第2話 里桜宮
―2日後。
麗鈴はとある場所に来ていた。
「ふふ、春の園遊会以来かしら?久しぶりね麗鈴」
(花が綻ぶ笑顔というのはこんな感じなんだろうな)
拝礼を取りながら、可憐な花がばぁっと花開くような笑顔を盗み見てしみじみ思う。
淡い亜麻色の髪にこの国には珍しい蜂蜜色の瞳がキラキラと輝いている。
何気ない仕草一つなのに自然と目を向けてしまう。
目を引くと言えば……とある傾国の美人顔な宦官を思い浮かべたが、アレは見てほんわかするような笑顔ではないな。
どちらかと言えば人をたらしこむ妖艶?な感じがある。
決して他人に振り撒いてはいけない。
確実に何かが事故りそうな予感しかしない。
「桜花様お久しぶりです。しばらく里桜宮にてお世話になります」
現在後宮には3人の妃がいる。
3人の妃にはそれぞれ専用の宮が用意されていて……
―麗鈴が在籍する
―陛下とは血筋的には従姉にあたる
―そして、唯一御子を生んだこの宮の主である
「もう、麗鈴ったら堅苦しいわよ。でも、今回はあの人の依頼ですものね……仕事が終わるまで無理よね」
(いや、仕事が終わっても王の妃にフレンドリーに話しかけるのは無理ですよー……)
そもそも“あの人”と濁している辺り何かしらの事前情報は聞いているのだろう。
李珀様からあの非現実的なお願いをされた翌日、聞かなかった事にしてしまおうとしていたのに“あの人”から直々に依頼する手紙が届いてしまった。
手紙を受け取り中を見てしまった時点で[拒否]の2文字はあっけなく消えてしまったのである。
さすがに命は惜しいので引き受けざるを得なかったが……
手紙を持って来た満面の笑顔の李珀様を殴ってしまっても良かったのではないだろうか?
この外堀を埋められていく感じに少し……いや多少?……かなり不満を抱く。
この何処にでもいそうな平凡な1宮女に押し付ける仕事ではないだろう。
そもそもいくら度々里桜宮にお邪魔させて貰っている顔馴染みでも、元は違う宮の宮女なのだ。
王の御子を産んだ妃の宮にホイホイ配置して言いワケがない。
屈強な武官……後宮だから王と直系皇族以外の男は足を踏み入れられないんだよなぁ。
いるとしたら……
「何か物凄く不満そうな顔だな」
「えぇ、誰かさんのお陰ですこぶる気分が悪いです」
「風邪か?妃と御子に移すなよ。」
この男、嫌味が通じていない。
いや、自分だと思ってないんだろう。
他人に嫌味とか言われなさそうだし。
(顔がいいって得だよな……。まぁ、なりたいとは微塵も思わないが)
「今、失礼な事考えなかったか?」
「いえ、珀様のきのせいですよ。それで引き受けた以上調べなくてはいけないので詳細を教えて下さい」
ちっ、何で変な所で勘がいいのだ。
話題を変えるべく、ここに来た理由を李珀に問う。
後宮の陰 亜依朱 @rokudouarisu
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