【短編】ツンデレ殺し

夏目くちびる

第1話

「あんたのことなんて、全然好きじゃないんだからねっ!?」

「はぁ、そうすか」

「たまたまオカズが余っちゃっただけだからっ! あんたのために作ってきたワケじゃないからっ!」



 顔を真っ赤にして叫ぶ少女と、ポカンとした様子で彼女を眺める少年がいる。少年は、好きではないという少女から手渡された弁当を手に戸惑うことしか出来なかった。



「だったら、別にいらねぇけど」

「……え?」

「家で食えよ、今日の夕飯にすりゃいい」

「で、でも、 もう持ってきちゃったし。放課後まで保たないわよっ!」

「なら、友達と食えば? 本当は食わしたくねぇっつー女の飯なんて、俺だって食いたくねぇよ」



 そして、手渡された弁当を突き返してポケットに手を突っ込む少年。そんな彼を見て、少女はワナワナと唇を震わせることしか出来なかった。



「あ、あんた……」

「つーか、前から言いたかったんたけどよ。勝手に絡んできて好き勝手悪口言うのやめてくれねぇ? 普通に傷つくから」

「き、傷ついてたの?」

「当たり前のように人格批判とかしてくるし、幼馴染とはいえ超えちゃいけねぇラインってあるだろ。かと言って、こっちが言い返そうとするとぶん殴ってくるしでロクすっぽ話にならねぇしさ」



 少年は、心底疲れたようにため息を付いて少女を見下ろした。



「大体、意味わかんねぇんだよな。別の女子と話せば狂ったみてぇに怒ってくるし、ちっと授業サボっただけでガタガタキレ散らかすし。俺がなにしたって、別にお前に関係ねぇじゃん。挙げ句、急に一緒に帰ろうとしたり、弁当勝手に持ってきたりしてよ」

「それは、違くて。えっと……」

「キメーよ。つーか、こえぇよ。逆の立場になってみて、男が同じことしたらどう思うよ。不気味で仕方ねぇだろ。DV気質の幼馴染がたまに甘い顔したらさ。『金貸してほしいのかな』とか、そういうエクスキューズに身構えるのが普通の感性ってもんだろ」

「お金なんていらないわよっ!」

「でも、お前がやってることってそれじゃん。幼馴染だからって、何してもいいとか思ってんなよ。説教垂れる女なんてかーちゃんと担任の村越だけで充分だ。普通にウゼェから節介なんて焼くんじゃねぇよ」



 手からフっと力が抜け、突き返された弁当を床に落としてぶちまけても、少女は一歩も動くことが出来ない。



「……ふぅ、スッキリした。悪いけど、今のって全部が俺の本音だから。それじゃ」

「だめ、待っ――」



 手を伸ばしたが、少女は弁当に蹴っ躓き、おまけにオカズを踏んづけて滑り転んでしまった。少年のために朝早く起きて作ったハンバーグ。その破片が顔に付いたが、そんなことなど気にもせず、無情に遠ざかっていく彼の背中を見つめることしか出来なかった。



「……どうして、こうなっちゃうんだろ」



 きっかけなど無かった。むしろ、初めて会った時から好きだったような気さえ少女にはしている。そして、説明しようのない感情に苛まれ、感情をコントロール出来ないと感じたのは少年を好きだと知ってしまった瞬間であった。



 彼女が気負いしているのは、今日訪れた結果ではなく、彼を前にすると裏腹な言葉や態度ばかりを取ってしまうことだ。加えて、高校生なってから、周囲には明らかに恋愛格差というモノが生まれたように感じている。



 具体的に言うのなら、それはあざとさだった。



 素直に男子に甘える女子や、いいところを見せようとする男子の様子を見ていて、自分も同じように振る舞えたらいいのにと心から思う。反面、自分をコントロール出来ている彼らは、ひょっとして自分が少年を思う気持ちほど恋が強くないんじゃないかと悩んだりもした。



