第46話
いつもとは違い、力強い剣捌きで騎士たちを薙ぎ倒す姿は圧巻だった。
イザークとノアの話によると、どうやら呪いが解けてからは体が軽いらしく、さらに動きが速くなったそうだ。
訓練場の端にはステファンにやられた騎士たちは山のように積み上がっていく。
いつものステファンとは違い、男らしい姿にフランソワーズは内心惚れ惚れとしていた。
イザークとノアはステファンに怒られないかと隣でソワソワしている。
頃合いを見計らってフランソワーズは差し入れと、汗を拭くための布を持ってステファンの元へ。
フランソワーズに気づいたステファンが大きく目を見開いていた。
「フランソワーズ、こんなところで何を……!」
「おつかれさまです。ステファン殿下」
汗を拭う布を差し出すと、ステファンは戸惑いつつも布を受け取る。
荒々しく汗を拭うステファンから露出する肌と色気に、視線を逸らしてしまう。
くらりと目眩がした。
「ありがとう、フランソワーズ。でも、どうしてここに?」
ステファンの問いかけに、フランソワーズはハッとして顔を上げる。
「イ、イザーク様とノア様に頼んで連れてきてもらったのです……!」
「……!」
フランソワーズの言葉にステファンの視線がノアとイザークへ。
大きく肩を揺らしている二人を見て、フランソワーズは「わたくしがお二人に頼んだのです!」とイザークとノアを庇うように声を上げる。
ステファンはいつものように笑みは浮かべてはいるが、その表情は曇っているように見える。
それだけフランソワーズに剣を向けたことを気にしているのだと思った。
「……怖くは、なかったかい?」
どうやらフランソワーズの予想通りだったようだ。
ステファンの問いかけにフランソワーズは首を横に振る。
「とてもかっこよかったです。ステファン殿下は、やはりお強いのですね」
「フランソワーズ……」
「わたくし、ステファン殿下の剣捌きに見惚れてしまいました」
フランソワーズが笑顔でそう言うと、ステファンの頬がみるみるうちに赤くなっていく。
口元を手のひらで押さえて、フランソワーズから視線を逸らしてしまう。
照れているステファンが余程珍しいのか、様子を見ていた騎士たちはどよめいているようだ。
しかしそれもステファンが振り返ったことでピタリと声が止まる。
「こちら差し入れですわ。皆様で召し上がってくださいませ」
フランソワーズは大きなカゴをステファンに手渡した。
中にはサンドイッチが大量に入っている。
騎士たちも嬉しそうだ。
「ありがとう、フランソワーズ」
ステファンの爽やかな笑顔に、フランソワーズは彼を見つめながら頷くことしかできなかった。
その二日後。
ステファンがフランソワーズのために時間を作ってくれた。
午前中にあった会合が、相手の都合で日程がずれたからだそうだ。
そこでステファンに誘われ街に出かけることになる。
フランソワーズは侍女たちに街娘風の格好にしてもらいつつ、ステファンを部屋で待っていた。
扉を叩く音が聞こえて返事をすると、同じくお忍びの格好をしたステファンが現れた。
イザークとノアもステファンの背後から顔を出す。
今日は彼らが変装して、護衛としてついてきてくれるそうだ。
ステファンのエスコートで馬車に乗り込んだ。
シュバリタイア王国でフランソワーズは、ずっと城の宝玉の間にこもりきりだった。
それかベルナール公爵邸を往復しているだけだ。
以前は移動の馬車の中に窓の景色を見ることが密かな楽しみだったことを思い出す。
(……あんな生活を続けていたら〝フランソワーズ〟はいつか壊れてしまっていたでしょうね)
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