四章
第54話 マドレーヌside1
フランソワーズがいなくなって一カ月が経とうとしていた。
シュバリタイア王国は大混乱に陥っていた。
マドレーヌは自室に引き篭もりながらガリガリと爪を噛むことしかできない。
(なんで……!?なんでわたしの力で宝玉が壊せないの?こんなの物語通りじゃないわ!変よっ、絶対におかしいわ)
フランソワーズを国外に追放したあの日、マドレーヌは物語通りに進んだことを喜んでいた。
しかも物語の結末よりもずっと早く終わらせることができたのだ。
フランソワーズがいなくなり、マドレーヌは初めて宝玉の間に足を踏み入れた。
いつも悪魔を祓うように祈りを捧げたものの、物語のようにうまく宝玉を浄化できないことに気がついたのだ。
(ど、どうして?わたしはフランソワーズよりも強い悪魔祓いの力を持っているはずでしょう?)
いくら祈っても宝玉は黒く澱んだまま、うまく浄化することができなかった。
外で待っていたセドリックには『初めてだから』『疲れていたから』と言い訳して、彼を無視するようにベルナール公爵邸に帰った。
しかしそんな理由ではないことはマドレーヌ自身が一番よくわかっていた。
マドレーヌでは明らかに力が足りていない……そう頭によぎった。
だがシュバリタイア国王や王妃の前で、宝玉が壊せるとまで言っておいて、今更『できませんでした』なんて言えるはずもない。
マドレーヌは二年かかる物語を、半年でクライマックスまで持っていくことに成功した。
そのことで力不足になってしまったのだろうか。
そのクライマックスですら、うまくいかなかったことを思い出す。
フランソワーズの断罪する場面でも彼女がナイフではなくスプーンを持つまではうまくいっていたのに。
(どうしてあんな風に笑ったの?今までは原作通りのフランソワーズだったのに……!)
フランソワーズに騙されたような気分だった。
マドレーヌは悔しさや腹立たしさから涙が込み上げてくる。
手のひらを爪を食い込むほどに握り込んだ。
今までマドレーヌは、悪魔祓いのことに関してはあまり勉強してこなかった。
早く実績を出そうと弱そうな悪魔をたくさん祓っていたからかもしれない。
それが逆に仇となってしまったようだ。
自分が何故か原作のマドレーヌよりもずっと力が弱いことにはなんとなく気づいていた。
けれどそれも時間が解決すると思っていたのに。
(ずっと祈り続けるなんて退屈で馬鹿みたい……早く宝玉なんかなくなっちゃえばいいのにっ!)
フランソワーズを貶めるために用意した侍女や使用人は悪魔祓いの力で救ってやり、無理矢理協力を求めた。
フランソワーズの美しさと力に嫉妬している令嬢と協力して、彼女を虐げていたと嘘をつかせた。
それも騎士たちの調査によって、彼女たちの証言はバラバラなことが判明してしまう。
それがフランソワーズが出て行ってから、一週間目のことだった。
だが、それをセドリックはシュバリタリア国王たちやベルナール公爵たちの耳に入る前に揉み消したのだ。
騎士たちを辺境に飛ばして、何もなかったことにした。
(よかったわ……やっぱりセドリック殿下はわたしが好きなのね)
それにはマドレーヌも安心したし、セドリックに感謝していた。
すべてをフランソワーズのせいにすることは成功したが、セドリックは共に喜んではくれなかった。
彼にお礼を言おうとしたが、セドリックは険しい表情でマドレーヌの肩を乱暴に掴む。
「マドレーヌ、どうして俺に嘘をついたんだ……!」
彼に責め立てられると思わずに、マドレーヌは驚いていた。
今まであんなにもマドレーヌに甘く優しかったセドリックは別人のようだ。
唇を噛んだマドレーヌは、叫ぶように言った。
「わっ、わたしは嘘なんかついてませんから!」
「なんとか揉み消したからいいが、これが父上や母上にバレていたらどうなったかわかっているのか!?」
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