第68話骸骨の宴


 むしゃくしゃはする。



 俺と瓜実氏はこんな所いられるかと軍用車を一台カッパいでクリーチ航空基地を出る。


 運転は一花さん、助手席には仁香さん。


 後部座席に俺と瓜実氏が座る。


 砂漠の一本道。夜になり、街頭一つない暗闇の砂漠を永遠車を走らせる。


「まあ道があるんだ、いつかどこかには着くわな」


 と、瓜実氏が言うし、俺もそう思うのでとりあえず一花さんには車を走らせてもらう。


「でもどうするよ? このままじゃ帰るに帰れないぜ?」


 そうなのだ、俺と瓜実氏は軍用機でアメリカ本土にストレートインしちゃったのでパスポートもないし入国審査も受けていない。


 ハワイでは受けたんだけど、そんなもんここでは無効だろう。


 帰る手立てがない。


 あーむしゃくしゃする!


 砂漠の中に一軒のバーガーショップを見つけ、一花さんが車を止めてくれる。


 店内に入ると外国人のおじいが一人、カウンターの向こうに立ち、店内にはおじいと俺と瓜実氏だけだ。


 店内はアンティークダイナーって感じだ。アンティークと言えばきこえはいいが古いだけと言えば古いだけのバーガーショップ。


 カウンターとボックス席が四つ。カウンターの端にはタバコや謎のお菓子が売っている。


 一花さんと仁香さんは車を見ていてくれている。


「基地から来るには浮かれた格好してるじゃねえか?」


 おじいがそう言いながら、もう何時から火が入ってんだよっていう煮詰められすぎたコーヒーを二つ出してくれる。


 瓜実氏は鬼と竜が踊る紫色のアロハに短パンにビーサンだし、俺はタンクトップにワイキキショッピングセンターで夏目とお揃いで買った合皮の黒ハーフパンツにスリッポンだ。そりゃ場違いだろう。


 俺はハンバーガー、瓜実氏はチーズバーガーを頼み、瓜実氏はタバコを吸う。


 店内を見るとジュークボックスがある。


 俺が手を出すと、瓜実氏が俺の手のひらに二十五セント硬貨をのせてくれる。


 マイケルねえかな? こんな時はマイケルでも踊らねえとブチギレそうだ。


 マイケルが流れ出し、センが俺の前に現れる。


 俺とセンは迎え合わせで鏡映しにダンスを始める。


 まずは大きく横に脚を開きすり足で閉じていく。


 また大きく足を開き右足を中心にピボットターン。


 その間も指パッチンは欠かさない。


 曲のタメに合わせキック! そこから右左右と虚空を指さす。


 俺とセンが指さした虚空からどんどんセンそっくりな骸骨が飛び出しすぐにバーガーショップの中は数十体の骸骨のダンスホールに様変わりする。


 ポウッ! 


 カッ!


 ヒヒーユ!


 俺が奇声を上げるたび御遺骨たちは跳ね、バーガーショップ全体が揺れる。


 骸骨たちでぎゅうぎゅうになったフロアにキッチンからハンバーガーとチーズバーガーをもったおじいが入ってきて、驚きバーガーが乗っている皿を落としてしまう。


「神よ……」


 おじいが神に祈り出したので、


「大丈夫だ、この世の終わりじゃねえよ、信じられんことにな」


 と、瓜実氏が倒れそうなおんじを支え椅子に座らせる。


 俺は飛び跳ねる骸骨たちの中心でムーンウォークを決め三回転ターンでフィニッシュ。


 ジュークボックスの音が止まり、骸骨たちが次々粒子になり消えていき最後に黒い貫頭衣を着た黒いテルテルボウズのようにカワイイ姿のセンだけが残る。


 俺とセンはハイタッチ。


 顔が真っ青なおんじと拍手をしてくれる瓜実氏が並んで座っている。


 あれ? ハンバーガーは?


「おんじがお前さんのダンスに感動して、落としちまったんだ、仕方がねえ、行くとするか」


 瓜実氏が椅子から立ちあがり、数枚の百ドル札をおんじのネルシャツの胸ポケットにねじ込む。


 店を出ると車の前で一花さんと仁香さんが立って待っていてくれた。


 真っ暗な砂漠とアスファルトの一本道。


 軍用車と点滅するダサいバーガーショップのネオン。


 空に浮かぶ半月とたたずむボロボロのダークスーツを着た骸骨が二体。


 俺と瓜実氏。


 遠くに来過ぎた感覚がある。足元が地面についてない感じ。きっとここには俺の寄る辺がないんだろう、この世と俺を結び付ける何かが欠如している。




 だから何だって話だが。




 とりあえずコーヒーは飲めた。煮詰められたカフェインとセンとのダンスでグラグラした頭が少し平熱に戻った。


 俺は車のボンネットに座り、瓜実氏は俺の前に立ちタバコに火をつける。


 とりあえず飯っすかね?


