第8話 スミレ色の伊達メガネ②

「見せたいものっていうのはこれ。かけてみるけれど、笑わないでほしい。絶対に」

 先輩が真剣な目をして見せたのは、「スミレ色のフレームのメガネ」。おそらく、伊達メガネなのかな。

 え、もう一つ伊達メガネを作ったの???

 お金あるんだな。三年生くらいになると。なんか、すごいな。気迫が面白くて笑ってしまった。

 先輩がそのメガネをかける。


 一瞬で、雰囲気が変貌する。

 知的な印象はそのまま。だけれど、もう、ね。なんというのかな。

 ちょっぴりエロいんだよね。スミレ色の醸し出す雰囲気と、先輩の可愛い顔が絶妙にマッチして、ね。

「あ、すご」

 声が出てしまう。

 先輩はそのちょっぴりエロい印象のまま、言葉は生真面目にこんなことを言った。

「俺とお付き合いしてほしいんだ。なんか、妹みたいに思ってて。ずっと大事にするから。一緒に、いろんなところに出かけたいから」

「それって………。わたしを『好き』って気持ちなんですか」

 心臓にすごく悪い。こんな展開、あるの?

 嫌われたかと思ってた。なのに。

 泣きそうになったわたしの頭を、先輩はポンポンとしてくれた。

 罪な男だな。

「先輩、やめてください。あーもう。スミレ色っていうのは先輩にすっごくよく似合うんです。反則級に似合うんです! 何でも言うこと聞きますよ」

 わたしは内心、キスとかしてもらいたくてそう言ったんだけどな。

 忍田先輩は大人だ。生徒会長という立場もあるんだろうな。優しく手を繋いで、公園を一周だけして、その日はさよならした。


「付き合ってるんだよね! これ!」

 夜、興奮して眠れないわたしは、アトリエに入ろうとしたところをおばあちゃんに止められた。

「結衣はもう、夏休みまで絵は禁止!」

 おばあちゃんはニヤリと笑い、そんなことを言う。

「恋に邁進してごらん。絵よりはいいもんが見られるかもよ」

 おばあちゃんは全てお見通し。わたし、何にも話してないのにな。

 おばあちゃんはアトリエにわたしの代わりに入った。これから創作を始めるみたい。

 邪魔をしないように、わたしは二階の自分の部屋に戻る。ベッドの脇に置いてあったスマホに、先輩からの通知が届いている。

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絵描きの卵と、「王子様」を見つけた日 瑞葉 @mizuha1208mizu_iro

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