 だとしたら、本来はそんな中途半端な思いで恋を語るべきではない。しかし、そんな上手な人々が報われているのは確かであり、つまり自分が不器用なだけで思いの強さ自体に変わりはないのではないか。もしもそうならば、あたしが報われることなど決して無いのではないか。



 こうして悩んで手をこまねいているうちに、少年にアプローチする女子が現れたらどうしよう。なんてことを考えると居ても立っても居られず行動に移して、結果、今日までのやはり失敗を積み重ねてしまうのであった。



「15歳なんてそんなモンだろ」



 とある休日。



 歳の離れた兄に相談すると、なんとも簡潔で抗いようのない意見を突きつけられた。



「その15歳の中でも上手下手が分かれてるから困ってるんでしょ?」

「う〜ん。ぶっちゃけ、俺は人が影響される生き物である以上、人生ってどんな人間に会ってきたかの蓄積だと思ってるし。だったら、影響を及ぼしてくれるような人に会うのって運だし。そういうこと、考えても仕方ないと思ってるんだよなぁ」



 兄は、嘗て大学で哲学を研究していた、少し悟りを開いたような男だった。そして、どうやら兄と少年は少しばかり性格が似ているようだった。



「つまり、恋愛が上手な人間に会ってこなかったから失敗してるってこと?」

「根源的な理由を解明すればね。でも、だからといってお前の悩みが解決するワケでもないのは分かってる。そもそも、哲学ってのは答えじゃなくて考えるための一要素でしかないしな」

「じゃあ、どうすればいいのよ」

「正直なところ、兄ちゃんはお前の挑戦する強さには敬意を持ってたりするからなぁ。取り立てて悪いと思うような部分って、あまり感じないんだよ」

「そういう慰めが欲しいんじゃないわよ」

「だったら、呼ぼうぜ。俺も久しぶりに会いたいし」

「……え?」



 そんなワケで、兄は少女の静止を片手で止めて例の少年に電話をかけた。



「よぉ、久しぶり。俺だよ、うん。……そうそう、ちょっと気晴らしに帰ってきたんだよ。……へぇ、そうかい。ところで、今日って暇か? ……あぁ、そう。じゃあ、遊びに来なよ。……どこに? いや、俺の実家に決まってるじゃんか。歩いて十秒もかからないだろ、隣なんだから。……うん、うん。わかった、それじゃな」



 少女は顔を真っ赤にして部屋の隅に縮こまったが、しばらくして少年がやってきた。リビングルームには兄妹だけ。どうやら、両親は家を開けているようだ。



 久しぶりに帰ってきたにも関わらずいないということは、特に連絡もなくフラっとご飯でも食べに来ただけなのだろうと、少年は世話になった近所の兄貴を見て思った。



「……で、なんで俺は呼ばれたの?」

「相変わらずウチの妹が不器用なようで、お前に嫌われたんじゃないかと泣きベソをかいていたモノだから」

「ちょっと!?」

「その辺のことを弁明する機会が欲しかったんだ、迷惑だったか?」

「ハッキリ言えば、ちょっと迷惑だよ兄貴。こいつ、本当に兄貴の妹かってくらい暴力的だし。そのポイントもめちゃくちゃファジーだし」

「そのあたりのこと、少しくらい察してやることとか出来るか? 幼馴染なんだから、見捨てるような関係でもないだろう」

「察してやることっつーか、こいつのやり方って幼馴染特有の何かなんだろ。多分」



 少女は、最早何も考えられなくなって息を止めた。反面、兄は実に面白そうにケラケラと笑っている。



「まぁ、分かりやすいっちゃ分かりやすいけどさ。それとは別にムカつくってのがあるから。俺だって一応、『あ、こいつ昔の手紙のこととか忘れられねぇのかな?』とか考えたりするし、その責任の一端だってあるとは思ってるよ」

