第七話…怒涛の城落とし


 1542年、天文11年の年。伊那郡北部側に健在する二つの城、大島城・福与城に一通の文が知らずの内に届く。

 内容は『今日より三日後、太陽が天へと登った時より城へと攻め入らせて頂く。降伏をするのならば白旗を掲げよ――黒神亮仙』


 この文が届いた時、極一部の者たちはそれ程危惧する事では無いと発言をしたが、大島城城主はこれを斥け在中する二千余りの兵に厳重体勢を取らせ、何時でも迎え撃つ体制を取った。


 対して福与城城主は逆の考えをしており、城の守りは通常通りのまま、気にする事無く完全に油断していた。


 そして三日後、大島城の支城である北の城陥落。それと同時に大島城正面より、巨大な真っ赤な火柱が立ち昇る。



――大島城――


 天候は晴れ、大島城背後の天竜川は多少水位が上がっている。背後に配置された兵の数は極小数。小舟に乗り川に出ている者は居ない。

 城主である初老の男は油断は一切していなかった。常に自身で周辺を警戒していた。

 だが休息を取ろうとした瞬間、身体をよろめかせる程の地響きが大島城全体を襲う。

 これに城主ら兵は三日前に届いた文の襲撃と言う文字が強く浮かび上がる。

 空を見上げれば太陽は頂上へと昇っていた。


「じょ、城主様!北の城が爆発と共に陥落致しました!」


「な、なんだと?!敵兵の数は?!」


「不明に御座います!」


「くっ!最悪異能使いが絡んでるやもしれん!直ぐ様に援…軍…を……」


 突如城をの言葉が途切れる。何故ならば城主らの見つめる先、大門側に巨大な火柱が天高く立ち昇っていたのだ。

 あれが振り下ろされれば間違いなく甚大な被害を蒙りそう時間が経たない内に城は陥落する。 もはやその場にいる者達は絶望に包まれていた。


 しかしそれだけでは終わらず、又もや地響きが襲いかかる。また何処が吹き飛んだ、そう思った矢先大島城に巨大な人影が出来上がる。

 恐怖のあまり震えながらも天竜川の流れる背後へと目を向ける。

 そしてそこに居たのは、20mはあろうかという砂で出来た巨人出会った。


「……白旗を掲げよ…」


 この状況、何一つとしてもはや迷うことは無かった。例え抗ったとしても、無駄に兵が散るだけ。そう考えた城主は部下に白旗を掲げるよう命令を下した。

 それから数分後、大きな白旗が掲げられた。城が落ちた事に責任を取る為、城主が腹を切ろうとした時、短刀が粉々に砕け散った。


「ッ?!」


 これに何事かと驚いた城主が辺りを見渡すと、そこには見慣れぬ和装の男が立っていた。


「…其方が北の城を吹き飛ばし、巨人を作り出した者か」


「ぴんぽーん、正解。君ここの城主やろ?異能持っとる?」


「…ある…だが其方程の者の役には立たぬぞ」


「かまへんよ?僕は今兵が欲しいんよ。高遠切って僕の下に着け。そしたら君だけやなくてここにいる全員生かしたるわ」


「……っ分かった!この大島景清かげきよ!貴殿の下に着こう!」


 こうして僅か数分の内に、北の城と大島城は降伏という形で陥落。兵二千余りと城と共に、黒神亮仙へと下る。



――福与ふくよ城(現在の松川町側)――


 同時刻、福与城にも同じく襲撃があった。兵の数は千にも登らぬ程度。とは言え籠城してしまえば時間を稼ぐ事は出来る。

 その間に援軍を呼び掛ける算段であったのだが――その城主の首には歪曲した鎖鎌の刃が絡み付いていた。


「貴様!何者だ!」


