第九話…開戦
※戦の規模は史実よりも大きなものとなっています。
―――――――――――
天候は豪雨と轟雷鳴り響く大嵐。戦を行うには最悪そのものの中、大島城と高遠城の間、今で言う駒ヶ根市にて高遠頼継・対・黒神亮仙の戦が行われようとし――
「いやあかんやろ、この天候で戦するんは。殺る前に死んでまいそうやわ」
…兎も角、亮仙の提示した一週間後と言う期日は経過し今日、伊那郡を賭けた戦が始まろうとしていた。
「ていうか…完全に囲まれちゃってますよねこれっ!?」
「当たり前やろ。規模がちゃうわ規模が」
現在、亮仙らの前に高遠頼継の本陣があり、背後には知久頼元を始めとした各城主率いる軍が挟み込むように展開されていた。
本陣だけでも二万を超えているというのに、背後を含めれば三万近く。
これに亮仙の率いる軍は圧倒的兵力差を前に怖気付く者も現れている。
「これはかなり、不味いんじゃない?」
「せやなあ。でもあれやろ?駿河方面の兵はあんまもってきとらんのやろ?」
「みたいです。流石に全兵を持ってきてしまったら守りがなくなりますからね」
段蔵の言葉通り、頼継は今川と木曽を警戒し全兵を動かすなどという事はしていない。諏訪方面は武田が攻めると予想し、本城付近の大半の兵を持ってきている。
その現状を思った亮仙は、やらかしたか?と笑いながら頭をかいた。
「笑えねーですけど?」
それに段蔵が冷静に突っ込んだ。
と危機的状況にもかかわらず巫山戯たように話している中、劜呉が一切喋らず真剣な面持ちをしている――ように見えるが目が嘗てない程にキラキラと輝いている。
なんだかじっと見ていれば耳としっぽが見えてきそうなくらいには…。
「それで?策戦通りに行きそうですか?」
「あーそやねえ…無理かもしれん」
「うっそ?!じゃぁあれかい?!即興でやれっての?!」
「しゃーないやろ…こんな荒れる思うとらんかったもん。地面砂に変えてもすぐ固まってまうわ。まー言うても僕の異能は対大軍やから、真正面から突っ込んで大半は持ってけるやろ」
亮仙の持つ対大軍異能は、個人で一万の兵を屠る事が可能とされる最強格の代物。天候で多少左右されるが、それは操っていない砂に限る。
自身の手で操れば天候の影響を一切受けず、本来の力を発揮することは容易だ。
とは言え今回考えてきた作戦は地面を砂に変えて、景清のバフで兵を強化し優位に立ち回れるようにするというもの。
しかしこの悪天候により、雨の影響で砂は固まってしまい大きな支障を敵へ与える事が出来ない。
当然他の策もあるが、最も有効的であっであろう策は自然によって殺された。
他にも策を思案したが、元より兵数でも異能使いの数でも負けているため兵を隠し奇襲を掛けるなどということも出来ない。たとえやったとしても対して被害は出ない、それどころか瞬く間のうちに全滅だろう。
「よし、正面は僕と重國二人でやるさかい、後ろは全兵連れて潰せ」
こうなったら仕方が無いとばかりに、亮仙は力ずくで叩き潰す事にした。異能使いの数や兵数で負けているとは言え、亮仙が先程自身で言った通り亮仙の異能は対大軍型。
そこに非戦闘異能ながら劜呉を負かした実力と馬鹿げた体力を持つ重國が入れば勝機はある。
だが後ろから攻められれば流石に対応が出来ない。そう考え自身と重國を除いた残りの戦力を背後へと回すことにした。
