第51話


(わたくしったら…………でも最近、ステファン殿下との距離が近いような気がする。どこまでが冗談で、本気なのか全然わからないもの)


フランソワーズが赤くなる頬を何度も押さえていた。

彼も「すまない」と言って、咳払いをしている。

フランソワーズはステファンの様子を窺うためにチラリと視線を送る。

ステファンの方が背が高いので、自然と上目遣いになってしまう。



「フランソワーズ、わざとやっているの?」


「何のことでしょうか……?」


「はぁ……」



ステファンにため息を吐かれてしまい、動揺していたフランソワーズだったが、ポツリと呟くように言った言葉に驚くこととなる。



「…………君は可愛すぎるよ」


「……ッ!?」



どうやらステファンは自分の瞳の色のドレスやアクセサリーを選んでくれたことが相当、嬉しく感じたようだ。

シュバリタイア王国ではなかったが、フェーブル王国では婚約者同士で互いの瞳の色や髪色に合わせたドレスや服を着ることで愛を伝えることもあるそうだ。

つまりフランソワーズは無意識にそれをしてしまっていたことになる。



「まさかオーダーのドレスもそうしてくれているなんて嬉しすぎてしまって……」


「あの……はい」


「フランソワーズは何色でも似合うと思ったけど、君が選んだドレスの出来上がりがますます楽しみになったよ」


あまりの甘酸っぱい雰囲気に、店員たちも二人を応援するような形で温かく見守っていた。

その後も、二人で照れつつもフランソワーズはアクセサリーや髪飾りを選び終えた。


終わったと思うのと同時に襲い来る疲労感にフランソワーズはフラリとよろめいてしまう。

ステファンもそれには心配そうにしつつも、顔を覗き込んでいる。



「フランソワーズ、大丈夫か?」


「少し休ませてもらえますか?」


「もちろんだよ」


「はい。なんだか疲れてしまって……」



緊張からなのか、刺激が強すぎたのか、ぐったりとしてきたフランソワーズは少し椅子で休ませてもらっていた。

まだ逞しい腕に抱かれた感覚が残っている。

フランソワーズは頬を挟み込むように、ひんやりとした手のひらを当てた。


店員がフランソワーズの前に、水や紅茶やクッキーを用意してくれた。

フランソワーズはグラスに入っている水をゆっくりと飲み込んでからホッと息を吐き出した。

それからレモンが浮かんだカップに入る温かい紅茶に手を伸ばす。

今はその気遣いがとてもありがたいと思えた。

するとステファンが部屋へと入ってくる。



「フランソワーズ、体調はどうかな?」


「申し訳ありません。今までずっと聖女の仕事ばかりしていて、あまり体力がないもので……」


「いいや、僕こそ年甲斐もなくはしゃいでフランソワーズに無理をさせてしまいすまなかった」


「ステファン殿下のせいではありませんから」



謝るステファンにフランソワーズは首を横に振る。

幼い頃から外で駆け回ったり、誰かと遊ぶこともなく、塔で祈ってばかりいたたフランソワーズ。

聖女としての強い力はあっても、体力がないのは事実だ。

どうやら自分の体力を見誤ってしまったらしい。

フランソワーズはステファンに手を引かれながら店を後にする。


馬車に乗るとドッと疲れが肩にのしかかる。

フランソワーズの手をステファンはずっと握ってくれている。

紅茶のおかげもあり、ポカポカと体が温まり、次第にフランソワーズを眠気が襲う。



「フランソワーズ、着いたら起こすから少し休んでくれ」


「はい……ありがとう、ございます」


「ゆっくり休んでくれ」


「ステファン、殿下……」



フランソワーズはステファンの言葉に甘えて瞼を閉じる。

疲れからかすぐに眠気が襲い、意識が遠くなっていった。

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