第45話


話の流れから口から本音が漏れてしまったようだ。

しかしステファンへの気持ちを偽ることはできない。

フランソワーズは、しっかりしなければと頬を叩いて気合いを入れてからステファンに向き直る。



「わっ、わたくしはステファン殿下のことが好きですわ!」


「……!」


「ですから……ンッ!?」



ステファンの大きな手のひらが、フランソワーズの口元をそっと塞いだ。

フランソワーズは戸惑いつつもステファンを上目遣いで見つめていた。



「ごめん……これ以上は嬉しすぎてどうにかなってしまいそうだ」


「……!」



珍しく照れているステファンに釣られるようにして、フランソワーズも頬を染めて瞼を伏せた。

互いの想いが通じあったのだと実感した瞬間、カッと体温が上がったような気がした。

フランソワーズがステファンのことを好きだと言うのは嘘ではない。

彼に惹かれている……それは紛れもなく本当の気持ちだった。



「あのっ……ですからもう少しだけ気持ちの整理がつくまで、待っていてくれませんか?」



その言葉を聞いたステファンは、フランソワーズを抱きしめる。

背に回る腕の力が強まっていく。



「もちろんだよ。フランソワーズ」


「……ステファン殿下」


「君の気持ちの整理がつくまで待つから……本当にありがとう」


「もう少しだけ……時間をください」



その気持ちに答えるように、フランソワーズはステファンの背に手を回した。

爽やかなシトラスの香りが鼻を掠めた。

ステファンの愛情が、優しい手のひらから伝わってくる。

それでもステファンの隣に立つのはそう遠くない未来になるだろう。

何よりフランソワーズ自身がそうあったらいいなと思っているからかもしれない。


それからフランソワーズはステファンとの時間を大切に過ごしていた。

二人で買い物に行く約束をして、その日は別れた。

ステファンにはまだまだ王太子としての仕事が残っているそうだ。


(ステファン殿下はフェーブル王国をよくしようと努力しているのね)


どうすればもっとフェーブル王国がよくなるのか。

国民たちがどうすれば暮らしやすくなるのか、彼は常に考えているようだ。

城の中で働く人や貴族たちにももちろんだが、街に出ると大騒ぎになるほど国民たちからも大人気だった。

皆に慕われているステファンを見ていると、フランソワーズももっとがんばらなければと気持ちにさせられる。

ステファンと常に行動しているイザークとノアとも話す機会が多いのだが、志高いステファンに、一生ついていきたいと言っていた。


その次の日、騎士たちの訓練を見学しに訓練場に向かった。

イザークとノアに内緒でと連れてきてもらったのだ。

フランソワーズは訓練に興味津々だったが、なぜかステファンに見学することを止められていた。


彼は悪魔に操られていたとしても、フランソワーズに剣を向けたことを気にしているらしい。

剣を振るう姿をあまり見られたくないと思っている理由は他にもあるようだ。

オリーヴに聞いてみると「お兄様、強いから……フランソワーズをびっくりさせたくないんじゃないかしら」と、目を逸らしながら言っていた。


しかし『見るな』と、みんなに言われると気になってしまう。

訓練場に入ると、熱気と雄々しい声に驚いてしまった。

シュバリタイア王国の騎士たちは聖女たちの護衛が主な仕事だったため、こんな風に訓練している姿はあまり見かけなかった。


だがフェーブル王国は大国で国土も広いため、このような訓練も必要なのだろう。

騎士たちに囲まれた中心で、剣を振るうステファンの圧倒的な強さに魅入られていた。

誰もステファンに触れることすらできないのだ。

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