第17話 旅立ち

「敵に回すと厄介ですけど、味方にするとほんと頼もしいですねー……」


 ステラの駆る巨人が空中放電を放ちながら、エージェントや機動隊を追い払っていく様を見ながらエインが呟く。


「全くだ」


 エディは腕組みをして満面の笑みで肯定する。


「いいように利用されたってバレたあとが怖いですけど……」


 ジト目でエディを見やりながらエインが呟く。


「全くだ」


 満面の笑顔を若干引きつらせながらエディが肯定する。

 が、先のことは頭のはじっこの方に押し込め、エディは櫓の上のオーウェンの方に向き直る。


「さあ、オーウェン!! 電流娘が奴らを足止めしてくれてる今がチャンスだ!!」


 オーウェンは自分の足元で渦巻いている蒼い光を見ながら、ゴクリとつばを飲んだ。

 そんなオーウェンの様子を見て、エインが心配気に語りかける。


「オーウェン。やめてもいいのですよ。向こう側の世界がどうなっているのかは、我々には知る由もありません。どんな苦難が向こうで待ち受けているかわかりません」


 オーウェン深呼吸を一つして、落ち着いた声で決意の言葉を発する。


「もう、決めたことですから……僕の知識は今のこの世界には危険過ぎる……それに、今いるこの世界よりもはるかに科学が進んだ世界に行けると言われて、興奮を覚えない科学者はいませんよ」


 半歩前に進み、櫓の足場スレスレに立つ。


「僕はオーウェン=ハイム=ロバートソン。世界を滅ぼす知識を受け継いだ者です。ですが、僕は世界を幸福にする科学者になる男です!!」


 オーウェンは飛んだ。

 未知とリスクが待ち受ける世界へ――

 だが、自由と可能性が溢れている世界へ――


 オーウェンの姿が蒼い光の中に消えていくのを見ながら、エディとエインはそれぞれ見送りの言葉を呟く。


「Bon voyage……」

「良き旅を……」


 オーウェンを送り出した二人に向かって一人の男が歩いてくる。

 Mr.トールマンである。


「やってくれましたね。E&E……」


 トールマンは憎々しげに声を絞り出す。


「実験成功……ということでしょうか?……心からお祝い申し上げます……」


 トールマンの皮肉に、エインが不敵な笑みを浮かべなら礼を言う。


「ありがとうございます。Mr.トールマン」


「こうなってはもはや、オッペンハイマーの知識など取るに足らない。あなた方の功績を我が国は未来永劫称え続けるでしょう……ですから……そのゲートを我々に渡して頂きます」


 そう、オーウェンの持つ核兵器の知識は逃したが、今、眼の前にはそれ以上の価値を持つ装置がある。

 このゲートを使用すれば、“彼の世界かのせかい”から核兵器のみならず、この世界にはまだない科学技術を無数に手に入れることできる。

 このゲートを保有することは、世界の覇権を握るに等しい。


「まあ、そんなに話を急ぐなよ」


 エディとエインは舞台を降りた。


「せっかくの世紀の実験の成功ですからね。我々としては余韻にひたりながら、ゆっくりとお祝いしたいのですよ」


 二人はてくてくと歩いて、トールマンの前までやってくる。

 ゲートのある舞台からはすでに数メートル離れていた。


「実は、祝いの花火を用意してるんだ。一緒に祝ってくれよ」


 エディは右手を、エインは左手を、トールマンの方に向けて突き出した。

 その手には小型の装置が握られており、親指が赤いスイッチに添えられていた。

 装置からは黒いコードが伸び、舞台上のゲートに繋がっている。


「なっ!! まさか……」


 トールマンが嫌な予感がしたのもつかの間、二人は同時にスイッチを押した。

 次の瞬間、爆音と光を撒き散らして、ゲートも櫓も舞台も粉々に吹き飛んだ。


 その様にトールマンは崩れ落ちて、地に膝をついた。


「なんてことを……なんてことを……なんてことを!!」


「ちなみに、あのゲートのコアになってた魔力融合炉なんだけどな……」


「恥ずかしながら、偶然の産物で、我々も何度か再現を試みたんですけど同じものは今のところ作れないんですよね……」


「あれー、いつの間にかゲートぶっ壊れてるー……いやー、こりゃ参ったー……同じものはもう作れないのにー……」


 エディは爆破跡に目をやりながら、わざとらしく棒読みなセリフを吐いた。


 トールマンは怒りに震えながら、ふらふらと立ち上がった。


「本当に作れないかどうか……徹底的に確かめてみようじゃありませんか……あなた達を政府の地下研究施設に監禁して!! 完成するまで死ぬまで研究してもらいましょう!!」


 トールマンの怒りに呼応するように、広場の外から増援が突入してくる。

 今度は警察の機動隊ではない。

 重武装した国軍であった。


「首から上が生きていればいい!! なんとしても捕らえろ!!」


 トールマンの怒号に、二人はクスリと笑った。


「捕らえるだって?」


 エディはコートの中から大筒の銃を取り出す。


「何か忘れていませんか?」


 エインは懐からサーベルの柄を取り出し、光の刃を現出させる。


「俺たちは世界最強の天才バディ……」


 エディは銃口を、エインは刃の切っ先を、自分たちを取り囲む軍隊に向けて、叫んだ。


『E&Eだ!!』



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