「だな、それとヤサ」


 ダンジョンがあるんだ、近くに探索者の集まる町とかありますかね?


「そりゃあるだろ、探索者は怠惰な生きもんだからな、ダンジョンの近くに住みたがるもんさ」


 横浜はダンジョン地区に多くの探索者がすんでいたし、松山ダンジョンなんてダンジョンの中に街を作り住んでいた。


 ここデスバレーダンジョンでも同じことが行われている可能性は高いか。


「とりあえず、めざしますかダンジョン」


「まあ、それがベターだわな」


 それより寒い。砂漠は夜になるとマジで寒いって本当だったんだな。


 俺が白い息を吐いていると、ウメが出てきて、真っ黒なキルトでできているロングコートを着せてくれる。


 袖口と襟ぐりに金糸で草花の見事な刺繍がされている。


 キルトだしあったかい。


 ありがとウメ。


 俺がお礼を言うと、ウメは俺の頭を撫で伽藍堂に戻っていく。


「いや、俺も寒いんだけど?」


 それは瓜実氏の危機管理能力による自己責任なので無視する。


 コートも一着しかないしね。

 







 ◇◇◇◇








 ウメのコートに包まれ一花さんが運転する軍用車の中で眠りについていたら周りが明るくなるの感じ目を開く。


 車窓のから外を見ると荒野としか言いようがない砂漠の向こうから太陽が昇ってくるのが見えた。


 朝だ。


 車は止まり、外に出ると看板があり、


『ようこそダンジョンの町、ファーニスクリークへ!!』


 と、書かれていた。


 目的地に着いたようだ。


 瓜実氏は看板の裏で立ちションしている。


 ついでの俺もする。


 すっきりした俺と瓜実氏をのせた車はファーニスクリークの中に入っていく。


 砂漠の中にいきなり現れる巨大な団地とでもいえばいいのかな? 七階建てくらいの元は真っ白なっただろう風化した壁の飾りっけ皆無の同じ形をした集合住宅が難十棟も規則正しく並んでいる。


 そりゃそうだ、アメリカは探索者の数は多い。日本の倍以上はいる。その数の探索者が一か所のメジャーダンジョンに全員集まるのだ、人口は過密になるだろう。


 段違いを抜け、メインストリートぽいところに出る。


 レストランにバカデカいカジノ、さすが探索者、宵越しの金は持たないらしい。


 映画館にナイトクラブ、目的のホテル。


 ホテルの前に車を止め、受付に入ると受付の若い女性が部屋の数をきき、俺は別に一緒でいいので一つと答えるとものすごく奇妙なものを見る感じで俺と瓜実氏を見る。


「カップル?」


 なんでだよ? ツインの部屋取ってるだろうが。


「ねえ東洋人、ここ合衆国では成人したら親子でも別の部屋を取るのが常識よ?」


 知らんがな。


 いいから鍵出せよ。


「いやおかしいから! それとも本当はカップルなの!?」


 と、受付がなかなか鍵を渡してくれない。


 最後は瓜実氏が全国共通のスジ者としか見えないブチギレ方をし、受付の女を泣かせ鍵を奪い取る。


 どっと疲れた。部屋に入ると瓜実氏が先にシャワーを譲ってくれたので入るとシャワー出てくるのは水だった。


 俺この国嫌いになりそうだよ。


「俺はもうとっくに嫌いだから気にすんな!」


 ぐったりしている俺の肩をポンと叩きシャワーに向かう瓜実氏を見送りながら布団に包まる。


 もう夢も見ない。


 疲れを少しでも癒すためだけに眠りに落ちていく。









◇◇◇◇








 目を覚ますと夜だった。


 瓜実氏は自分のベッドに座りタバコを吸っていた。


「飯いくか?」


 そっすね。


 洋服を着て、ウメのキルトコートを羽織り瓜実氏と二人部屋を出る。


 受付はおばちゃんに変わっていた。


「ああ、東洋人のカップルね、変なプレーして部屋汚すんじゃないよ」


 と言ってきた。マジで、この国嫌いだわ。


 ホテルを出て外から人が入っているの見えるレストランを見つけ入る。


 ベトナム料理かな?