「ほうほう」

「でもね。なんつーか、兄貴が昔言ってた『ツンデレ』って逃げだと思うんだよ」

「つ、ツンデレってなによ」

「お前のことだ、続けてくれ」



 兄に促され、少年は麦茶を一口飲むと再び口を開く。



「自分の弱さを認められないから、そうやって虚勢張って自分を大きく見せようとしてさ。でも、それって無意味じゃん。こいつが本当は泣き虫で甘えベタの甘えん坊ってことは、昔っから付き合いのある俺にはバレてるワケじゃん」

「がぁっ!! やめてよっ!!」

「にも関わらず、まるで『成長していい女になりました』みたいな雰囲気醸し出そうとするし。その割にはちっとも余裕は無いし。なんなら、怒りっぽくなって女の嫌なところばっかり表に出てきてさ。そんな奴、男だったら相手してらんねぇって兄貴なら分かるだろ?」

「まぁ、それがある意味正しいツンデレだからなぁ」



 少女は、完全に意気消沈して三角座りの腕の中に顔を埋めてしまった。



「というか、ここまで言われて悔しくねぇの? お前」

「な、なにがよ」

「散々っぱら言われて泣き寝入りなんてらしくねぇだろ。普段はイキってるクセに相手がキッチリ土俵にあがったら何も言えないってのも個人的に不快指数高いんだよ。お前ってどうしてそんなふうになっちゃったワケ?」



 きっと、気付いて欲しかっただけなのだと少女は思う。



 それは、ある意味で当たり前の感情だったのかもしれない。昔から一緒に成長してきた少年が、ある日を堺に自分よりもずっと大人になってしまったような気がして。そんな少年に追いつく為には、例え虚勢でも同じ目線に立ってみなきゃダメなのだと考えてしまって。



 けれど、結局のところ、虚は虚でしかない。本当の窮地に立ったとき、真剣の言い合いともなれば役に立ちなどしない。ましてや、少女には根本に少年への『嫌われたくない』という欲求があるのだから、裏腹な空回りの悪口と、互いに向き合って言う意見とではどうしても違ってしまう。



 そして、それを分かっていたから少年は先日まで何も言わなかっただけだった。対等でいようとした自分が、その実、最も不格好で逆効果な甘え方をしていただけなのだと思い知ると、少女はいよいよ泣き出してしまったのである。



「しかし、そんなに怒ってるってのは妙だな。なんかお前らしくないぞ」

「そ、そうか?」

「俺は、もうちょい穏やかで優し気な男だったと記憶しているぞい。少年、ここは一つお兄ちゃんに語ってみなさい」



 実際、そういう男だったから少女は少年に惚れたのだろうと兄は考えている。



「……兄貴には敵わねぇなぁ」

「本音をブチ撒けるというのは、なにもネガティブなことだけではないハズだ。人生の先輩としてアドバイスを送るけど、この問題で解消しておいたほうがいい」



 すると、少年は観念するようにため息を吐いた。



「こいつは、結局のところ俺を兄貴の代わりにしか見てないブラコンだってことに最近気づいてよ。だから、ムカいてんの」

「な、なにそれ。全然そんなことないわよ」

「あるんだよ。仮に無くても、そういうふうに受け取らせる態度をお前がとってんだよ」

「そんな言い方ないでしょ!?」

「実際、この前の喧嘩だって真っ先に兄貴に相談してるじゃねぇかよ。幼馴染だったらよ、普通は俺に直接文句言ってこねぇか? お前の部屋の窓開けて喚きゃ聞こえるじゃねぇか」

「高校生にもなってそんな恥ずかしいこと出来るかぁ!!」



 兄は、窓際に立って電子タバコをふかしヘラヘラと二人の言い合いを見ている。この光景を見て、なんだか実家に帰ってきたような気になるのは彼がずっと二人を見守っていたからなのだろう。



「大体ねっ!? あんたがいっつもいっつもあたしのこと心配させるからいけないんでしょ!? あたしだって怒りたくて怒ってるワケじゃないわよっ!」

「出た出た、その文句本当に嫌いだわ。仕事や子育てじゃねぇんだから、怒りたくないなら怒らなきゃいいじゃねぇかよ。お前、罰ゲームでもないのにバンジージャンプ飛べって言われたら飛ぶのかよ」

