第64話富士山タコス


 我が家最高ー!


 松山から羽田、羽田から厚木の基地、厚木の基地から家に着いたのは夕方でそのまま風呂に入り父親と母親と夏目と四人で久方ぶりに夕食を食べ夏目と一緒に眠った。


 朝おきると布団の中には夏目はおらず、ツンとウメに手を引かれ洗面台で歯磨きをしトイレに行き、居間でウメに蒸しタオルで顔を拭かれていると父親が骨犬三頭の散歩から帰って来ると朝食になる。


 アジの開きの骨をツンがきれいに取ってくれて、ウメがサッとアジの身をご飯に乗せて味海苔で巻き俺の口に運ぶ。


 お揚げとわかめの御御御付おいしいです。


 ハムエッグも最高です。


 最後に飲む暖かいお茶が染みます。


「今日はどうするのじゃ?」


 夏目が今日の予定をきいてきたので、


「熱海行こうか、瓜実氏にクレカ返さなきゃいけないしね」


 と言うと、


「金太に電話して、お寿司の予約をするのじゃ!!」


 と、もう夏目の頭の中はお寿司でいっぱいだ。


 でも夏目、今朝ご飯を食べたばっかりだろ? 今から熱海に向かってもお寿司は夕飯になるだろうし、その時にはお寿司の口じゃないかもよ?


「そんなはずないのじゃ!! お寿司以上の何かはないのじゃ!!」


 例えばピザとか。


「ぐぬぬぬ!! ピザも捨てがたいのじゃ!!」


 だろ? 


「ピザもお寿司も食べるのじゃ!!」


 と、強欲の化身となった夏目は、寝間着から着替えるため立ち上がる。


 俺も着替えよう。


 もう半袖じゃ肌寒いし、長袖一枚でも肌寒い。


 夏目とお揃いで買った黒のラルフのサマーセーターを着て501をはく。


 以心伝心、着替えを終えた夏目もラルフのサマーセーターに501だ。


 長袖はいい、腕の落書きが見えないから。


 ウィルコムから銀太郎さんに電話をする。


『おはようございます、松山ご苦労様でしたタカシさん』


 さすが銀太郎さん、朝からさわやかだ。


『おはようございます、松山の報告と、クレカの返却に熱海に行こうかと』


『了解しました、いつ頃つきます?』


 一花さんが出てきて両手の指を全部開く。


『昼の十時くらいですかね』


『了解しました、お待ちしてます』  


 電話を切る。


 今は朝の六時半、我が家は朝が早く、もう父親は現場に出かけている。


 母親に出かけること、今日は泊りになるかもと伝え、シロジロを残し靴を履き家を出る。


 家の前の道路に止めてある米軍基地から乗ってきた軍用四駆の後部座席に夏目と乗り込み、運転席に一花さん、助手席に仁香さんが座って出発する。


 この車は乗り心地があまりよくない、一花さんがいるし車買おうかな?


「夏目はどんな車が欲しい?」


「ロータリーエンジンじゃ!」


 そう言うギミック好きだよね夏目。四人乗りでいい感じのマツダあったかな?


 俺と夏目は買うかもしれない車の話をしながら熱海に向かう。







 

