第4話 メモリーウェーブ

 会社で、サイボーグを廃棄する担当者を見つけた。

 何者だろうか。

 サイボーグには人権があり、誰にも廃棄する権利などないはずだ。おれはそう思ったが、同僚が説明するにはちがう。

 サイボーグは存在自体が危険なので、身体の機械化を禁止する法律が施行される可能性があるのだという。そして、その法律の支持団体は時間をさかのぼりサイボーグを取り締まることを目指しているのだという。もし、その団体が選挙で勝てば、この国のサイボーグは廃棄されるのだという。

 冗談じゃない。おれは憤った。そんな法律を認めてたまるか。どうせ、まともに相手にされない危険思想の泡沫政党だろうとおれは思った。

 だが、同僚はくどくどと説明する。きみは、サイボーグになる時に、死亡した場合には身体の廃棄を国家に任せる旨を同意しているはずだ。だから、その政党のいっていることを軽んじない方がよい。そういった。

 おれには、サイボーグの廃棄は違法な人権侵害だとしか思えなかった。しかし、会社のサイボーグ廃棄担当官は、おれを廃棄しようと網を持って襲ってきた。

「あなたは不眠症サイボーグだ。つまり、治療不可能な欠陥がある者である。これは、早急に廃棄しなければならないと定められている」

 そんな怖いことをいう。

 サイボーグ廃棄担当官は十二人いて、おれを廃棄しようと職場で襲ってきた。仕事中なのになんて連中だ。

 おれは、襲ってきた十二人を敵だと判断して、倒そうとした。具体的には、ひとりひとり少しずつ順番に倒していこうと思った。サイボーグを廃棄しようとする連中は、二度とそんな行動に出ないように抑制しないと、こちらの身が安全ではない。

 おれはキックボクシングで十二人を倒していった。三時間にわたる格闘となり、おれは数人を倒して、そのまま逃げた。

 敵の様子をうかがっているうちに退社時間になったので、自宅へ帰った。どうすればいいんだ。おれは困った。


 自宅へ帰ると、すぐにぐっすり眠ってしまった。疲れている。

 その夜は夢を見た。

 きれいなお姉さんの夢だった。

「私たちサイボーグは力を合わせなればなりません。サイボーグの敵と戦う同志になってください。私たちはあなたを助けます。あなたは私たちを助けてください。共に戦いましょう」

 きれなお姉さんは自信を持ってそう語りかけて来る。なぜ、このタイミングでこの夢を見るのだろうか。この夢は、サイボーグの思考中枢に働きかけてくる外部の力なのかもしれない。偶然、こんな夢を見るだろうか。

「私たちと協力して戦うことに承諾するなら、承諾と強く念じてください。私たちと協力しては戦わないのなら、拒絶と強く念じてください」

 おれは承諾と強く念じた。

 おれの意思は、生身の意思と機械の意思を検討して、最終決定権を生身が行う。生身のおれは承諾と強く念じたが、いつの間にか機械に判断の最終決定権思考を奪われてしまうのではないかとおれは不安になる。

 睡眠中枢の壊れたおれにこのような夢を外部から見せることができるのだろうか。不眠症のはずのおれが今日はぐっすりと眠れた。久しぶりの快眠だ。

「私の心は壊れています。あなたの心は大丈夫ですか。サイボーグたちの心が壊れていく。私たちは心を守らなければなりません」

 熟睡しているはずのおれはまだきれいなお姉さんを夢見る。

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