第5話 おとぎ話

「あなた、魔王を知らないの?」


 私の問いに彼女は困惑の表情を浮かべる。

ここが恐ろしいほど中心部から離れた田舎なのか、それとも意図的に情報が制限されているのか、或いは魔王に支配されている…‥?


「し、知ってますよ! それぐらい、おとぎ話ですよね? かつてこの地を支配した……から始まる」

「おとぎ話?」


 ただでさえはっきりとしていない頭がさらに混乱する。

魔王がおとぎ話だなんて、どうかしている……今もどこかで息づいているかもしれない存在をおとぎ話で済ませていいわけがない。


「そ、そうだ、勇者は? 勇者はどうなった?」

「勇者? それもおとぎ話の中に出てくる勇者のことですか?」


 私は返す言葉を失った。

この世界には魔王も勇者も存在しない。

微かに残っている記憶が否定されたような、そんな感覚に襲われた。

それじゃあ、私が今いるここはどこなのだろう。

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魔王が滅んだはずの世界で私は女神になった。 灯台下暗し @marumaruhige

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