◇◇◇◇








 車で行く熱海はけっこう遠い。


 一花さんの見立てどおり十時少し前に熱海にある瓜実氏の別荘につく。


 杖を突いた瓜実氏が出迎えてくれて、運転席のドアがない軍用四駆を見て、


「うん、どこからパチッてきた俺はきかんよ」


 と、あきれ顔になる。


 そして一花さんと仁香さんの骸骨に近づき、ぎゅっと二人を抱きしめ、


「よく帰ってきた」 


 と、言った。


 瓜実氏は盃で契った子の帰還を涙をにじませ喜んでくれた。


 別荘の中に入るとお茶を用意していた銀太郎さんが一花さんと仁香さんに気がつき走りより土下座をする。


 一花さんと仁香さんは銀太郎さんを立たせ、三人は再会の抱擁をする。


 俺と夏目は並んでソファーに座る。


 ソファーの後ろに一花さんと仁香さんが後ろ手に腕を組み立つ。


 対面に銀太郎さんと瓜実氏、希来里さんはまだ寝てるらしい。


 金デビトップ三人が地上に上がってきてて大丈夫なのかきくと、


「穴熊も傘下に入れたし騎士団もウィッチャーズも、御前をボコボコにした骸骨にビビって手出しせんくなったわな! 全部お前さんのおかげだわ!」


 と、瓜実氏は嬉しそうに笑った。


 俺は瓜実氏がいくらでも使え! 青天井だ! と渡してきたクレカを出し、ローテーブルの上に乗せる。


「松山ダンジョン、クレカ使えませんでした」


「え!?」


「あー、金デビからの出向ってことで行ってきたのに、全部自腹でビビったー」


「タクシー代も自分たちで出したのじゃ」


「六十万もってったのに途中から素寒貧だったなー」


「二日目にじゃ」


「そんな中、俺らは最後まで金デビからの出向という体は守り通しました」


「金デビ松山支部じゃ!」


「で? お使いのお駄賃、どうします?」


「おうおうおう! ワシは冬用のダウンが欲しいのじゃ!」


 タダ働きさせた事実を突きつけられた瓜実氏は青い顔になり、むずかしい顔になり、


「銀太、とりあえず最高級のダウンを二着注文しろ」


 と、命じ長考に入ってしまう。


 銀太郎さんは携帯からどこかに電話し、


「プラダスポーツのダウンジャケット二着手配して、色は白と黒、サイズは……」


 俺と夏目の冬用ダウンを手配してくれる。


 色々考えたらしい瓜実氏が口を開く。


「今回はすまんかったな」


 しっかり頭を下げる。


「松山の御前からの謝礼はウチに入ったら、右から左で渡すつもりだったが、そこにウチからの謝礼ものせる。それに経費と迷惑料もな、それで手打ちにしてくれねえか?」


 全然それで。


 俺の言葉に瓜実氏は破顔し、ありがとなと俺の手を握ってブンブンふる。


 ここで夏目がスススと瓜実氏に近づく、


「で、金太、今日のお昼なんじゃが」


「おっ、寿司か? よしよし最高の板さん呼ぼうな」


「違うのじゃ」


 夏目がもじもじし出す。


 どうした夏目。


「先日ワシは最高の寿司職人を見つけたのじゃ、そのお寿司をみんなにも味わってほしいのじゃ」


「へー寿司好きな嬢ちゃんのお眼鏡にかなう板さんかー、そりゃがぜん興味が出た

わ、金は気にするな、呼んでいいぜ」


瓜実氏がそう言うと嬉しそうに俺の横に来て、


「タカシ! ニックを呼んで欲しいのじゃ!」


 と言った。


 夏目、あの人、寿司職人じゃないと思うよ。








◇◇◇◇








「今日は呼んでくれたありがとな!!」


 ニックはアメコミティーシャツの上に真っ白なエプロンをつけ、頭にはコック帽をかぶっている。


 熱海の別荘のキッチンには俺と夏目と瓜実氏と銀太郎さん、それに起きたての希来里さんが座っている。


 テーブルの上にはニックお手製のカリフォルニアロールとアボカドが海苔代わりに巻かれたステーキロールが並んでいる。


 それにフライドチキンとパンケーキ。


 オニオンリングとフライドポテトも揚げたてでおいしそうだ。

 

 瓜実氏が恐る恐るカリフォルニアロールに箸を伸ばし、口に入れる。


「う、うまい……」


 そう、ニックの料理はどれもおいしいのだ、これじゃない感があるだけで。


 ガツガツニックの料理を食べ出す瓜実氏と夏目と希来里さん。銀太郎さんは上品に、俺はドラとサキュに取り分けてもらいゆっくり食べる。


 今回ニックに来てもらうために米軍厚木基地の広報に電話し、そこから盥回しに回され、最後には軍とは違う機関の人間がニックと一緒に来ることになり、今に至るのだ。


 キッチンの端でニックを連れてきてくれたダークスーツを着た外国人さんが三人一花さんと仁香さんに挟まれ監視されている。


「ニック! ビールじゃ!」


「基地のみんなには内緒だぜ!」


 ニックが持ってきているクーラーボックスからバドライトの缶を夏目に渡すと瓜実氏や希来里さんも欲しがる。


 嬉しそうにみんなにバドライトをふるまうニック。


「ニック、アレを頼むのじゃ」


 夏目がキランと目を光らせ、ニックに通っぽく注文するが、夏目が言うアレとはどうせスシタコスだろう。


「俺を昨日までの俺と同じだと思ってもらっちゃ困るぜ!!」


 ニックはそう言うと、スシタコスを作り出す。


 同じじゃんとと思ったが口には出さない。


「新作富士山タコスだ!」 


 もう寿司関係ないじゃん。


 目の前のタコスはアボカドとマグロの刺身がチリソースにまみれてタコス生地に乗っている前回と同じに見える。


 タコスをつまみ、口に入れると、その違いが爆発する。


 ニック!! ワサビ入れすぎ!


 ニックがタコス生地と具の間にたっぷりのワサビを仕込んでいたらしい。


「寿司と言えばワサビ! 最高だろ!?」


 瓜実氏と夏目はワサビ爆弾を食らい、一気にバドライトを飲み干す。


 なぜか希来里さんは全く動じていない。


 咬力四千九十六倍の口はワサビすら倒すと言うのか?


「最高じゃニック!!」


「お前横浜で店出せや! 俺が金出す!」


 富士山タコスは小卒二人の心をガッツリつかんだようだ。

 


 ニックは次々アメリカ料理を出してくれ、とてもいい夕食だった。


 俺が食べ終わると、ダークスーツに声をかけられる。



 はいはい。



 今回のニック出向のワガママをきいてくれ多分ぐらいはお話しききますよ。

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