第63話シェフを呼ぶのじゃ!!


  

 うん、横浜に帰りたい。



 俺と夏目は松山ダンジョンでのお使いを終え、横浜に帰れるはずだった。


 実際は御前に見送られ松山空港から羽田行きの飛行機に乗り、羽田まではついたのだ。


 羽田空港で飛行機を下り、空港内で見知らぬダークスーツの男たちに囲まれる。


 外国人だ。


 なんすか?


 外国人の集団はとりあえずついてこいと、俺と夏目は国際探索者協定に違反している可能性があると言うのである。


 なに国際探索者協定って? 知らんし、俺と夏目は中卒と小卒よ? 難しい話すんなよ。


 俺と夏目は疲れてんの、旅行帰りよ? 普通旅行の帰り道はテンション下がって無口になるのが定番でしょ? それくらい疲れてんだよ。わかれよ。


 俺がものすごい不機嫌なことに気がつくと外国人集団は焦り出し、とりあえずついてきてもらわないと困る。


 なぜならこのままでは国際探索者協定に違反した国として日本のダンジョン関係機関が危うい立場になる。最悪ダンジョン使用禁止の処分が行われるかもしれないと言うのだ。


 本当にめんどくさすぎて、とりあえず瓜実氏に電話する。


『おう、帰ってきたか』


『はい、それで国際探索者協定って知ってますか?』


『あ~あれだろ? アメリカさんが勝手に決めた国際法だろ? 誰も守ってねえよあんなもん』


 なるほど、誰も守ってないのか。


 なら、帰って大丈夫だな。


 夏目が俺の袖をクイックイと引く。


「金太のお寿司が食べたいのじゃ」


 え~、帰ってきたばっかりだから、家でゆっくりしたくない?


「もう、お寿司の口なのじゃ」


 夏目がお寿司の口ならしょうがない。


『瓜実さん、今日って、このままうかがっていいですか?』


『は? ああ、まあ、別にいいけどよ、今俺と希来里と銀太郎は熱海だぜ?』


 夏目、瓜実氏、熱海だって。


「う~、断腸の思いであきらめるのじゃ……」


 えらい。


『それじゃなしで』


『お、おおう、松山の話し、今度きかせてくれや』


 俺は瓜実氏との電話を切る。


 瓜実氏いわく誰も守っていない国際法らしい。


 なら俺も守る必要はない。


 なにかあったら瓜実氏が守らなくていいって言っていたと言おう。


「横浜の指折りチームゴールデンデビル代表瓜実金太氏が誰も守っていない国際法で拘束されることはないと言っているので帰ります」


 俺がそう言うと、外国人の集団が一段と焦り出す。


 どうしてもついてきて欲しい、どうしてもと懇願するが俺は疲れているのだ。旅行帰りだしね。


 そこで夏目が外国人の集団に向かい、


「ついていくと、お寿司を出せるのじゃ?」


 と、折衷案を出しちゃう。


 外国人の集団が集まり相談を始める。


 どこかに電話してる。


 一人の外国人が近づいてきて、


「お寿司、用意できます」


 と言い、夏目はお寿司の口なので、俺はめんどくさいが、この外国人の集団についていくことになった。

 








◇◇◇◇









 空港内に止めてあったヘリに乗り、俺と夏目は横浜を空から通り過ぎ厚木にある米軍基地に連れてこられた。


 そこで食堂に通され、コックのニックが作るカリフォルニアロールをいただく。


 夏目がコレジャナイの顔をしながらいただいている。


 別にまずいわけじゃない、いやおいしい。ただこれじゃないだけだ。


 気のいいニックは、


「これはニックオリジナル! スシタコスだ!!」


 と、アボカドとマグロの刺身が甘辛なチリソースにまみれたものが挟まっているタコスを俺と夏目に進め、食べるとおいしいんだ、おいしいんだが、そうじゃないんだニック、俺と夏目が食べたかったお寿司はこれじゃないんだ。


