第11話

今から本当にフェーブル王国に向かうのだろうか。

馬車の中でステファンは先ほど饒舌だったことが嘘のように黙り込んでいる。

重苦しい沈黙に耐えかねてフランソワーズは口を開いた。



「ステファン殿下、パーティーはもういいのですか?」


「ああ……プレゼントや手紙は渡してあるし、あの状況で彼らに挨拶をするなんてありえない。それに僕は……」



そう言いかけたステファンはフランソワーズをまっすぐに見つめた後に視線を逸らしてしまった。



「……?」



フランソワーズは首を傾げていると、またいつもの笑みを浮かべたステファンは口を開く。



「貴族たちが集まる中で証拠もないのにあのようなパフォーマンスをする王太子と親しいと思われても嫌だしね」


「……まぁ、そうですわね」



セドリックは大国の王太子であるステファンと親しいことを自慢して回っていた。

だが、ステファンはそこまでセドリックとよく思ってはいないようだ。


(意外だわ……よく話している姿は見かけるけど、親しいわけではないのね)


フェーブル王国は、シュバリタイア王国に対して友好的だったように思う。

その理由はフランソワーズにはわからないが、なにかあることは確かだろう。

それに自身の誕生日パーティーで、あのような騒ぎを起こすのはよく見えるはずもない。

フランソワーズとセドリックは婚約関係にあったのにもかかわらず、マドレーヌとあの場に立つなど自分の不貞行為を堂々と披露しているようなものだ。


小説の中では控えめなマドレーヌは会場で両親と共にいた。

しかし今回、マドレーヌはセドリックの隣で腕を組んで胸を擦り付けているなど、はしたなくて見ていられなかった。


(マドレーヌはセドリック殿下を体で落としたのかしら……)


フランソワーズとセドリックはそのような雰囲気になったこともなく、多感な時期には婚約者が決まっていた。

そんなセドリックが可愛らしいマドレーヌに迫られれば、断れるはずもない。


それにフランソワーズを追い詰めるつもりが、逆に返り討ちにあったとなれば建前もプライドもボロボロだろう。

それもフランソワーズが冤罪が証明されたら、立場はもっと悪いものとなるが、そんな醜聞は権力で握りつぶされてしまうことはわかっていた。

本当はもっと言いたいことがいっぱいあったが、少なくともあの場にいた貴族たちは宝玉のこともあり、不安が残ったことだろう。

マドレーヌが何も学んでいないことだけは真実なのだから。


(もうわたくしには関係ないけれど……)


そう言って再びフランソワーズは窓の景色を眺めていた。

どのくらいそうしていただろうか。

ふと、フランソワーズがステファンに視線を向けると彼の顔色は悪く明らかに体調が悪そうに見える。



「ステファン、殿下……?」


「……っ」


「顔色が悪いですが大丈夫ですか?」


「平気だ……すまない」



フランソワーズがステファンに手を伸ばして触れようとするが、彼は静かに首を横に振る。

体が痛むのか胸に手を当てて俯いてしまった。

明らかに平気そうには見えないのだが、何か理由があるのだろうか。

ステファンは荒く息を吐き出している。

フランソワーズは彼に触れようとした手を引いた。



「まさかここで……こんなことになるなんてね」


「ステファン殿下、休んだ方が……!」


「フランソワーズ嬢、近くの教会に寄らせてもらってもいいだろうか?」


「……教会ですか?」


「ああ、そこで休めば少しは落ち着くはずだ」



フランソワーズはステファンの言葉を不思議に思いつつ頷いた。

王都にはたくさんある教会も、離れるほど数は少なくなり見つけることが大変になってしまう。

だんだんと馬車の中でステファンの体調が悪化していく。

御者も騎士たちも、知らない土地で教会を探すのは難しいらしい。

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