第12話
フランソワーズも自国ではあるが、この辺りに何があるのかは地図がなければさすがにわからない。
聞きながら教会を探すが、人の姿も疎らでこちらを警戒しているのか距離を取られているようだ。
フランソワーズにもどうしようもできなかった。
御者や騎士たちの表情に焦りが滲む。
(何故、医者ではなくて教会なのかしら? それにこの気配……どこかで感じたことがあるような)
ステファンは大粒の汗が額に浮かんでいき、徐々に悪化していく。
彼の側近である二人の騎士に何かの病かと説明を求めるも口をつぐんで答えを濁してしまった。
今まで黙っていたフランソワーズだったが、ステファンの様子を見て口を開く。
「今すぐにステファン殿下を医師に診てもらった方がいいのではないでしょうか?」
「医師、など……役には立たないさ」
「え……?」
「廃れてたって教会のが、まだマシだ」
ステファンの言葉を疑問に思いつつも、フランソワーズは彼の首にシャツが食い込んで赤くなっていることに気がついた。
「ステファン殿下、シャツのボタンを外した方が……」
フランソワーズの言葉を受けて、首元に手を伸ばしたステファンだったが力無く腕が下に落ちてしまう。
「指に……力が入らないようだ」
ヒューヒューと鳴る喉の音がここまで聞こえた。
フランソワーズは顔を背けつつもステファンの首元に手を伸ばす。
「失礼します……!」
荒く息を吐き出すステファンのキッチリと閉められたクラバットを取り、シャツのボタンを丁寧に外していく。
ステファンの肌にある違和感を感じてフランソワーズは手を止めた。
初めは黒髪が汗で肌に張り付いているのかと思っていた。
しかし明らかに髪ではなく、肌に直接入っている模様だと思った。
そしてフランソワーズはステファンのある噂について思い出していた。
(肌に黒い模様のようなアザがあるわ。刺青が入っているって本当だったのね……)
それにしても禍々しいほどに黒く、体全体に伸びているように見える。
すぐに刺青ではないことは理解できた。
そして、この黒いアザを見てある感覚を思い出していた。
(悪魔の宝玉から出ている空気と似ている気がする。なんて禍々しい気配なの……!)
それを確かめるためにフランソワーズがステファンに触れようとした時だった。
「──触るなッ!」
「……っ!」
フランソワーズの手を弾いたステファンの表情は怒りに満ちている。
普段のステファンとはかけ離れた態度に驚いていた。
フランソワーズはビリビリと痺れる手を庇うように掴む。
そんなフランソワーズを見ながらステファンは小さく「……すまない」と申し訳なさそうに眉を顰め、頭を抱えてしまう。
何かの衝動を必死に抑えているように見えた。
(彼はわたくしを守ろうと手を叩いたのね……)
フランソワーズは手を伸ばして、震えるステファンの手を握った。
驚いているステファンを気にすることなく、フランソワーズは目を閉じて力を込める。
(宝玉を浄化するように、祈りを捧げればきっとよくなるはずだわ)
シュバリタリア王国の宝玉の前で祈りを捧げるように力を込める。
どのくらい時間が経っただろうか。
宝玉が落ち着いたのと同じ感覚がして、フランソワーズがゆっくりと瞼を開く。
そこには驚いた表情でこちらを見ているステファンの姿があった。
「まさか……」
先ほどの顔色の悪さが嘘のように血色のいい肌。
フランソワーズはホッと息を吐き出した。
自らの体を触りながら驚いているステファンを見ながら、フランソワーズは問いかける。
「ステファン殿下、大丈夫ですか?」
「ああ……フランソワーズ嬢のおかげでよくなったみたいだ」
「そうですか。なら、よかったです」
「やはりシュバリタリア王国の〝聖女〟というのはすごい力を持っているんだね」
フランソワーズの手を握りながら、目を輝かせるステファンを見て驚いていた。
ステファンはすっかり体調がよくなったからか、御者や騎士に教会に寄らなくてもいいと声をかける。
すると馬車が止まり、三人は馬車の中を覗き込む。
そしてステファンの様子を見て驚愕していた。
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