楽しみにしてて

 同日。夕食の時間。

 僕とアユハ二人で料理を食べながら雑談をする。



「友達の家に泊まってたんですか」


「そう。お兄さんにライン送った後意外と時間がかかっちゃって…、っていうか終わらなくて友達の家でその後もあのメイド服の作業してた」


「それじゃあラインはし忘れたんですか?」


「えっとそれは、確かスマホの電源切れたからだったはず。お兄さんに連絡できない〜って友達とはしゃいでた」


「あはは、そうだったんですね。僕はてっきり誘拐とかされてるのかなと思ってました」


「それだったらこの家にはまだ帰って来てないよ」


「確かに。それもそうですね」


「私お兄さんが『おかえりなさい』って言って来た時、え? もしかして私が友達の家泊まってるの分かってた? みたいな事一瞬考えちゃった。なんかお兄さんだったら有り得そうなのがちょっと面白いんだけど」


「それは普通に無理ですよ。アユハさんがどこで何してるのかが分からなくて、あたふたしてましたから」


「あはは、してそ〜」



 二人して料理を食べ終わり、食器洗いもすぐに終わる。


「アユハさんのメイド服が完成するのを楽しみにしてます」


 リビングのソファーでくつろいでいるアユハは、視線をスマホから僕に向ける。



「まかせて。かわいいの作るから」


「それは期待しています」


「うん。楽しみにしてて」



     ♯



 定刻に起きて、いつも通りに朝食の準備をする。


 アユハとの共同生活ルーティンは何パターンかに落ち着きつつある。

 朝を例にすると、僕だけの時、僕とアユハ両方がいる時、アユハだけの時、二人とも起きない時。


 住む人数が突然にして一人増えたが、なんだかんだで上手くやれていると思う。


 僕としてはもう、アユハは飼い猫のような立ち位置の認識でいる。

 アユハのあの飄々とした様子がまさしくそんな感じで、世話を焼くことは少ないが、どこか遠くで見守る親のような気持ちがある。


 不意にリビングのドアが開かれる。

 アユハが眠そうな様子で、目をこすりながら現れる。



「おはようございます」


「おはよ〜」



 僕はアユハの朝食の分も追加して調理を続ける。



「今日は朝から講義ですか?」


「ううん、なんか目が覚めたから起きた」


「珍しいですね。…もう少しで朝食が出来るので、待ってて下さい」


「うん」



 アユハはスマホをいじり、僕は朝食を二人分皿に盛り付ける。

 トーストに目玉焼き。



「いただきます」


「いただきま〜す」


 すぐに朝食を食べ終えて、皿洗いも終わらす。



「お兄さんこれから仕事?」


「そうですけど、今日は在宅での仕事です。…リモート会議ですので僕の部屋には来ないでくださいね」


「うん。わかった」



 アユハはそのままソファーに寝そべってスマホをいじっている。

 僕もこれから仕事が始まるので、二階の書斎に向かう。


 これがアユハとの共同生活。


 最初は確か、アユハが無理矢理僕の家に上がって来たと記憶している。

 それが少しずつ馴染んでいって、違和感もなくなった日。


 それが普通である。


 僕は二階への階段を登る。

 それもまた、いつも通りである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

メイドミー 桃深 春 @toumi_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