終 帰宅
砂利舗装のラスター通りの街角に降り立ち、二人は角地のアパートメントに入る。
部屋には明かりが灯っていた。マリッサに合鍵を預けており、旅行の間は自由に使っていいと任せていたのだ。
ドアをあけると、案の定というように彼女とアルバートが待っていた。
昨日、こちらの港についた時点で二人には電報で帰国を連絡していた。
四人はそれぞれにハグと握手をかわしあい、三人はワイン、一人は炭酸水の
即席で作った軽食をつつきながら、土産話を肴に何時間も過ごした。
普段通りに過ごしていたと思われていたマリッサとアルバートもこの間に何度か夕食をともにしており、そこで古典小説で話が合うことがわかったという。有意義な夜だった。
夜九時を過ぎた頃、アルバートとマリッサはそろそろ帰ろうかという話になった。夜道があぶないからとジョナサンがマリッサを送り、アルバートはその帰りを待ってから帰宅することにした。
その間の二組の会話は互いにとって秘密となった。
たとえば愛を語っていたとしても、仮に口づけを交わしていたとしても、いや、それ以上のことがあったとしても、それは恋人として自然なことだ。だから、そこには踏み入らない。
お互いに傷つけ合うようなことにはならない、という信頼を試される夜でもあった。
ジョナサンは一時間ほどで帰ってきた。コートを脱ぐと珈琲の匂いがほのかに香った。
マリッサの店に顔を出し、交際をはじめたことを親代わりの店主夫婦に話してきたのだ。
逆にアパートメントに残っていた二人からは、それぞれのコロンと香水の混ざった匂いがしていた。ベッドが乱れている風はない。
もうあとには引けない。だが、全員合意の上のことだった。
あとは誠実に、ある意味でこれまで通り、そしてまたある意味でとても新鮮な日々を、過ごすまでだ。
帰っていくアルバートの足取りはまるで靴に羽でも生えているように軽やかだった。
「さて、寝ようか」
二人はにこりとして、順番にシャワーを浴び、寝間着とガウンに着替えた。
それから大きなひとつのベッドに2人で入った。
これ以上何もする余力もない。ただ眠たかった。
「おやすみ」
「おやすみ」
そう言い合って、明かりを消した。
「……部屋探し、進んでる?」
「明日、学校が終わったら物件見てくる。一緒に来る?」
「4時頃か……事務所に電話一本くれる?」
「わかった」
そう言い合って、まずエヴァが先に眠りに落ちた。
ジョナサンはふと、離婚届のことを思い出したが、考えるのをやめた。
明日の朝にでもすればいい。朝がくれば、日常がはじまる。ふたりとも、仕事がある。
これからも愛に満ちた日々を生きるために。
(終)
習作 恋愛離婚旅行 たけすみ @takesmithkaku
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