第52話 ステファンside5

スヤスヤと寝息を立てるフランソワーズを見ながら、手を離して、少しでも寝心地がいいようにと体を動かす。

彼女の眠りの妨げにならないようにと髪をそっと耳にかける。


街を巡り、キラキラと瞳を輝かせながら楽しむフランソワーズの姿を見て、ステファンは今まで感じたことのない気持ちになっていた。

こんなにも幸せなことがあってもいいのだろうか。


フランソワーズにドレスや宝石をプレゼントしたのだって一緒に時間を過ごしたかったが、それだけではない。



「フランソワーズ……君を引き止めるためなら、僕はなんだってやるよ」



ステファンはフランソワーズの金色の髪を一束取るとそっと唇を寄せる。

フランソワーズが困惑していることはわかっているが、できるだけ彼女のそばにいたい。

こんな風に女性に執着するのは初めてだった。

それほどまでにフランソワーズを愛している。

この気持ちは止められそうにない。


(まさか自分がこんなに欲深くて浅ましい人間だったなんてな……)


ステファンは片手で額を抑えていた。



「ん……」



フランソワーズは、無意識にステファンにすり寄るようにして肩に頭を置いた。

彼女の手が、ステファンの服の裾をギュッと握っている。

ステファンはそっとフランソワーズの手の甲に重ねるようにして手を置いた。

手のひらから伝わる熱すらも愛おしい。


(……今のシュバリタイア王国のことを、フランソワーズに伝えたら彼女はどうするだろうか)


フランソワーズがシュバリタイア王国から消えて一カ月。

国は大きくバランスを崩しているらしい。

シュバリタイア王国は何かを隠していることは、ステファンも薄々ではあるが知っていた。

聖女や悪魔祓いの知識、その不透明さが小国ながらシュバリタイア王国がここまで生き残っていた理由だろう。

何かが違う……その正体がわからない限り踏み込めないのだ。

それはシュバリタイア国王からの言葉からもわかることだった。


『我が国は聖女と共に大切なものを守っている。それは我が国どころか全世界を揺るがすほどの強大な力だ』


それが陳腐な脅しではないことは、なんとなくではあるがわかっていた。

聖女の力が大きく関わっており、力の強い聖女を国外に出せないのもそのような理由があるからだろうと推察できる。

恐らくフランソワーズはその『何か』を守るために、自分の時間を犠牲にしていたのかもしれない。

だからこそ街に行く時間もないし、ドレスを買ったりしたこともない。


父に聞いた話だが、フランソワーズがセドリックの婚約者になる前のこと。

シュバリタイア王国の王妃は、とても大切な公務以外は出席することがなかったらしい。

または途中で抜けて国に帰ることもあったそうだ。

今ではすべての公務に参加して、パーティーにもよく顔を出している。

つまりフランソワーズの前には王妃が聖女として、その役割を果たしていた。

フランソワーズも次期王妃として、国にとって大切な役割を引き継いだのだろう。


それなのにセドリックは公の場でフランソワーズにあのような辱めを与えたのだ。

シュバリタイア国王と王妃がいたらまた違う展開になったのだろうが、いない時を狙って仕組まれたに違いない。

隣にいたマドレーヌという少女が、この事態を引き起こしたのかもしれない。

セドリックはマドレーヌに心酔している。一目見てそう思った。


彼女はずっと辛い仕事を押し付けられたままだったのだろうか。

自らを犠牲にしてきたが、妹に居場所を取られてしまい、両親に味方されることもない。

フランソワーズの心は死んでいたが、フェーブル王国で徐々に感情を取り戻しているような気がしていた。

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