「そういうことじゃない! 手紙のこと覚えてるなら、あんたに分かってもらいたいって女の気持くらい、少しは察してみたらどうなの!?」



 突然の逆襲に、思わず言葉を失う少年。



「好きよ! えぇ! 好きですとも!! でも、もう十四年も一緒にいる男にどの面下げて素直に恋を打ち明ければいいってのよ!? それに、こんなに一緒にいたら家族みたいに考えちゃっても仕方ないでしょ!? 分かる!? あんたはお兄ちゃんの代わりじゃなくて家族だと思っちゃってるだけなんだからっ! 兄貴の代わりじゃなくて、お兄ちゃんと同じように接しちゃってるだけなんだからねっ!?」



 兄の顔を見る少年。兄が実に腹黒く笑う姿を見て、さてはずっと知っていたのに嘯いたな? と気がつく。彼は以前、少女の怒りっぽさについて相談したのだが、兄は面白いからという至極個人的な理由で『ツンデレとはそういうモノで他意はない』と念入りに刷り込んでいたのである。



「そもそもさぁ! こんなに一緒にいて他のクラスメイトと同じように扱うあんたこそなんなのよ! ちょっとくらい特別扱いしてくれてもいいでしょう!? よくもまぁ、こんなに情の湧かない男がいてくれたもんだと悲しくなったり!! いつからあんたの目にあたしが映ってなかったのかって勘ぐったり!! ……は、してないけど!!」

「妹よ」

「した! しました!! 凄く心配したし嫉妬もしました!! んもぅ!! とにかく! あんたが悪いんだからねっ!? 小さな頃の約束だけど、あたしは手紙を信じてるの!! それくらい好きな男がスッタモンダも無しに急に怒りの臨界点迎えてさ! メチャクチャに心抉ってきたら死にたくなってお兄ちゃんに相談するくらい当たり前でしょ!? 分かってんのかコラ!!」



 しかし、少年は兄へ責任転嫁をしなかった。ずっと騙されていた自分が愚かだったと恥を飲み、弁明したい気持ちをぐっと堪えて言葉を聞いた。黙って過去を思い出し、考えの至らなかったすべてに理由を見つけていった。



 この思慮深さこそが、彼の良さである。甘えベタで甘えん坊。そんな少女が恋をした理由も、きっとそこにあったのだろう。



「弁当作ってきたのは?」

「言葉や仕草じゃちっとも気づきやしないから、何かモノを送ろうと思っただけなんだからねっ!?」

「他の女子と喋っただけでキレ散らかすのもか?」

「キレてるんじゃなくて、何を話してたのか気になってただけなのに素直に教えてくれないあんたのせいよ!!」

「妙な態度とったあと、必ず俺と帰ろうとしたのは?」

「謝りたかっただけに決まってるでしょ!? ほんとバカなんだからっ!!」



 静寂。やがて。



「でも、それはそれじゃね? ネタバラシされたからって、だから好きになりますってのは無理だろ」



 少年は、やはりマジレスで返すのであった。



「えぇ……」

「蓄積の結果だ、恋に一発逆転なんてねぇよ」

「まぁ、弟殿は一途ですからなぁ。それこそ、浮気者など絶対に許さないくらい過激な純愛派だし」

「げっ、なんで知ってんだよ。兄貴」

「だって、お前の好きなエロ本っておっとり系の巨乳幼馴染モノばっかりじゃん」



 ……。



「は、はぁ!? なんで知ってんだよオメーっ!?」

「実は、小学生の頃からお前の深層心理に幼馴染萌えを刷り込んでいた。何を隠そう、お前には幼馴染萌えの情操教育を施してある。貸したラブコメ漫画どころか、小説ですらヒロインはみんな幼馴染だぞ」

