最終話 Hello World
夕日を背に、首都郊外の田園地帯を一台の車が走っていた。
「さーて、これからどうすっかなー……」
助手席のエディが呟く。
「もう、この国にはいられませんよねー……」
運転席のエインがぼやく。
「だよなー……」
二人はあのあと、取り囲む国軍を蹴散らし、ステラをあの場に置き去りにして、命からがらここまで逃げきたのであった。
「これ、結果的に、オーウェンの代わりに僕らが世界中から追われる構図になっただけなんじゃ……」
「だよなー……」
とんでもなく重大な事態をさらりとエインが呟き、それをエディが肯定する。
「しかも、厄介なのにも追われてますし……」
「だよなー……」
「エディ・トンプソォォォォォォンッ!!」
二人の乗る車の遥か後方から、そんな怒号が飛んでくる。
「貴様ー、よくもこの私を足止めに使ったなー!!」
ステラの駆る鋼鉄の巨人が、ガシャンガシャンと金属音を響かせながら追いかけてきていた。
「お前、私の才能に屈服したんじゃなかったのかーっ!?」
エディは助手席から立ち上がって振り返り、ステラに応える。
「わりぃ、ステラー!! お前の才能は認めるが、やっぱ俺の方が天才だわー!!」
「また、そういうしなくてもいい挑発を……」
「もう、今度こそ許さん!! 世界の果てまで追い詰めて、お前に敗北を認めさせてやるー!!」
「うわー、アイツ、世界の果てまで俺らを追いまわす気だよー……どうする?」
「“俺らを”じゃなくて“あなたを”でしょう? いつも言ってますけど、私を巻き込まないでください」
そんないつも通りのやり取りを繰り広げたあと、エディは助手席に座り直す。
と、そこで、ズボンの後ポケットに厚みを感じ、手を潜らせる。
「あ……そういや、コイツのこと忘れてたな……」
それは封を開けられた手紙だった。
「何ですか、それ?」
「いや、これ……あの猿が首からぶら下げてた例の手紙だよ」
「あー……」
ゲートの向こう側の何者かが送り込んできた猿は、首から紐で封筒を下げていた。
その封筒の中には、エディが戯れに投げ込んた紙飛行機を広げて、長方形に折りたたみ直して入れられていた。
エディは向こう側の言葉で『Hello World』とだけ書き込んでいたが、その言葉に対して、これまた冗談みたいな返事が一言添えられているだけだった。
その紙を改めて眺めながら、エディはぼやく。
「世界の果てまで逃げ回るんだったら、いっそ、オーウェンと一緒に向こうに行けば良かったなー……」
「確かにそれは魅力的ですけど……僕たちはこの世界に残って良かったんじゃないですか?」
「なんでだ?」
「オーウェンがいなくなったとはいえ、各国は引き続き、核兵器の研究を続けるでしょう。遅かれ早かれ、この世界にも核兵器は必ず誕生します」
エインの言葉に、緩んでいたエディの顔に緊張が走る。
「核から人々を守るために、核を無力化するような発明が必要なんじゃないでしょうか?」
「それはどんなものなんだ?」
「百発百中の核兵器迎撃システム……核爆発にも耐えうるような材質……核反応を無効化するような力場……高度な放射能除去技術……」
エインが上げたものの数々に、エディは呆れた顔をして体を背もたれに沈める。
「どれもこれも、夢物語じゃねーか……」
「ですが、世界の平和のためには必要です。そして、必要は……」
エインはそこで言葉を止め、その続きをエディに促す。
「“発明の母”……だな」
エディは背もたれに沈めていた体を前のめりに起こす。
「もし、核兵器が意味を持たない世界になったら……オーウェンを迎えに行けますしね」
「よし、行こう!! 世界中から逃げ回りながら、核兵器をガラクタに早変わりさせる発明を作るぞ!!」
エインはアクセルを踏み、二人を乗せた車はスピードを上げ、世界の果てに向かって走り出す。
エディは異世界から戻ってきた手紙を、景気よく外に放り投げた。
紙は風に乗ってくるくると天に舞い上がっていく。
エディが『Hello World』と書いた下には、より大きな字でこう書き殴られていた。
『Hello Another World』
E&E 完
E&E 〜エジソンとアインシュタインの転生者バディ、前世の知識を活かして異世界を救う〜 阿々 亜 @self-actualization
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