第13話

フランソワーズはいまいち状況がわからないまま、四人のやりとりを馬車の中から眺めていた。

ステファンの側近でもある二人の騎士の名前は、イザークとノアというらしい。

イザークはライトブラウンの短髪に頬に傷がある背も高く体格のいい男性だ。

ノアはステファンと同じで中性的な顔をしていて、ワインレッドの長髪を結えている。



「フランソワーズ嬢のおかげだ。本当に力を押さえ込むことができた。これでオリーヴを救える……!」


「……?」



ステファンを呆然としながら見ていると、嬉しそうな彼と目があった。

ステファンはフランソワーズの前に手を伸ばす。

フランソワーズが戸惑いつつも、ステファンに手を引かれて馬車の外へと出た。

そのままステファンはフランソワーズの前に跪く。

流れるように手の甲なや口付けられて驚いていたフランソワーズだったが、ステファンはこちらを見上げるようにして視線を向ける。



「フランソワーズ嬢、フェーブル王国に来て力を貸してくれないか?」


「……っ!?」


「君の力が必要なんだ」



驚いて目を丸くしているフランソワーズとは違い、四人の期待に満ちた視線が突き刺さる。

混乱しているとステファンが立ち上がり、皆に声をかける。



「今すぐフェーブル王国に行かなければっ! フランソワーズの力ならばきっと……!」


「ち、ちょっと待ってください!」


「ああ、そうだね。フランソワーズ嬢はフェーブル王国で保護するよ。もちろん衣食住、すべてを保障しよう」



ステファンの条件は今、フランソワーズが一番欲していたものだった。

一人で街に出るということは、それなりの覚悟が必要だと思っていたからだ。

しかも彼の条件は、フランソワーズの国を出たいという目的も達成できてしまう。

ステファンの申し出にフランソワーズの心が揺れ動く。



「それに、事が落ち着くまではそうした方がいいのではないか?」


「それは……そうですけれど」


「今よりもいい暮らしを約束するよ。フェーブル王家はフランソワーズ嬢を賓客として歓迎する」



ステファンの甘い言葉に流されるまま、フランソワーズは馬車に戻る。

ステファンの言うことも一理あると思ったからだ。

馬車の中に戻り、フランソワーズはホッと息を吐き出した。

再び馬車は動き出す。


(このままじゃ国を出るまでに歩いて何週間もかかってしまうもの……このまま隣国に行けるのならありがたいわ)


シュバリタリア王国から出るために、ステファンの手を借りることを決めた。

しかしその前にフランソワーズはステファンに聞かなければならないことがあった。



「その前に黒いアザやステファン殿下のことについて教えてください」


「……」


「先ほど救ってほしい……と言っていましたが、何か事情があるのでしょうか?」



フランソワーズの言葉にステファンは「そうだな。フランソワーズ嬢にはすべてを説明するよ」と言った。

するとステファンはシャツに手をかけて、下までボタンを外し始める。

馬車の中でいきなり服を脱ぎはじめたステファンを見てフランソワーズは反射的に両目を手のひらで覆った。



「なっ、なにを……! 服を着てくださいませっ」


「あはは、君を襲ったりしないよ。見てもらった方が話が早いと思ってね」



ステファンがそう言って笑った。

フランソワーズはゆっくりと手のひらを外していき、ステファンを見る。

彼の逞しい肉体よりも真っ先に目に入るもの。

それは体全体を蝕むように這っている黒いアザだった。

あまりな禍々しさにフランソワーズは目を見張り、口元を押さえた。


そして先ほど首にまで上がっていた黒いアザは胸ほどまで下がっている。

その気配は悪魔の宝玉の中に渦巻く黒い煙と、よく似ているような気がした。



「これは……悪魔の呪い、ですか?」


「……そうだ」


「何故、解呪されないのですか? フェーブル王国にも悪魔祓いをする方がいるはずでは?」



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