最終話:お帰り真凛。

俺は道満さんから教えてもらった真凛の家の前に立っていた。


「ここか・・・」


表札を確かめたら、蘆屋と言う表札がかかっていた。

間違いなかった。


玄関ドアを見ると


「泥棒さんへ、この家は取る物はありませんから諦めてお帰りください」


って書いた紙が貼ってあった。


(真凛・・・やることが、子供だな・・・)

(こんなの見て,分かりましたって帰る泥棒いるわけないだろ)


でも、そこに真凛の優しさが見えた。


俺はすぐに玄関のチャイムを鳴らした。

ちょっとドキドキした。


しばらく、待ったが、誰も出てこない・・・。


(真凛・・・いないのか?)


何度かチャイムを鳴らしたが結局、誰も出てこなかった。

俺は、まじで不安になった。

元にもどってないいじゃないか?


だけど確かめようがなかった。

不安を抱えたまま、しかたなく俺は一度マンションに帰った。


じいさんはグースカピースカ、イビキをたてて寝ていた。


「よく寝るじいさんだな」


(それじゃ〜泥棒が入って来ても気付かないだろ)

(まあ、セキュリティーばっちりだから泥棒も入って来れないけどな)


さて、どうしたもんか・・・。

俺は溜まっていた仕事もこなさなきゃいけいなかったし・・・

ある程度目処がついたらまた、真凛の家に行ってみることにした。


仕事を全部かたずけるのに、それでも一週間かかった。

途中で入った注文はキャンセルするか保留してもらった。


で、また俺は真凛の家を訪ねた。

でも、何度チャイムを鳴らして、誰も出てこなかった。


「真凛・・・どうなってるんだよ・・・なんでいないんだ」


俺は困り果てた。

困り果てたまま、またマンションへ帰った。


元気がない俺をみて・・・鴻鈞道人こうきんどうじん

いぶかしく思ったのか、何かあったのかと俺に聞いた。


真凛の家を訪ねても、誰も出てこないことを俺は爺さんに話した。


「なるほどのう〜真凛ちゃんに会いたいのなら初めて会うた場所へ

行ってみたらどうなんじゃ 」

「期せずして出会った場所があるであろうが・・・」

「おまえらが運命で繋がっているなら再び奇跡がおこるやもしれんぞ」


真凛と初めて会った場所?・・・あの駅。


鴻鈞道人の言葉に俺は、ハッとしてすぐに彼女と出会った駅に向かった。


「爺さん・・・最高のアドバイスありがとう」


初めて彼女が俺をみて「あの・・・私が見えるんですね?」って言ったあのベンチ。

駅につくと俺はいの一番にあのベンチ向かった。

ホームにはたくさんの乗客が電車を待っていたが真凛の姿はなかった。


電車がやってきて乗客がみんな乗り混んで、その電車が去るのを見送りながら

俺はベンチに腰掛けて彼女が来ないか、しばらく待っていた。


でも、爺さんが言った奇跡はおこらなかった。

そんな偶然起こるはずないんだと俺は思った、


ここに座っていても、拉致があかないと思った俺は駅舎の中も覗いてみた。

客が右往左往している中から制服を着たひとりの女子高生を探すのは大変だった。

真凛と同じような制服を着た女子高生がけっこういた。


諦めるに諦めきれなかった。

それこそ、こんなに多くの人の中で真凛を探し出せたら奇跡だって思った。


俺はひとつため息をついた。

しかたなく俺は後ろ髪引かれる思いで駅舎を出ようとした。


そしたら、いきなり後ろから俺の手を掴む誰かがいた。


「見つけた・・・・」

「ようやく見つけた・・・春樹」


「え?真凛?」


それは紛れもなく、俺の大切な人だった。


「よかった・・・春樹、もう会えないかと思った」


「真凛・・・本当に真凛か?・・・会えた・・・奇跡だ」


「でも、なにしてたんだ・・・」

「真凛が俺の前から消えてから、道満さんに真凛の家の住所を聞いてすぐに

会いにいたんだぞ・・・留守だったじゃないか・・・なにしてたの」


「え?そうなんだ・・・私は元の体にもどったあと、すぐに春樹の

マンションに行ったんだよ・・・でもセキュリティーが厳しくて入れなかったの」

「携帯番号も聞いてないから連絡の取りようがなくて・・・」


「だからもしかしてって思って、この駅に来たの・・・」

「春樹も私と同じことを考えたならまたこの駅で会えるかと思って・・・」

「一週間、毎日駅に来てたんだよ」


「だからか・・・昼間、真凛の家を訪ねてもいないはずだな・・・」

「俺たちずっとすれ違ってたんじゃないか?」

「あ〜よかった・・・悪いこと考えて気が気じゃなかったんだ」

「心配させやがって・・・おしおきだな・・・」


「春樹・・・私・・・嬉しい」


そこまで言うと真凛の瞳から涙がこぼれ落ちた。

俺はたまらず真凛を引き寄せて抱きしめた。


魂だった真凛は抱きしめたことはあったが、正真正銘の真凛を

抱きしめたのは、はじめてのことだった。


伝わってくる鼓動・・・聞こえる吐息・・・そして暖かい温もりと

石鹸の匂い・・・たしかに彼女は息づいていた。


「真凛・・・おかえり・・・もう二度と離さないからね・・・」


「ねえ・・・真凛キスしていい?」


「いいけど・・・周りの人が見てるよ」


「そうか・・・もうみんな真凛が、俺たちが見えるんだ」


「じゃ〜キスはお預け・・・さあ、帰ろう真凛」


「これから、私たちずっと一緒にいられる?」


「一生ね・・・でもって俺たちが魂になっても・・・たとえ黄泉国よもつくに

行ったとしてもね・・・」


おしまい。

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黄泉国物語。 猫野 尻尾 @amanotenshi

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