第23話 出発の朝

 そして翌朝。雲ひとつない、晴れて気持ちのいい朝だ

 

 「......ん、もう朝か。うーん、イテテ......昨日は少し飲みすぎたようだ」


 レオはベッドの上で大きく伸びをすると、二日酔いの頭痛を引きずりながら、窓際に立ちカーテンを開ける。外の様子を眺めるといつものように、外庭でアルが1人鍛錬をしている

。下へ降りて、アルに声をかけようと近寄ろうとした瞬間、柱の陰から小柄な人影が飛び出した


「この鈍感男ニブチン!」


 バチーン!!


 そういうと、その影はアルの頬を平手で張った。その正体はヒルダだ。寝巻姿で髪はボサボサ、目の下にはくっきり隈ができている


 「痛ってえ!!何故っ!?」


 ふん、と悪態をつくとヒルダは身を翻して行ってしまった


 「......おはよう、レオ。もしかして見てたかい?はぁ〜女心ってわかんねぇなぁ......朝起きて鍛錬してたら、いきなりバチーン!だかんなぁ......」


 その様子からレオは、ヒルダはきっとアルのことを一晩中待っていたのだろうと察した


 「なんかオレ悪いことしたかな〜。あ、もしかして草むらで、こっそりいていたのがバレたとか......」


 ヒルダの言う通り“鈍感”だなあと思ったレオは、ああそうだなと生返事を返し、そこからは何も言わなかった


------


「......よし!こんなもんかな」


 馬車に荷物を積み込むと、アルは汗を拭って制帽を被り直した。今から出れば、お昼頃にはミクラスの御所へ到着するだろう


 「では、気をつけて行って参れ」


 わざわざこの屋敷の主、オーザム卿が出迎えてくれた。既に客車に乗り込んだエルとレオが、窓から手を振る。アルが立ち乗り席に乗ろうとすると、大荷物を背負ったヒルダが走り込んできた


 「待って!私も護衛の騎士として、旅に同行する!」


 馬車から降りたアルは、ヒルダを見つめて首を横に振る


 「なんでよ!私は貴方たちの足手まといってわけ!?剣だって......」


 「違う。」


 ヒルダの言葉を遮り、アルはまるで小さな子どもをさとすような、優しい口調で語りかける


 「貴様には領主おやじさんを助け、領民の幸せを守る立派な仕事があるだろう。だからこそ、この領地、俺の帰ってくる場所にいて欲しいんだ」


 「アルフレッド......」


 「そのかわり......」


 さっきまでの優しい眼差しが嘘のように崩れ、鼻の下をデレっと伸び、股間リトルアルが一瞬のうちに”もっこり“した


「帰ったらいっぱい子作りしようねぇ〜ん♡」


 アルは腰を振りながらそう続けた


「最低!」


 ヒルダは赤面しながら、躊躇なく股間を蹴り上げた。晴れ渡った青空に情けない男の悲鳴が轟いた


------

 「ハイヨ〜!」


 御者が馬に鞭を打つと、馬車はゴトゴトと動き始めた。3人は見送るオーザム卿とヒルダの姿が小さくなるまで手を振り続けたのであった



 

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幼馴染のもっこり兵士は世界を救うのか!?〜転生者と女商人を添えて〜 稲田亀吉 @Turtle_Inada

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