第2話 神と殺人鬼

目が覚めると、そこはどこまで続いているかわからないほど真っ白な空間であった。


(一体ここは………?)


手をグーパーさせて感覚を確かめたり、痛覚があるかどうか確かめるために腕を折ろうとしたが、背後の声に止められた。


「え~~、痛覚があるか確かめる為にそこまでやるの?………」


ゆっくりと後ろを振り向くと、そこには小学校低学年ほどの容姿の男の子がいた。


俺は内心驚いていた。


(こんなガキが……俺の背後を取っただと……)


今までの人生で2回も戦争を経験しているお陰か、俺は感覚的に気配を感じ取る技術を獲得していた。


その技術で相手の殺気などを読めたお陰で、光学迷彩などの透明化した兵士に奇襲などをされても対処できるほどのレベルだった。


そんな俺の気配察知の技術スキルを搔い潜って来た奴なんて殆どいなかった……


「……ぇ、ねぇってば、何とか言ってよ?」


真っ白な服を着たガキが、俺の考え事をしていて下に向いた顔を覗き込む。


「ここは何なんだ?糞ガキ」


ほっぺを赤く膨らませて少し怒ったような口調で男の子は返してくる。


「僕、これでも神様なんだけどね……。ここは僕の精神世界だよ!おじさん」


「俺はどうなった?死んだんじゃなかったのか?神様」


俺と自称神は淡々と言葉を交わす。


「死んだよ。今は君の魂を僕の精神世界に留めてるだけで、肉体的に言ったら君は死んでる」


「じゃあ何で俺はここに留められている?」


「それは当然、僕が呼んだからさ!」


「神様が俺ごとき人間を何故呼ぶ?」


「いやねぇ……君みたいな存在は稀だからねぇ。2度もの人生を味わい、2度ともひたすら人殺しまくって3度目があるならまだ殺したいなんて願う人間は……」


神は俺を睨みつける。


「で?」


「で?って言われてもなぁ……」


「理由になってねぇだろ!俺をここに呼ぶ理由に!」


「確かにね……本題から言うと君、魔王なんて興味ない?」


「魔王?魔王って神話とかファンタジー作品とかのアレか?」


1度目の人生では分からなかったが、2度目の人生の軍病院でベットに横たわっている時にラノベをいくつか読んでいた俺にはその存在が理解できた。


「君の世界での魔王の認識で正しいと思うよ。魔王は魔族を従え、人間を唯ひたすらに殺す為だけに存在する生き物。魔王たるには残忍性、強さ、知略が必要だ。君にピッタリでしょ?逆に歴代の魔王の中で君ほど魔王に適正を持つ生物もいなかったくらいだよ?」


俺は興奮して頬が赤くなった。


3度目の人生の最後の願いが叶う希望が生まれた。


(心が躍る………こんなに興奮したのは初めて戦場に出たとき以来だぁぁぁぁ………)


「何か興奮してるところ申し訳ないけど、話を戻すよ?」


「あぁ、すまないな。感極まってしまった」


自称神は引き気味に話を続けた。


「君を魔王として転移させるにあたり、3つ君に僕からギフトをあげるよ」


そう言うと、俺の前にはホログラムのようなものでできた白い文字盤が浮かび上がった。


「しばらく時間をあげるから、3つはこの中から選んでね?」


===


ー数時間後ー


「本当にこれでいいの?変更はなしだよ?」


「問題ない。これで頼む」


俺は胡坐をかきながら、警告する神の声に答える。


「さて………取り敢えず、最低限僕がやらなきゃいけないことは終わったんだけど。何か聞いておきたいことはあるかい?」


「じゃあお言葉に甘えていくつか質問しよう。勇者は存在するのか?」


「……存在するよ。君がその世界に転移すると同時に生まれる、もしくは異世界から召喚される。当然ながら君とは必ず戦わなければいけない運命にある」


「勇者は1か?」


「……鋭いね、勇者は1人じゃない。正確にはわからない。ただあのが勇者を一人しか用意してないわけがない!!」


実際にはないはずの血管が浮き出て見えるほど、神が怒りながら俺の質問に答えた。


「ごめんね?……。少し興奮しちゃった。他にはあるかな?」


「魔王に寿命はあるのか?」


「ないよ。魔王について解説すると、正確に言えば魔王も一人ではないんだ。自然発生の魔王と邪神である僕が選定した神選魔王の2パターンがいる。そして自然発生した魔王は皆、魔王種と呼ばれる特殊個体だ。そして魔王種に寿命といった概念はない。上位種である覚醒魔王と君がなる神選魔王もそれに関しては同じだ。ちなみに神選魔王は1000年に一度降臨できてる魔王種の中でも超特殊個体だ。他には?」


「お前たち神はどうやって生まれたんだ?」


「神も魔王と同じで、生まれた時から皆が神だったわけじゃない。もちろん生まれながらの神も存在はするけど、それは神の中でも上位の者達だけだ。上位の神に関してはどうやって生むかなんてことわからない。それ以外の殆どの神は生物が進化過程で奇跡に奇跡に奇跡を重ねた結果に生まれる存在だ。もういいかい?」


「あぁ、沢山聞いて悪かったな」


「それじゃ、もう転生させていい?」


欠伸をしながら神は言う。


(こいつ……絶対飽きてきてるだろ……)


「……あぁ、いいぞ。やってくれ!」


俺がそう言うと、神が俺に向かって手を向けた。


「君ならば……僕を殺してくれるのかな?期待してるよ……」


最後に何か小さな声で呟いていたが、その声を最後に再び俺の意識は刈り取られた。














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天職は魔王様 @hachidaime

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