第27話

その間に、フランソワーズの金色の髪は二人の侍女によってオイルで整えられていく。

それだけでも幸せなのに、湯から出た後はマッサージを受けて、とろけそうなくらい気持ちがよかった。


フランソワーズが眠気に抗いながら幸せに浸っていると、目の前に出された蜂蜜入りのミルク。

カップを傾けて飲み込むと、甘い匂いが口内に広がっていく。

紅茶を飲み終わると、ベッドに戻るように促される。

一眠りするように勧められたフランソワーズは、感動しながらベッドに横になる。

侍女たちは頭を下げて、静かに部屋を去っていく。

一人、部屋に残されたフランソワーズは信じられない気分で瞬きを繰り返していた。


(今までこんなにゆっくりと休んだことがあったかしら……まるでお姫様ね)


フランソワーズは柔らかいベッドの中で目を閉じた。

   

それからフランソワーズが目を覚ましたタイミングで、すぐに運ばれてくる紅茶。

カーテンからは日が漏れている。まるで夢の中にでもいるかのようだ。

幸せに浸りながらボーっとしていると扉をノックする音と共にステファンが現れる。



「フランソワーズ、大丈夫か?」


「……はい。わたくし、あまりにも幸せな時間に放心状態ですわ」


「ははっ、それはよかったね」



そう言って彼は嬉しそうにしている。

ステファンが部屋に入った瞬間から、侍女たちが騒がしい。

彼の甘い笑顔に頬を赤らめている。

ステファンにとっては、いつものことなのか平然としている。

セドリックもここまでではなかったように思う。

それほどステファンがモテるということだろうか。


(今まで婚約者はいないと言っていたものね。でも呪いが解ければ、すぐにできそうだわ)


フランソワーズが頷いていると、彼はステファンに問いかけに答えていた。



「フランソワーズ、何か他にして欲しいことはあるだろうか?」


「大丈夫です。むしろ十分すぎるくらいですわ」


「……そうか。僕に何かできることがあれば言ってくれ」



フランソワーズがそう言うと、ステファンがそっと手を握る。

ゴツゴツしている手のひらは剣を握っていたからだろうか。



「フランソワーズの願いはなんでも叶えたいんだ」



フランソワーズが二人を苦しめる悪魔を祓ったので、感謝してくれているのだろう。

あまりの熱量に驚いてしまう。

シュバリタイア王国では聖女として宝玉の前で祈り続けていたが、最近は当たり前になりすぎて感謝もされなくなっていた。

だからこそ違和感を感じるのかもしれない。



「あの……そんな風にしていただかなくても、もう十分ですわ」


「もしかして何か気に入らないことがあっただろうか?」


「い、いえ! 贅沢できてありがたいのですが少々やりすぎではないでしょうか?」



フランソワーズの言葉にステファンはこれでもかと、目を見開いている。

シュバリタイア王国では宝玉を守るのは当然のことだった。

正直、ここまで感謝されているとこちらも腰がひ意味がフランソワーズにはわからない。



「フランソワーズ、君は僕たちを苦しめていた悪魔を祓ってくれたんだ」


「わたくし、そんな大したことはしておりません。あの程度の悪魔は……」



聖女だと当たり前に祓えるような気もしたのだが、フランソワーズは実際に他の聖女の力を見たことがないことを思い出す。

王妃には宝玉の抑え方を教わっていたが、フランソワーズ一人で大丈夫だということがわかると、一緒に祈ることもなくなってしまった。

それにステファンも聖女に頼んだことがあると言っていたが、この悪魔は祓えなかったと言っていた。


(わたくしは聖女としての力が強い方だとしても、マドレーヌには敵わないでしょうし……)

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