第28話


思わずマドレーヌの名前を出そうとして、フランソワーズは途中で口をつぐむ。

彼女は一人でこのレベルの悪魔と何度も対峙していたのだろう。

王妃含めて力の強い聖女ばかり周りにいたフランソワーズには、いまいち自分の力の強さがわからない。

王妃は他の聖女たちと協力しながら宝玉を守っていたことを考えると、フランソワーズの方が力が強いのか。



「あの程度なんてとんでもない。国中の神官や悪魔祓いを集めたって誰も討ち払うことなどできなかった。それをたった一人で退けたんだぞ?」


「……え?」



それからステファンはどれだけフランソワーズの聖女として力が素晴らしいかを力説してくれた。



「フランソワーズさえよければ、ずっとこの国にいてくれないか?」


「あの条件のことですか? この国でお世話になれたら嬉しいですけど……」



ステファンが馬車の中で話していたことを思い出す。

フランソワーズの生活を保証してくれる話のことだ。

特に行きたいと思っていた場所もないフランソワーズにとってはありがたい申し出だった。

たとえ平民だとしても、フェーブル王国で自由に暮らせるのなら幸せになれそうだ。


(わたくしにも悪魔が祓えるのなら、悪魔祓いの仕事をしながらゆっくりと過ごそうかしら)


この世界で女性一人で安全に暮らせる場所は限られている。

最初は王家の力を借りて、生活の地盤を築いていけたら……。

フランソワーズが「よろしくお願いします」と、言おうとした時だった。



「フランソワーズさえよければ、城で暮らしてほしい」


「……城で? どうしてですか?」



フランソワーズはステファンの言葉に首を傾げた。

 


「僕と共にこの国を守ってほしいんだ」


「……?」



フランソワーズは、もう一度言って欲しいと意味を込めて耳を傾ける。

『僕と共に』と聞こえたような気がするが気のせいだろうか。

ステファンは優しい笑みを浮かべながら、衝撃的な言葉を口にする。



「フランソワーズ、僕と結婚してくれないか」


「けっ……結婚!?」



驚きから言葉を詰まらせた。

フランソワーズの大声にも動じることなく、ステファンは頷いている。

もう一度、確認するために問いかける。



「ステファン殿下……ご自分が何をおっしゃっているのか、わかっているのですか?」



フランソワーズが問いかけると、ステファンは「もちろんだよ」と言って笑っている。

悪魔祓いのお礼は悠々自適な生活ではなく、いつの間にか大国の王太子との結婚になっているではないか。

驚きの提案に、フランソワーズは首を横に振りながら自分に言い聞かせていた。


(そ、そんなわけないわよね……でもどうしてわたくしに結婚を申し込んでくるの?)


フランソワーズは混乱した頭で考えていると、ステファンはこちらの考えを見透かしたように口を開く。



「この件を解決してくれたことに深く感謝している。フランソワーズは僕たちの恩人だ」


「は、はい」


「でもそのことだけじゃないんだよ」


「それって……」


「フェーブル王国に移動する際、君の人柄に触れて……その、素晴らしいと思ったんだ」


「……!」


「皆に平等に接して謙虚な姿勢も他の令嬢たちにはないものだ。それに……」



フェーブル王国へ向かう馬車の中で、ステファンと色々なことを話したことを思い出す。

言葉を詰まらせたステファンは瞼を閉じて視線を逸らしてしまう。

次第に彼の頬が真っ赤に染まっていくのを、フランソワーズは目を見開きながら見つめていた。



「君は……僕の理想の女性だと思った」



ステファンと目があった瞬間、フランソワーズの頬もほんのりと色づいていく。

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