「なにぃ!?」



 言われ、最近読んでいる推理小説のキャラクターを思い出す。主人公のバディは、確かに幼馴染だった。



「そして、お前のベッドの下のお宝の山に、俺は毎月一冊ずつ幼馴染本を紛れ込ませていた。その結果、お前は無意識に幼馴染を求めるようになったのだ」



 今度は、シークレットタブの検索履歴を思い出す。確かに、幼馴染という言葉は使っていないモノの、山のような動画の中から選んでいるのはいつも幼馴染ヒロインであった。



「弟よ。お前の中に眠る幼馴染萌えは、幼少期から仕込まれ続けた蓄積だ。だから、お前はなんだかんだ言いながらもこの娘以外のガールフレンドを作る気にならないのだ」

「死ねよ!! マジで!!」

「すまんな、お前はもう我が妹以外に恋の出来ない呪いに掛かっている。なぜなら、お前の幼馴染はこいつだけだからだ」

「がああああああっ!! おかしいと思ってたんだよ!! 高校生になって世界が広がりゃ俺にも好きな女くらい出来ると思ったのに、気になる奴すら現れねぇってのはよぉ!!」

「ちくちく蓄積w ちく蓄積w」

「そのキモ過ぎる歌をやめろ!!」



 悶えている少年を、若干引き気味の目で見る少女。彼女は自分の胸を見て少しだけ考えた後、今度は二つに結んでいる金髪を見て首を傾げた。



「ねぇ、おっとりって何よ」

「そんなことを俺に聞くなよ!」

「答えなさいよぉ、あたしだって恥ずかしいこと全部話したんだから」

「ぐぅ……っ。け、形容し難いが、癒やしの極地みたいなモンだ。でも、あれはあくまでファンタジー的な存在であって、あんなに男に都合の良い人格は存在していないと俺は理解してる」

「なにそれ、ぜんっぜん分かんないんだけど」

「優しくて穏やかなんだけど、なぜか性には敏感でエロいことが好きな女だよ!! それが、しかも巨乳なのが俺の趣味なの! いいじゃねぇか! AVなんてフィクションなんだから!!」

「へぇ、普通にキモいね。死ねば?」

「分かってるから言うなよ!」



 それについては、少年も散々自己嫌悪している少女の姿を押し付けたのだからお互い様である。



「でも、本音をブチ撒けるとか言いながら、あたしにそれやって欲しいって言わないのはフェアじゃないんじゃない?」

「お前のせいだぞ!? 一番近くにいる女がヒスりまくる暴力女だったら、誰だってその逆の存在を求めるだろ! どうして俺の幼馴染はこんなふうじゃなかったんだろうって考えるだろ!」

「いや、なんか勘違いしてるけど幼馴染って存在自体がプレシャスだから。お前ら、死ぬほど恵まれてんだぞ? 贅沢な悩みってマジで嫌味っぽくてお兄ちゃん好きになれないな?」

「ご、ごめんなさい!! 謝るから兄貴は黙っててくれよ!! お願いだから!!」



 兄には絶対に勝てないということを、それこそ蓄積によって知り尽くしていた少年であった。



「もしさぁ、あたしがおっとり系になったらどうなるワケ?」

「は、はぁ!? お前が!? そんなの絶対に無理に決まってるだろ!!」

「あたしが今の状態になろうと思ってなった以上、決まっているワケではないけど」

「なんで急にカッコよくなってんだよ! ……って、え? 決まってねぇの?」

「決まってないわよ。それに、これだけ恥ずかしい思いしたんだから、もう何も怖くないわ。言いなさいよ」

「……きゅう」



 そして、少年はツンデレ殺しの文句を言った。



「少しでいいから、俺を甘やかしてくれ。兄貴を追うのは疲れた」



 これが、ツンデレを殺した呪文である。しかしながら、結局のところ少女の尻に敷かれた少年は、弱い彼女を克服すべきではなかったと甘やかされながら思う一生を送るのであった。

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