「ビールじゃ!!」


 夏目がそう言うと、


「ほかのやつらには内緒だぜ!!」


 と、ニックがバドライトの缶を冷蔵庫から出してきて夏目は一気のそれをあおり満面の笑みを浮かべる。


「ニック!! シェフを呼ぶのじゃ!!」


「俺だよ」


 夏目はスシタコスでいいらしい。


 今まで夏目にお寿司を提供してきた一流の板さんたちに謝れよ。


 もう夏目がこれでいいならどうでもいい。別に俺はお寿司の口じゃなかったし。


 俺もスシタコスをいただき、コーラで流し込む。


 食事を楽しみ、夏目が三本目のバドライトを飲み干したところでここに俺たちを連れてきたダークスーツの男が声をかけてくる。


「そろそろお話をさせてください」


 そうっすね、俺も早く話しをすませて家に帰りたいんで。


 夏目は四本目のバドライトを持ちながら立ち上がる。


 俺と夏目は基地内部の奥に進み、一つのドアの前に連れていかれる。


 ダークスーツがドアをノックし、


「ハードパッケージの輸送を完了しました!!」


 と、ドアの中の人物に向かい叫ぶ。


「入れ!!」


 と中から声がきこえる。


 ダークスーツがドアを開け、ダークスーツ、俺、夏目の順番でドアの中に入る。


 部屋の中には大きく立派な木のデスク、その横にアメリカ国旗と、軍旗か? 旗が二本台座に刺してある。


 へ~、床はここだけ絨毯だ。


 木のデスクの向こう側に白人の軍服を着た男が座っている。

 さすが軍人さん、瓜実氏と同じぐらいの歳、五十は越えているだ思うが、筋肉質で太っていない。


 どしってかまえて俺と夏目を睨みつけるように厳しい目つきでじっと見つめている。


「お前らが、松山ダンジョンで『嘆きの野薔薇』を使用した容疑者か」


 そうつぶやくように座っている軍人さんが言う。


 いや違いますけど、あれは鬼龍院さんがやったことで、俺と夏目は被害者。


「国際法で国連と開発国である我がアメリカ合衆国の許可がない使用は禁じられている」


 知らんがな。俺使ってないし。


「君たち二人は今からアメリカ合衆国により拘束され、国際裁判にて判決が出るまで収監となる」


「大佐! それでは作戦内容が違います!!」


「うるさい!! 軍の作戦に口出しするな!!」


「これは中央情報局の仕事だ!!」


「これは軍の作戦に変わったのだ!!」


 後ろにいるダークスーツと軍人さんがもめ出す。


 ふう、ため息が出る。


 夏目は四本目のバドライトを飲み干し、空き缶を手の中で弄ぶ。


「これから君たちは本国に送還される」


 そう軍人さんが俺たちに言い放つ。


 もういいかな?





 一花さん。





 俺が一花さんを呼ぶと俺の背後の空間が陽炎のように歪み、一花さんが現れる。


 ボロボロのダークスーツを着た骸骨が夏目の頭を一撫でし、手に持っている缶ビールの空き缶を受け取る。


 一花さんの手の中でアルミ缶が変形していく。


 ドロドロと溶け出し、どんどん縦に長くなり、一本の剥き身の刀身が出現する。


 刃渡りは九十センチほどの柄も鍔もない剥き身の刀身。


 それが一花さんの掌の上で浮いている。


「この基地には合衆国のダンジョンで鍛えられた歴戦の兵が配置されている。変な気は起こさないほうが身のためだぞ」


 椅子に座った軍人さんが表情一つ変えずそう言うが、どうでもいい。


 一花さんの骸骨の手がその刀身を握り、そのまま軽く、スッと振り下ろす。




 バコ。




 椅子に座った軍人の後方の壁が全て吹き飛び、外の青空が見える。


 ここは三階くらいかな? 空が近く地面が遠い。


 今まで表情を変えなかった軍人さんが眼を見開く。


 一花さんが刀身を木でできたデスクに突き刺し、俺と夏目の手を引いて青空が見える外に誘う。


「このままで済むと思うなよ」


 一花さんと俺と夏目が軍人さんの横を通り過ぎる際、負け惜しみのように軍人さんがそう言ったが知らんがな。


 俺と夏目を両脇に抱えた一花さんがぴょんとジャンプ、地面に着地。


 スッと仁香さんも出てきて俺と夏目を前後に挟むように移動を始める。


 軽機関銃を持った軍人さんたちがわらわら出てくるが仁香さんがサッと手を振ると空間が歪み、そこから出てきた剥き身の刀身が飛んでいき軽機関銃に突き刺さり無力化する。


 どんどん出てくる軍人さんたちを歩きながらどんどん無力化する仁香さん。


 俺と夏目は一花さん先導の元基地内にあった軍用四駆まで歩き、ドアを引きはがし、運転席に座り、キーホールに骸骨の人差し指を突き刺しイグニッション、エンジンに火が入る。


 俺と夏目は仁香さんに誘導されるまま後部座席に座り、仁香さんは助手席に座り車はスタート、基地の出口に向かい、追ってくる車両は仁香さんが助手席の窓から身を乗り出し刀身を飛ばしタイヤに突き刺し無力化する。


 追ってもいなくなり、悠々と基地の門の金網をぶち破り、基地を出る。


 ここ厚木だったっけ?


 車で横浜までどれくらいかかるんだろう?



 早く家に帰って休みたい。



 俺があくびをする、横では夏目がもう寝ていた。

 

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