第53話 ステファンside6
フランソワーズの努力の上にシュバリタイア王国での幸せが成り立っていた。
信じられないことにあの場で彼女に手を差し伸べる者が誰もいなかった。
ステファンはあまりにもひどいフランソワーズの扱いに、今思い出しても怒りが湧いてくる。
万が一があってはならないと、騎士たちにシュバリタイア国王のことをずっと探らせていた。
彼らは数週間経ってからフランソワーズを必死で探しはじめた。
ステファンが気に入らないのは、フランソワーズがいなくなった直後は誰も動くことはなかったという事実だ。
家族も国もフランソワーズの代わりがいればいいと、一度は切り捨てた。
それなのに今になり、国が危険に晒されているからフランソワーズを必要としているのだ。
(こんなこと……許せるわけないだろう?)
恐らくセドリックの隣にいたマドレーヌという令嬢を含めて、他の聖女たちにはフランソワーズの代わりを満足に果たせなかったようだ。
ステファンは奥歯を噛み締めながら苛立ちを堪えていた。
フランソワーズの笑顔を平然と奪い取っておきながら、彼女に頼ろうとすることが気に入らない。
それに数日前には、シュバリタイア国王からフランソワーズを返してくれと泣きつく手紙が来た。
どうやらフランソワーズがステファンと共に馬車に乗り込んだあの日。
二人でいるところを見ていた門番から聞き、居場所を突き止めたようだ。
フェーブル王国ではフランソワーズは英雄だ。
だからこそ、居場所の特定も容易かったろう。
ステファンはシュバリタイア王国のことをフランソワーズに伝えたくなかった。
心優しいフランソワーズのことだ。
それを聞いたら、彼女は罪悪感を感じてしまうかもしれない。
シュバリタイア王国のために国に戻ると言うかもしれない。
ありえないと思いつつも嫌な考えが頭をよぎる。
(フランソワーズは優しすぎる。だからあんな目にあってしまった……)
意図的にフランソワーズの元にシュバリタイア王国の情報が耳に届かないように手を回している。
それにフランソワーズをまた傷つけるような者たちは絶対に近づけたくない。
フランソワーズは、もはやフェーブル王国にとってなくてはならない存在だ。
父もフランソワーズに守ることには賛成してくれた。
それにこちらが悪魔で困っている時にシュバリタイア王国はこちらに手を差し伸べることはなかった。
それゆえに『フランソワーズは我々が保護している。助ける義理はない』と返事を返したそうだ。
しかし父もシュバリタイア国王の必死な様子に危機感は感じているらしい。
それなのにシュバリタイア国王は『一度でいいからフランソワーズと話をさせてくれ』『フランソワーズが必要だ』そう言ってと引き下がろうとはしない。
大量に送られてくる手紙を無視していると、仕舞いにはフェーブル王国に聖女が誘拐されたと訳わからないことすら言いはじめた。
それほどシュバリタイア王国は追い詰められているのだろう。
(フランソワーズは渡さない。もう二度と彼女を傷つけないと誓ったんだ)
先ほど宝石店で買った指輪が入った小さな箱を取り出した。
フランソワーズが『ステファン殿下の瞳みたい』と言ってくれた青い宝石がついた指輪だ。
指輪を手に取ってから、フランソワーズの右手の薬指に嵌めた。
気持ちよさそうに眠るフランソワーズは、笑みを浮かべているようにも見える。
(僕が必ず君を守ってみせるから)
その固い決意を胸にステファンは指輪を嵌めたフランソワーズの手に口付けた。
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