夏に置いてきた写真

夕日ゆうや

夏に置いてきた写真

 今年も夏がやってきた。

 夏休み。

 私には一年に一度の嬉しいことがある。

 それは家族で親戚の叔父さんがやっている海の家の手伝いだ。

 どこが嬉しいことだって?

 これだけじゃないの。

 だって隼人はやと君がいるから。

 親戚のお兄さん。

 私の憧れの人。

 いつも爽やかで優しい笑みをしている男性。

 私よりもちょっと年上で、小さい頃からいつも遊んでくれる。

 毎年、彼も手伝う海の家に行くのが通例となっている。

「ひみこちゃん。ちょっとやすもう?」

「え。でもまだお客さんが……」

「熱中症にならないようにするのもオーナーの勤めです」

 そう言って隼人君は優しくエアコンの効いた事務所に迎えてくれる。

 いつも真面目すぎる私をリードしてくれる。ゆとりの持ち方を教えてくれた優しいイケメン。

 よく冷えた缶ジュースを渡してくれる。

「ひみこちゃんももう高校生かー」

「叔父さんみたいなこと言わないでください」

 私は半笑いで対応する。

「いやいや、俺も大学生になったばかりであっという間にすぎている気がするんだ」

「そう、なんですね……」

 一年に一度の出会い。

 まるで織姫と彦星のよう。

 それがちょっとロマンティック。

「まあ、俺も彼女ができて良い夏が過ごせそうだよ」

「え……」

 聞き間違えだと思いたかった。

「そろそろ仕事に戻ろうか。オヤジにバレる前に」

 唇に指を当ててしーっとする隼人君。

 その子どもっぽい笑みに、私はやはりときめくのだった。

「ずるい……」


 夏が終わる。


 私の夏は最悪だった。

 もう二度とあの海には行かない。

 自分の部屋に戻ると、机の上にある隼人君との写真をビリビリに破く。


 ああ。夏が終わる。


 零れ落ちた雫はいずれ海に戻るのだろうか?



                         ~完~

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夏に置いてきた写真 夕日ゆうや @PT03wing

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