 フォーと揚げ春巻きと焼き飯を頼みシャアして食べる。


 生野菜が食べたくなってきたからサラダも頼むと砕けたピーナッツがのっていておいしい。


 唯一アメリカに来て当たりだったのはこの店のこのサラダだけだ。


 瓜実氏もそう思ったのかビールのおかわりを頼んだときに百ドル札をチップとして渡していた。


 うまいものを食うと少し心のトゲトゲがふにゃっと和らぐ。


 そんなタイミングを見計らっていたかのように、


「相席、よろしいかしら?」


 と、声がかかる。


 顔を上げると、この探索者しかいない町には不釣り合いの高そうなネイビーのスーツを着た金髪の女性が立っていた。


 銀色の細い眼鏡と頭の上でキッチリとまとまられた金髪はこの国に来てから始めて感じるインテリジェンスを感じる。


「どうぞ」


 俺がそう言うと、女はにっこり笑みを見せ、瓜実氏の横に座った。


「私は合衆国情報局エージェント、そうね、コードネームで悪いのだけど『人間遣い』と言うわ、以後お見知りおきを」


 右手を出してくるので、俺は箸を咥え握手をする。


 人間遣いは次に瓜実氏とも握手をし、


「ここのサラダ最高よね、私も大好き」


 と、店員を呼び同じサラダとビールを注文する。


 俺たち三人はもくもくと飯を食い、瓜実氏と人間遣いは次々ビールを飲み干す。


 三人前の倍以上の飯を食い終わり、ナプキンで上品に口を拭く人間遣い。


「それで、お二人はどうするの?」


 帰りたいんですけど、早急に。


「私たち中央情報局としては、大統領令が出るまで、ここにとどまってほしいのだけど……」




 は?

 殺すぞ? 




「おいおいおい!! まてまてまて!! 今のはヤバかった!! 落ち着け落ち着け!! 最悪俺がハワイまで背負って泳いでもいいから今は落ち着けって!!」 


 瓜実氏が俺の手を取って落ち着かせようとする。


「おめえらも勘違いすんなよ! ダンジョン一つ御せなーくせにしゃしゃってんじゃねーぞ!! クソが!!」


 人間遣いを怒鳴りつける瓜実氏。


「大丈夫だタカシ、俺はお前が望む通りにしてやる。ちょっとの我慢だ、ほんのちょっとだけだ。だからまだ肉の臭いを捨てんな、お前は肉の臭いが気に入ってんなら、留まれ。な? 頼むぜ?」


 瓜実氏が泣きそうな顔で説得してくるので、少し怒りが落ち着く。


 別に肉とか好きじゃないけど。


 それより、なぜかツンが出てきている。


 ウメも。


 大丈夫、別にこの人本当に殺したりしません。俺グロとかゴアとか苦手だからね。


 さてどうしようかね。


 瓜実氏におんぶされて太平洋を渡りたくない。


 そもそもダンジョンが溢れそうなのがいけないんだろ? 


 勝手に溢れをなくせばいいか、それが一番手っ取り早い気がしてきた。


 人間遣いさん、デスバレーダンジョンは二十四時間営業?


「え? ええ、入り口は二十四時間開いているわ」


 それじゃ行きましょうか。


 俺が立ちあがると瓜実氏が会計をして、店を出る。


 俺は歩く。


 俺は歩くことしかしないダンジョンウォーカーだ。

 

 俺の後ろに瓜実氏と訳も分からずついてくる人間遣い、俺の前に二匹の骨犬が現れる。ジロとシロジロだ。


 骨犬が走り出すとその後ろに巨大な骨馬に乗った七色に光る花冠、俺の姫騎士アロハが手に持つランスを天空に掲げ現れる。


 その横に四本腕と蛇の下半身、夜の漆黒を集めたような黒髪うねるハナがするりと現れる。


 その後ろにカワイイの権化、姫が優雅に登場し、それに付き従うようにサキュメイドが現れる。


 ふわふわ浮きながら二人が空を飛び、その開いた空間に一花さん、仁香さん、ゴールドジムのタンクトップと白と黄色のピンストライプのイージーパンツをはいた鈴村さんが登場する。


 三人は俺をトライアングルに囲み俺の歩幅に合わせ進む。


 センが伽藍堂から出てきて、俺の手を引く。親が幼児の手を引くように。そのセンの周りに数十体のセンと同じ型の骸骨が青白い光と共に浮かび、手を振ったり、お辞儀をしたり、楽しそうに手を叩いてリズムを取ったりしている。

 最後にツンとウメ。

 身長二百五十センチの骸骨は全身をヘナタトゥーで飾り上げ、ラマ着の下に胴巻き、ツンは二メートルを超える大鉈を肩で担ぎ、ウメはコンパウンドボウを左手に握る。


 最後尾に二人がつき、俺の歩幅に合わせ骸骨の軍団がメインストリートをダンジョンに向かい練り歩く。


「終末の日なの?」


 人間遣いがそうつぶやくと、


「そんな軽いもんじゃねーよ」


 と、瓜実氏が吐き捨てる。



 それじゃ行こうかみんな。



 競うように狩りをしよう。



 争うように狩りをしよう。



 奪い合うように狩りをしよう。



 誰が一番殺せるか俺に教えて。



 殺せ殺せ殺せみんな! 殺し尽くそう!!



 俺がそう言うと、声のない骸骨たちが一斉に歓喜の声を上げた。



 俺にはそう感じた。

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