第7話 スポンサーの満足

 俺は報告書に路上喫煙者とやらせ配信者がいかにクズだったかを書いた。女と子供はその犠牲になったことも書いた。

 書いてて、女と子供を俺が見殺しにしていることに気づいた。全然助けようとしてなかった。俺はそこで、「やめろ」「助けてやってくれ」「そんな……あんまりだ……」という自分のセリフを追加した。助けようとしたが助けられなかったという話に作り替えた。そこから「てめえら許さねえ」という怒りを書き、男2人を殺すストーリーに仕立て上げた。

 まあまあうまくいった。

 農具の並んだ倉庫にはシャベルもあった。本当は工作機械があれば穴を掘るのが楽だったんだがさすがにそうはいかなかった。

 報告書には書かなかったが、実際には男2人に炎天下で4人分の墓を掘らせたので俺は苦労しなかった。真夏の穴掘りは重労働だ。俺自身はやってられない。2時間後にすべての労働から解放されるのが確定されている奴がやった方がいい。掘ったあとのすべての人生の中で汗をかくこともないし、水分補給も必要ない。二度とやらずに済むのだから一度くらいはやらせてもいいだろう。

 このような暑い日に死体を埋めると、臭いもほとんどせずにあっというまに分解されてあとかたもなくなる。骨は残るがこのあたりには他の骨もたくさんあるので誰が誰を殺したかは優秀な大阪府警でも特定できない。

 日も落ちてきた頃、俺はしょうがないので4つの死体の上に自分の手で土をかぶせていった。生きている人間がやらなくちゃいけないことだ。しかし汗だくになる。もうちょっと効率を上げられる気がした。男2人のうち1人を残して、そいつに埋めさせた方が楽だった。次の機会があったらそうしよう。

 俺は全部埋めたあと、日が落ちて真っ暗になり、通りの街灯と自動車の明かりが辺りを照らす中で、自分の煙草に火をつけた。

 汗でシャツが背中に貼り付いていた。ふーっと煙を吐く。ビールが飲みたい。俺は地面に刺したスコップに体重を預けてうなだれていた。全身が土っぽいのでビールの前にどこかの銭湯に行くことにしよう。

 被せて変色している土——街の明かりの中でも境界線は見えていた——を見ながら、路上喫煙とコンビニへのクレームを俺の前でやったばかりに、こうやって肥料みたいになっている人間のことを考えた。俺は肥料にしたかったわけじゃない。こういうことをすると賞金がかかり、こういう奴をこらしめることに金を払う奴がいるから殺されるのだ。植物を育てたいとは俺も思っていない。

 俺は腰を上げた。シャベルを引き抜いた。肩に担いで倉庫に戻す。

 倉庫の前には最後に乗ったノアが停まっている。これも処分しなくてはいけない。処分も必要経費として誰かが金を出してくれるはずだ。あてはある。そのためにはまた奈良に移動しなくてはならない。俺はノアに乗り込むとエンジンを始動させ、シートベルトを締め、ヘッドライトを点けた。前方が明るくなるかわりにほかの地面は真っ暗になった。埋めた場所はもう分からない。俺は砂利の音をさせながら車をスタートした。

 スマホを見ると安倍晋三の死亡が確認されていた。身代わりの容疑者も捕まっていた。報酬も振り込まれていた。路上喫煙の賞金より安い。ネットワークでは本当の犯人を名乗るなりすましが溢れていた。誰が本物か分からないので適当に分配したらしい。誰も本当の証拠など出せないからしょうがない。その中でも俺にいくらか振り込まれたのは、俺の普段の仕事ぶりが評価されたからだろう。ありがたいことだ。報告書ではもっと細かいところまで書いてスポンサーに満足してもらおう。実際には銃撃は致命傷じゃなくて、病院への搬送時には生きていた。医者の変装をして潜入した暗殺者がとどめをさしたということにすればもっと盛り上がる気がする。警察はもちろん真相を発表していない。事実は巧妙こうみょう隠蔽いんぺいされている。そういうことにしよう。

 県道は明るかった。他の車も多いので夜のドライブでも不安はなかった。

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スポンサーの満足 浅賀ソルト @asaga-salt

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