 とは言ったものの、未奈に会いたいのは事実。


 楽しい方に流されるのは人間の心理ってものだ。


『ちゃんと反省文するんなら来ていいぞ。何をするにもそれが最優先だ』


『やったね。すぐ行く』


 俺も未奈に甘くなったな。ただの幼馴染の頃は嫌だと一言だけ返してゲームしてたときだってあるのに。

 やはり、彼女には甘くしたくなるのが男というものなのか。


 いやいや、ダメだぞ俺。


 今日は何を言われようが反省文をするのが最優先だ。

 誘惑されても流されてはいけない。

 なにせ俺たちの将来がかかってるんだからな。


 そんな考え事をしているのもつかの間、玄関からガチャリとドアの開く音が聞こえると、階段をドタドタと駆け上がる音が響いてくる。

 刹那、バっと俺の部屋のドアが開くと、


「原稿用紙しか持って来なかったけど大丈夫かな!」


 パぁっとした笑みを浮かべる未奈が部屋の中に入ってくる。

 電話越しになんかガサゴソとしてると思ったら、移動してたのかよ。

 それに原稿用紙以外にも、せめて筆記用具は持ってこような? 俺に借りる気満々じゃねーか。


 なんで満面の笑みで入ってこれるのかな。

 それに勝手に入っていいとは言っていないぞ、俺は。


「不法侵入。てか、鍵閉まってたろ」


 未奈に細い目を向けながら、原稿用紙などを持ってーテーブルへと移動する。


「鍵なら庭にある予備の鍵で開けておいたよ」


「そっか、場所知ってるのか……」


「あと不法侵入って、蓮馬も私の家によく勝手に入ってるよね? 私が家に居るときだけど」


「ま、お互い様か」


 クスっと、俺たちは笑う。


「それでそれで? 旅行どこ行こっか」


 対面に座ってくる未奈は、原稿用紙をほっぽり出しにして、目を輝かせて俺に聞いてくる。


「おい、反省文を先にやるっていう約束はどうした?」


 トントンと人差し指で机を叩く俺に、未奈はポカンとした顔を浮かべて、


「え、約束? そんなのしてないけど」


「さっき電話でしただろ――って、聞いてなかったか」


「蓮馬がいいよって言う前に準備してて、適当に返事したからね」


 テヘっとお茶目に舌を出す。

 はぁ……これだから先に行動に移す人は……。


 この調子だと反省文なんてできないぞ? いやさせるんだ、絶対に。

 二週間のあると余裕こいて、結局最終日まで一度も手を付けてないみたいなのはごめんだ。


 夏休みの宿題よりも大切なんだこれは。

 でもまぁ、計画を立てておいてモチベーションを上げておいた方が、反省文もすぐに終わるか。


 結局、自分にも甘い人間な俺であった。


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