はっきり言ってこの策戦は亮仙のような対大軍異能が居るからであり、本来では決して行うことの出来ないものだ。
「分かりました」
「うっそぉ…今回は死にそうかも…」
「何故でござるか?!某も本陣の者らと殺り合いたいでござる!」
この策戦に段蔵は異議を唱えること無く首を縦に降り、重國は口端をヒクつかせながらも殺る構えを見せる。
だが劜呉は本陣と殺り合えない事に納得がいかないようで、異議を唱えた。
それに対して亮仙は現状、天候の影響で劜呉自身の異能が本来の効力を発揮出来ないことを指摘し、数の多い本陣側に突っ込めば死にかねないと説明する。
その上今回の伊那郡を奪うと言う計画は、終わらぬ戦国の世を作るための基盤も基盤に過ぎない。そんな始まる前の計画とも言える所で死んでは、この先のド派手な戦に参戦することが出来なくなると言い聞かせる。
だがそれでも心から納得入っていないのか、頬をハリセンボンのように膨らませた。
「むぅぅぅ…まぁ、承知致した…」
「安心せーよ。そっちの方が君的にはおもろいから…さて、」
亮仙は一息つくと、砂で4m程の柱を作りその上へと立ち兵達を見据える。兵の数は六千程度、今回の戦で四千、三千辺りまで減るだろう。なんなら全滅だ。
それでも亮仙はそんな事は気にしない。何せこの世界に来たのは、戦をするためなのだから。
その為ならば正義のヒーローにだって悪の王にだってなる。
「すぅ…さぁ諸君ッ!準備はええなぁあッ?!戦や戦ッ!殺して殺して殺しまくれぇえッ!敵将の首もぎ取ったれえやッ!そうしたら君らッ…歴史に名残せるで?」
「「「ッオオオオオオオッッ!!!!」」」
亮仙の喉がはちきれんばかりの、轟雷の音さえもかき消す鼓舞が、兵達の
「んじゃ!突撃せぇえええッ!」
「「「オオオオオオオッ!!!」」」
亮仙の号令と共に、兵達は武器を構え敵陣に向かって突撃を始める。敵も同じく攻め始めてくる。
そしてその一番やりは、
「爲影劜呉、この戦の一番やり、参るッ!」
刀に尋常ならざる火力の炎を纏わせた劜呉が蜂の如く敵陣へと差し込む、その一撃は重國と殺り合った時よりも何倍も威力が高い。
一気に数十の兵が焼きこがされ吹き飛ばされる。すぐさま敵兵が劜呉に切りかかるが蛇のように隙間を抜い次々と斬り殺し、焼き殺し、吹き飛ばしていく。
続いて段蔵が駿河側の指揮を取っている知久頼元の背後へと現れ、その首を斬り飛ばす勢いで忍び刀を振るう――が頼元はこれを難なく弾き返し追撃で回し蹴りを放つも、段蔵は影に逃げ少し離れた位置でまたも姿を現す。
「矢張りそう上手くは死んでくれませんか」
「当然ッ!俺の首は高いぞ女!」
「知ってますよ煩いですね。なので…爲影殿ぉおおおッ!」
段蔵が腹の奥底から劜呉の名前を叫び、赤い煙玉を爆発させる。それが劜呉の耳に届き、真っ赤な狼煙が劜呉に写る。
「そこかぁあああッ!知久頼元ぉおおおッ!」
「ほう!人任せか…いいだろう!来いッ!この俺の首を取るならば!それよりも早く俺が殺してやるわッ!兵達よ!道を開けろ!ソイツは俺が相手するッッ!」
高遠兵を吹き飛ばしながら突き抜けていると、頼元の号令と共に視界が開け頼元が眼前へと写る。劜呉は刀に纏う炎を圧縮して刃を紅く輝かせる。
頼元は刀を放り捨て、地面へと刺し立たせていた大身槍を手に取り引き抜き構えを取る。
「真!爲影流!
「知久流槍術!
