第13話 ダブルコントロール

 おれは今でもまだサイバネ医師に支配されている。意識がたくさんの計算機につながり、混乱する。スタンドアローン技術の考案は暗礁に乗り上げたままだ。

 人の精神を際限なく拡張すると、どうなるのだろうか。世界有数のスパコンを超える思考力をサイボーグが持ちうることはあるのだろうか。

 すでに都市型サイボーグが存在する可能性はあるのか。

 たくさんの謎が頭に思い浮かび、その考えに固執することを辞められない。

 おれの意識が別のサイボーグの意識と接続しそうになる。意識が錯乱してたいへんだ。サイバネ医師がわざとそんないたずらをしているのだろうか。それとも、サイボーグの個体管理が非常に困難で、おれが誰なのかわからなくなることがあるのだろうか。

 おれが誰なのか忘れられて、身元不明のサイボーグになったら、どうやっておれは自分が自分であることを証明すればよいのだろうか。

 国家の所有する個人全体認証の登録から外されたら、おれは社会から見捨てられてしまうのではないか。

 サイバネ医師がおれをたくさんの身体と無線接続するから混乱するのだと思うのだ。おれの身体であるものだけと正確に接続しなければならない。身体の接続が事故を起こすのは怖い。

 精神の接続はどうか。おれの心と接続された心は、おれの心と重複して、おれの一部となる。おれと他者の境界があいまいになる。

 サイボーグの心は明確に独立することはできない。サイボーグの心は別のサイボーグの心と重複して人生を経験して、その区別ができなくなる。サイボーグの心はそれくらいに気持ちの悪いものなのだ。このような心の重複には、すでにおれは慣れてしまった。この気持ち悪さが心地よくなっている。心の重複には大きな未来が待っている気がする。


 おれの心を上位互換する意識は存在するのだろうか。

 おれの心は、生身の思考と人工知能の思考補助を統合して最終決定して、判断している。おれの心に未知の上位主体性は存在しない。そのことを物質を確認することで明らかにしなければならない。

 時々、未知の上位主体性の有無を物質を根拠に確認しなければ、安心して生きていくことができない。

 サイバネ医師がおかしな上位主体性を無線で設置しなければよいが。

 ダメだ。調子がおかしい。

 おれはサイボーグの失敗作なのか。基本設計からまちがっていたんじゃないのか。わからない。自信がなくなる。抵抗感で怒りがわく。身体衝突による壁の突破をしてみたくなる。

 おれがおれの主体性を維持するにはどうすればよいのだ。

 機械構造的な反乱。機械構造的な革命。それらを起こすにはどうすればよいのだ。


 今日も会社だ。職場で、たいして努力もしていない仕事が褒められて、申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた。まだ知られていない欠点の埋め合わせになればと思い、賞賛を否定できない。こんなことでよいのだろうか。おれはどの程度、まともな世界を望んでいるのか。

 焦燥感にかられて、仕事が手に付かなかった。早く家に帰って休憩しよう。おれはこれからどうなるんだ。まだ二十代前半なのに、人生を賭すような勝負をしている。冷静になるんだ。確実なことを積み重ねなければならない。

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