 鎧を装着した兵が、刀を女へと向ける。しかし瞬きをした次の時には、手に持つ刀も身に纏う鎧も綺麗に斬り壊されていた。


「全く、何者だって聞いて答える子が居る訳ないでしょうに。そんなの聞くくらいなら主ごと斬り伏せなよ」


「ひ、た、助けっ」


 そう咽び泣きながら命乞いをする兵の眼前には、刀を肩に置いた男が笑顔で立っていた。


「大丈夫だって。出来るだけ敵兵は生かせって言われてるし、殺さないであげるよ」


 そう言い刀を鞘へと収めると、今度は女が口を開いた。


「福与城城主とお見受けする。突然ですが、異能は持っていますか?」


「も、持っていない!」


「そうですか…残念です」


 女は持っていないと答えた城主の首を瞬時に斬り飛ばすと、直ぐに女は姿を消した。

 そうして福与城は実質陥落。福与城に居た三百名程の兵は、残った男に先導され大島城へと向かった。



――高遠城――


 その出来事から数分後、高遠城に一通の文が同じく届いた。

 文にはこう書かれていた。

『大島城、福与城は我々が陥落させて頂いた。生かした二千五百近くの兵と大島城は貰い受けた――黒神亮仙』


 それから直ぐさま協議が開かれる事となった。

 高遠城には現在、伊那郡を支配する高遠頼継よりつぐを初めとした家臣軍そのすべてが協議の場へと座っている。

 そしてみなが見つめる先には、180後半はある筋骨隆々の男。


「どう思う」


「紛うことなき事実でしょう」


 高遠頼継の言葉に答えたのは、彼に使える家老であった。

 今日より一日半前、大島城及び福与城の両城へ攻め入ると言う文が届いたたという事は、此処高遠城にも知らされていた。

 故に余り驚くような事ではなかった。とは言え一部の者達は焦りを見せていたが、それに対して頼継はこう応える。


「どちらにせよ何れ大島城は武田に取られてだろうよ。なら別の奴にくれてやっても同じだ」


「そうですな。武田が城の改修を提案してきた時、既に我々と敵対する事を視野に入れておったはずじゃ。何せ自身の作り変えた城、誰よりも知り尽くし落とし易いからのぉ。それでも城を改修させたのは少しでも武田の輩に痛手を負わせる為じゃ。その役が我らではなく、その亮仙とやらに変わっただけよ」


 それに続くようにして、家老も自身の考えを述べる。これらの発言に他家臣は少しばかり動揺を見せる。

 だが頼継その上、


「それにだ、俺が前線に出張れば一発で決着は着く。そこ迄深く考えなくても問題はありゃしねーよ」


 このような傲慢な発言する。とは言え頼継の実力は確かなものだ。だからこそ誰一人として言い返すこと無く、その場はある程度の対策を寝る事で協議はお開きとなった。



――元大島城――


「これが高遠頼継の考える事です。本当に馬鹿だと思います」


 城落としが終了してから一時間程が経過した。

 現在は元大島城の開けた一室にて、黒神亮仙・爲陰劜呉・松葉原重國・加藤段蔵・元城主である大島景清とその他家臣が同じく協議を模様している。


「実力があるが故の慢心、そう遠くない未来我らが戦わずとも滅んでおったでござろうな」


「薄々思ってはいたが、まさかあの御方がここまで甘い思想をしていたとは…」


 余りにも考え無しの主である事がはっきりとわかると、大島は額に手を当て呆れたとばかりにため息を吐いた。

 だがそれは亮仙らにとっては好都合。この先大戦を行う為には多くの兵が必要となってくる。相手方要らないから挙げると差し出してくれるのならば、使える兵も城も快く受け取る。