劜呉の放った技と、頼元の放った技が真正面から最大級の威力でぶつかり合う。その衝撃で地面が捲り上がり強大な風圧が発生し辺りの兵諸共吹き飛ばした。
互いが放った技で両者も吹き飛ばされるが、すぐに体勢を立て直す。
「やるなぁあ!貴様ッ!名を名乗れ!」
「爲影劜呉!貴様の首!貰うぞ!」
「面白いッ!この知久頼元!こうして本気でやるのは初めてだ!」
知久頼元。史実とは大きく違い、この世界に於いては自身で独自の槍術を作り、信濃国で一二を争う槍使いとなった。
そんな彼の異能は、“激震”。一撃一撃が大地を揺るがし鉄塊を粉々に吹き飛ばす威力を放つ異能。
「俺が勝ったら嫁に来てもらおうか!」
「残念だが某は男だ!行くぞッ!」
「えッ?!なっ?!ちょっ!待てお前ッ――!」
突然の男発言に戸惑い隙ができた頼元の首を劜呉の刃が迫るが、頼元は後ろに転ぶようにして避ける。
そこから体勢を立て直し雨の如く槍の突きを放つ。眼前に迫り来る突きの雨に対して、劜呉は爆炎で地面を吹き飛ばし間を摂ると、すぐさま刀を鞘に収め抜刀の構えを取る。
「爲影流抜刀術ッ!空打ちッ!」
「ッ!」
抜刀と同時、見えない刃が放たれ頼元の頬を掠り血が飛び散る。頼元は寸前のところで、風が斬られるのを察知し避けたのだ。
「ふぅ、まじ強いなお前…」
(てか男なのかよコイツ…)
「当然だ。この刀は共に捧げた物…負ける訳には行かぬ」
「はっ!おもしれぇッ!俺も槍に命捧げた身だ!
二人の衝突はより激しさを増して行く。
▼
劜呉と頼元の戦いが苛烈を極めていた頃、本陣攻めの亮仙と重國は未だ動かぬ敵軍に対してどうするか思案していた。
「正直きついと思うよ〜こればかりは…やっぱ劜呉ちゃんこっちに置いてた方が良かったんじゃない?本当は威力落ちてないんでしょ?」
重國の言う通り、二万の敵をたった二人で相手をするには些か無謀がすぎる。
確かに亮仙の異能は対大軍型だが、相手の数と高遠頼継の実力を聞く限りそう上手く行くとは限らない。
そして今重國が劜呉の異能が低下していないと言ったのもまた事実。劜呉の炎の異能は天候程度で左右される程ヤワでは無い。
それでも劜呉を駿河側へ送ったのは単に…。
「阿呆。遊びはムズい方がずっとおもろいんやんか…覚悟決めーよおっさん」
「…はァ、覚悟?そんなのお殿に着いてくって決めた時からしてるよ全く…それじゃ行こ――」
『突撃ィイイイッッ!!』
『『『オオオオオオオッッッ!!』』』
「「ッ!!」」
重國が突撃しようとしたが、それよりも早く敵軍本陣から力強い号令が響き渡る。そして敵兵が雄叫びを上げながら二人目掛けて進撃を開始する。
流石に数が数、大地が大きく揺れその迫力は亮仙の率いる軍よりも圧倒的に迫力がある。
だがそれで怯む二人ではない。
「面白いじゃないのおッ!確か藤沢頼親だっけか?!その子の首はおじさんが貰おうかな!」
「ええけど…巻き込まれんといてな?僕初めてなんやから、本気で異能使うんわ」
「まっかせなさいよ!」
重國が亮仙よりも早く刀を抜き目の前から姿が消え、次には敵軍先頭が大きく吹き飛ぶ。松葉原重國の異能は決して戦闘型では無い――が、途方もない年月を生きその肉体は並の戦闘型異能使いよりも格段に上だ。
一般兵が相手であれば体力が続く限り負けることは無い。
「ははっ、歳の割に激しいおっさんやで…ほんなら僕も行ったろうか…」
亮仙が軽くてを動かくすと、突然ゴルフボール程の砂の球体が三つ出現する。その砂はうごうごと生き物のように流動し蠢き初めると、敵軍の頭上へと飛んで行き次の瞬間――
「異能解放:
砂の球体が体長20mを超える巨人へと変形し着地と同時に敵兵が吹き飛び血肉の塊が周辺へと飛び散る。
その光景はまさに地獄そのものとなっていた。
「まだ終わらへんよ?“剣”」
だが手を弛める事は無い。
亮仙が剣と呟くや否や、またもや三つの砂球が三体の巨人の手元へと飛んでいき、その体格に見合った剣へと変わる。
そして大きく振りかぶり、地面目掛けて振り下ろした。
その威力は人間の物差しではもはや測れるものではなく、一撃で数千近くの兵が死んで行く。
「ちょっとちょっと…ハリボテってのは嘘かい?!」
これが戦国最強の異能型、対大軍異能。たった一人で戦を左右し、勝利を収められる異能。
「さぁ、まだ始まったばっかやで?しっかり抗えや、アリンコ共」
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