第7話 スミレ色の伊達メガネ①

 忍田先輩にラインで呼び出されたのは、六月上旬の土曜日だった。

 わたしは何週間か、絵を描く気力を失って呆けていたところだった。先輩からラインをもらって、「そうか。アトリエ訪問のあの日にライン交換したなあ」なんて、少し懐かしく思い出す。

 髪が伸びてきていたのに、切る気力もなかったんだな。

 会う時になってそう気がついた。

 もう、肩肘張ることなんか何もない。わたしは一番恥ずかしいものを、先輩に見られてしまった。


 たとえ、裸を見られたって、あんなに恥ずかしくはない。芸術家の卵にとっての「妄想」って、そういうもの。


「スミレ色」のあの絵はアトリエの片隅にひっそりと今は眠る。

 先輩はわたしに気を遣ってくれてるのかな。

 わたしなんかに今更会って、どうするつもりなのかな。

 白いシャツを選んで着た。ボタンの上にピンクのリボンがついてるやつ。可愛いやつ。

 公園に着くと、スズメに豆のお菓子をあげてしまう。もちろん、豆のお菓子はスズメ用に家から持ってきていた。

 わたしは動物がとても好きだから。


「あまり、野鳥に餌をやるもんじゃないぞ」

 わたしをたしなめる声がした。忍田先輩。

 

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