「にしても結構簡単に落ちたね?両方とも。これが普通なのかい?」


 ここで重國は、両城が想定よりも容易く陥落した事に対して少ならず疑問を持っていた。

 これに関しては重國自身、城攻めは特に楽しめる事は無いからという理由で参加しなかったが故のものでもあったを


「んな訳無いやろ。今回に関しちゃ完全に福与城がちっこい上に油断しとったのと、こいつ大島が潔く投降したからや。ほんま抵抗しようとする阿呆やなくて良かったわ」


「あそこで抵抗したとしても、無駄に兵が死ぬだけだっのでな。であれば、白旗を揚げた方が良いというものだ」


「ひとつネタバレすんなら、あの巨人も火柱もハリボテ言う事だけやな」


「なに?そうだったのか?」


「当たり前やろ。幾ら異能使える言うても、あないでかい、それも動くもんを維持出来るわけないやろ」


「某も最大火力でその場に経つのがやっとでござった。もし抵抗されて居れば攻撃が直撃しとったでござるよ」


 今回大島城を落とすにあたり、亮仙が考えた策は完全なハリボテによる被害ゼロの完全制圧。

 当初は段蔵の提言した策で進めようと考えたが、それでは敵方にそれなりの被害が出て手に入る兵が減ってしまう。

 それを考えて、賭けに等しいハリボテ策戦で挑んだのだ。

 この策は失敗する可能性が高かったが、城主がまともであり懸命な判断のできる人間であったが為に本当に被害ゼロで制圧が出来た。


「まー失敗した言うてもどうにか被害最小で制圧したったわ。そっちの方はどうやったん?」


「此方は単純ですよ。福与城正面から重國様に突撃してもらい敵の意識をそちらへ向け、その内に私が影に潜って城主の背後へと忍び寄り首ちょんぱです」


「おじさんは素手かで叩き伏せるかだったからちょっとめんどかったけどね。まぁ面白くはあったかな?」


 福与城を落とす策としては段蔵の言ったことが大半であり、本当に重國は撹乱のためだけに正面から突っ込み派手に暴れた。

 もとより此方の福与城は手に入れる事を視野に入れていなかった為、いくら破壊しようとも問題はなかった。

 だからこそ重國は兵を殺さず制圧しつつ、周辺を破壊して出来るだけ敵の意識を自身へと向けた。

 そうして出来た完全な隙を突くように、段蔵が影を潜り城主の背後より忍び寄り、その首を切り飛ばす。

 見事これは成功し、僅か数分で陥落。その後事前に書き記していた文を高遠城へと届けた。それから高遠頼継らノ協議を盗み聞きしてその内容を亮仙らに報告した。


「んじゃ次落としいこか」


「もう行くのでござるか?」


「当然やろ?こう言うのは早い方がええんよ」


「成程。それじゃ今度はどこを攻めるんだい?」


「目の前の原城、それに続けて近場の城からどんどん制圧する。ええか?これは大戦のための下準備や。何にをするにしろ、下準備した方がええ結果になるやろ?それにそれなりの勢力で居れば長いこと楽しめるしなあ」


 亮仙の顔がピエロのように醜く、それでいて楽しそうな様相へと変わる。これにはその場にいた者たち全員が息を飲んだ。

 それから景清の説明により、原城城主は異能を所持していない事と、規模はそれ程大きくなく兵の数も少数。

 この事から城主である瀧口は生かさず、その後残された兵達は景清が指揮をとる事となった。

 そしてそこから続けるようにして大島城より下に在る城から落とす計画となった。


「そうや、段蔵しっかり送っときよ?降伏するかの文」


「当然です!既に書きまくっていますので何処にでもどうぞ!」


 そう言うと懐から手に収まらないで零れるほどの文が出てきた。


「それじゃ順次送ってこか。んで三日後旗立っとらんかったら、無理やり落とせ」




――原城――


 高遠氏の支配する伊那郡への本格的な進行をする文を送ってから六日後、殆どの城に白旗が上がることはなく、此処原城も同じく抵抗の意を見せたが――


「や、やめっ」


 原城城主のから鮮血が舞いながら首が跳ね飛ばされる。これにより全兵降伏。


「原城、ご馳走様です」


――原城。加藤段蔵の手により陥落。


――吉田古城・吉田本城・吉田南城――


 至る所が破壊され、兵の殆どが萎縮し平伏した城の一室にて、折れた刀を強く握り震える男の首に鈍色の刃がかかるると――


「悪いけど、うちのお殿様が弱い奴は斬っちゃっていいんだとさ」


 同じく城主の首が鮮血と共に宙を舞った。


――吉田古城・本城・南城。松葉原重國の手により陥落。



――大丸山砦・古御家ふるごや城――


「某の所は当たりでござったな」


 大丸山砦・古御家城、城主・兵共に全滅。

 生存者、無し。

 砦・城共に必死の抵抗の末、劜呉によって斬り伏せられた後、焼き討ちにより全焼。


――大丸山砦・古御家城。爲陰劜呉の手により陥落。



――松岡古城・洞頭どうとう城・大下砦――


 三城、突如と出現した砂の巨人が出現した事により萎縮。兵の士気が急激に低下した事により、白旗による降伏。


「え?君ら二人異能持ってないん?あーまぁええか、さいなら」


「「…は?」」


 松岡古城城主を除いた二人の首が斬り飛ばされる。


――松岡古城・洞頭城・大下砦、黒神亮仙の手により陥落。



――松岡城――


 此処松岡城では現在、松岡頼貞よりさだを初めとした家臣らが降伏をするか抵抗するかで物議がされていた。

 松岡頼貞は降伏し、黒神亮仙に着くと発言をしたが一部の者たちはこれに猛反対。ここまで抗い戦って来たものに顔向けが出来ぬと、凄まじい剣幕で籠城の用意を始めようとする。

 だが頼貞は、これからの事を考え抗った所でもはや意味はなさないと言い、反対する家臣らを落ち着かせる。


 それから四時間程が経過して時刻は夜、空は満天の星と月が美しく輝いていた。

 城内の一室、頼貞は責任を取り自決を決意。

 切腹を試みるが、その手を掴まれ地面へと組み伏せられる。


(主君の予想通り自害をしようとしていましたか)

「松岡城城主、松岡頼貞ですね?状況を見るに降伏、で宜しいでしょうか?」


「…あぁ……」


 その夜、松岡城は降伏という形を持って陥落。

 こうして、亮仙らは大島城を落としてから経十五日間で松岡城まで侵攻した。



―――――――― 

※大島景清は創作の人物です。

頑張って大島城が武田に渡る前の城主を調べたのですが、出てこなかったため創作いたしました。


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