第50話

素敵なドレスが出来上がる予感と、高揚感にフランソワーズは胸を抑えてステファンが待っている部屋に戻る。

そしてステファンのエスコートを受けて店の外へ向かった。


オーダーしたドレスは出来上がり次第、城に届けてもらうそうだ。

それから荷馬車に次々に運ばれていく大きな箱を見つめていると、ステファンが視線を塞ぐように目の前に立つ。



「フランソワーズ、どうだった?」


「とても素敵な経験ができました。ありがとうございます、ステファン殿下」



フランソワーズがお礼を言うとステファンは嬉しそうに笑っている。



「それはよかった。さて、次の店に行こうか」


「ま、まだ行くのですか!?」


「次は君に似合う宝石を探しに行こう」



次に入った宝石店でもドレスショップと同じようなことが起こる。

フランソワーズは「そんなにたくさんいりませんから!」とステファンを止めるのに必死だった。

しかし指のサイズなどを測った後、次々にステファンの指示通りにフランソワーズにあてがわれるキラキラと輝く宝石たち。



「ドレスに合わせる髪飾りも必要だろう?」



そんなステファンの言葉と同時に目の前に並べられる髪飾り。



「フランソワーズの金色の美しい髪には、どんなものでも似合ってしまうから悩んでしまうね」



ステファンはそう言いつつも楽しそうである。



「コレとコレは外せない。フランソワーズはどちらが好きかな?」


「えっと……」



フランソワーズの前に並べられているのは、青い宝石が嵌め込まれている髪飾りと緑色の宝石が散りばめている髪飾り。

その髪飾りを見て、フランソワーズはあることを思う。


(この宝石……ステファン殿下の瞳みたい)


フランソワーズは青い宝石が嵌め込まれている髪飾りを手に取った。

そういえば先ほどもオーダードレスを頼んだ時。

ステファンの瞳と同じ青い生地や黒い刺繍を無意識に選んだことを思い出す。


(わたくし……ステファン殿下のことを思い出して選んでいたのね)


その瞬間、フランソワーズは照れてしまい反射的に顔を伏せる。

ステファンは微かに肩を振るわすフランソワーズを見て不思議そうにしている。



「フランソワーズ、どうかしたのかい?」


「いえ……」


「青の宝石がついた髪飾りでいいということでいいのかな?」



ステファンの問いかけにフランソワーズは小さく頷いた。

店員は頭を下げて髪飾りを受け取った。

何も言わないフランソワーズにステファンは声を掛ける。



「もしかして無理をさせてしまったかな?」



心配そうな声が聞こえてフランソワーズは顔を上げる。

そして小さく首を横に振った。



「フランソワーズ?」


「ス、ステファン殿下の……瞳の色や髪の色のものばかり選んでいることに気づいてしまって」


「え……?」


「先ほどオーダーさせていただいたドレスも、気づいたら青色の生地や黒の刺繍を選んでいました」


「……!」


「なんだか恥ずかしくなってしまったんです。申し訳ありません……」



言葉にするとますます恥ずかしくなり、カッと赤くなる頬。

ステファンは大きく目を見開いた後に、人前にもかかわらずにフランソワーズを抱きしめた。

今は貸切のため他に客はいないが、店員たちは驚いている。



「ス、ステファン殿下?」


「……そんなに可愛らしいことを言われたら我慢できなくなる」



触れている部分から熱が伝わっていく。

ステファンの心臓の鼓動が聞こえてくる。

フランソワーズはどうすればいいかわからずに困惑していた。

宝石店の店員たちの視線もあるため、フランソワーズは声を上げる。



「ス、ステファン殿下、公の場ですから……そろそろ!」


「ああ、すまない」



ステファンの体がスッと離れたのだが、自分から言っておいて少し寂しく感じてしまう。

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