第23話
ハッと我に返る。落ち込んだ気持ちを吹き飛ばすように頭をブンブンと振り、勢いよく頬を叩く。
騎士として鍛えた人間の平手はかなり痛い。おかげで目が覚めた。
ひりひりと痛む頬を押さえつけながら、さてと結局一ミリも解決していなかった問題に目を向ける。
髪はどうする?化粧は?服は何を着る?
とりあえず街にいる綺麗だ、可愛いなと思う女性の姿を思い浮かべる。ふわふわの髪を緩く纏めた先輩騎士の奥さん。おさげが愛らしい本屋の看板娘。艶やかで真っ直ぐな長髪が目を惹くアクセサリー店の店主。元気な印象を抱くポニーテールが眩しい八百屋のお姉さん。
……悲しきかな、この国の女性はほとんどが髪が耳が隠れるくらい長いので参考にならなかった。
では化粧はどうだと思ったが、そもそもまともな化粧道具は一つも家に無い。
ならば服はどうだと思ったが、こちらはシンプルなシャツとズボンが3着ずつしかない。ワンピースやスカートなんて以ての外だ。
そもそも今日は洋服を買う目的も兼ねたお出かけなのに何故こんなにも悩んでいるのだ?
別に髪もいつも通りでいいだろう。化粧だってする必要はない。普段着で行こうが関係ない。だって、騎士の正装以外は普段それで街を歩いているんだし、正装に着替える前にその姿でジャック卿と顔を合わせているのだから__って、そんな言い方をしてしまったら、まるで私がジャック卿に少しでも女性としてマシに見られたいと思っているみたいじゃないか。
ありえない、ありえない、だってジャック卿だぞ。確かに世間的にはモテる容姿をしている彼だが、王子とは容姿も性格もまるで正反対だ。ならば私のタイプではないに決まってる。
特別親しいわけでもない、好きでもない相手と出かけるだけなのに何を考え込んでいるんだ。ちゃんちゃら可笑しい。頬がこんなにも熱いのもきっと先程頬を強く叩いたからに違いない。そうだ、きっとそう。
いつもの服を頭から被って着替える。髪が乱れようが肌が擦れようが知ったこっちゃない。
可笑しくない、可笑しくない、これでいい、これでいい……そう心の中で連呼しながら家のドアを開け、待ち合わせ場所に向かう。
ジャック卿と顔を合わせる前には、このヒリつく頬の赤みが引いていることを祈りながら。
女騎士が王子に酷くフられた途端、エリート騎士が溺愛してきました 栗木百幸 @momoyukikuriki
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