第61話嘆きの野薔薇


 もめてるもめてる。




 赤兎馬と烏骨鶏が朝からもめまくって、御前の仲裁もあまり効果がないようだ。


 赤兎馬のトップの武田さんも、烏骨鶏の真田さんも先頭に立ってもめちゃってるから収拾がつかない。


 朝おきたら先日俺と夏目の財布の仕事を途中で投げ出してしまった烏骨鶏のモヒカン頭こと吉田君がダンジョンの壁に磔になって死んでいた。


 そっからずっと、もめにもめているのだ。


 吉田君が黒の烏骨鶏に所属していること、俺と夏目と一緒に赤の赤兎馬ともめごとをおこしていたことにより、黒い烏骨鶏は赤の赤兎馬の犯行を疑い、詰めているのだ。


 俺と夏目と白沢のトップ青鼻のクラウンはもめている中心から離れ、三人で死体の前に立ち、吉田君の死体を見ながら話をしている。


 昨日の夜は、夜警はしてたんですよね?


「そうだね、交代制だが随時一チーム三人は最低でも立ってたと思うよ」


 青鼻のクラウンが答えてくれる。


「財布の吉田くんも夜警に立っていたのじゃ?」


 そう夏目がきくと、


「烏骨鶏にきいた話だと、深夜十二時から三時間、夜中の三時まで夜警立ってたみたい」


 青鼻のクラウン、情報通だ。


 夏目がおきてきたのは?


「六時じゃな、その時には、騒ぎになっておったのじゃ」


 なるほどね。


 それで青鼻のクラウン、最初に最初に死体が見つかったのは?


「三時から朝の六時までの夜警の人間がみつけたようだよ、赤兎馬の人間」


 それは何時ごろ?


「五時半ごろらしいよ」


 ふ~ん、最後に生きている吉田君を見たのは誰?


「赤兎馬の人間らしい、それが三時の交代の時」


 それから誰も生きている吉田君を見てないの?


「らしいね」


 ふ~ん、午前三時から、死体が見つかる五時半ごろまで、吉田君は消えていて、誰もそれに気がついていなかったわけだ。


「何か推理小説のようじゃないか? 君は名探偵かい?」


 いや全く、何も分かんないよ、いつ吉田君が殺されたのか、どうやって殺されたのか、全く。





 殺した犯人以外、何も分からないよ俺は。





 俺は吉田君の腹のプロテクターに刻まれた『中』の文字を指さす。


 青鼻のクラウンに、


「これ意味わかります?」


 と、きくと、首をかしげる青鼻のクラウン。


 知らないようだ。


 仲裁に入っている御前のを手招きで呼び、死体の腹の『中』の文字を指さす。


「これ意味わかります?」


 と、きくと、首をかしげる南蛮御前。


 そうか、南蛮御前もあの人の腹を見てないか。


 そもそもあの人は「超回復」とかのスキルもってそうだし、傷もすぐに癒えたのかもしれない。


 夏目が松山ダンジョンの星一つ、鬼龍院さんの腹に夏目が入れた『天中』の文字、天誅の誤字で天中になってしまったそのことを知るのは今この中で夏目と俺だけだ。


 つまり、この殺人は鬼龍院さんが俺か夏目への復讐として行ったことだと思う。


 なんでこんな回りくどいことをしているのかは分からないが。


「ウム、殺したのは虫のおじちゃんじゃな!」


 夏目がそう言うと、最初は「虫のおじちゃん」が誰だか分らなかった御前の顔が一気に曇っていって、目が険しくなる。


 誰だか分かったのだろう。


「それは、どうして?」


 夏目にきく御前。


「この死体の腹に刻まれている『中』はワシが虫のおじちゃんの腹に入れた文字じゃ、タカシ、これはワシへの復讐じゃ?」


 どうだろうね、よく分からんし、分かりたくもないよ。


 なんか粘着質で怖いし。


 それより御前、これ、ダンジョンアタックもう無理じゃないっすか?








◇◇◇◇








 一端ダンジョンアタックはここで足止めだ。


 でもさあ帰ろうと言う雰囲気でもない。


 烏骨鶏は一人殺されてるし、赤兎馬は濡れ衣被らさられてるし、御前は俺と夏目の証言が嘘だとは思っていないが、鬼龍院さんの名前を出さない。


 まだ半信半疑なのだろう。


 つまり、行くこともできないし、帰ることもできない、まさに足止めだ。


 御前、もう俺たちだけで新しい門まで行っちゃっていいですか?


「さすがにそれは無理よ、誰か松山の人間が付き添って確認しないと」


 なら、御前もついてきてください。


「あなた、今の状況分かる? 私が抜けたら一気に戦争よ?」


 なら。


 俺は飽きた夏目にカードジャグリングを見せている青鼻のクラウンを指さす。


 こいつ、連れていくんで、それでどうです?









◇◇◇◇








「うひゃー!!」


 青鼻のクラウンの叫び声がダンジョン内に響く。


 ハナは米俵のように青鼻のクラウンを担ぎ高速で移動している。


 俺はアオジロに乗ったアロハの前に座って二人乗りだ。


 夏目はツンの腕の中だ。


「にょー!」


 青鼻のクラウンがうるさい。


 ハナがこいつ黙らせていい?的な視線を俺に投げるが、ハナの黙らせるは息の根を止めるだからダメだ。その人がいないと門の向こう側の敵を倒しても証人がいなくなってしまう。


 俺たちは青鼻のクラウン一人を見届け人として徴収し、もめにもめてる地下三階層と地下四階層を別ける階段の野営地点から出発した。


 ごたごたにこれ以上付き合いたくないし、犯人の狙いが俺と夏目だ、俺たちがいないほうが、赤兎馬も烏骨鶏も白沢も安全だろう。


 何よりこれ以上のめんどくさいことはめんどくさいのだ。


 タロとシロジロ、ツンとアオジロに乗ったアロハ、ハナ、高速で移動できる足自慢だけで進む最高速ダンジョンアタック。


 俺は目を閉じて高速移動の恐怖に耐える。


 アロハが俺の体を抱きしめてくれる。恐怖が和らぐ。


 時折階段を駆け下りる感触がケツにあり、ニ十分ほどだろうが、アオジロのスピードが緩み、足を止める。


 目を開ける。


 目の前には二十メートルはある閉じた白い門。横浜ダンジョンで見たのと同じ観音開きのやつだ。


 前回はセンにたのだが、今回もセンかな?と思っていたら、ハナが失神している青鼻のクラウンをぽいと投げ捨て門の前に進む。


 四本の腕の手のひらを全て門に当て、そのまま蛇の下半身でズリズリ前に進んでいく。


 前回の横浜ダンジョンの時もそうだが、この門は形状的にPULLだ、PUSHじゃない。


 なのに骸骨たちはいつも押し開けようとする。そして押し開ける。





 ゴキン。





 門の蝶番が壊れる音がする。


 ハナが進んだ分だけドアが開いていき、三メートルほどの隙間が空いた。


「ハナありがと」


 俺がそう声をかけたら、ハナが嬉しそうに振り向き、アオジロに乗っている俺の元まで滑ってきて俺を抱き上げ四本の腕で抱きしめ冷たい骸骨の頬で頬すりをする。


 門の中をのぞくと、そこには巨大なシロナガスクジラが空中を泳いでいた。


 なるほどあれがウメの超々遠隔攻撃により死んだダンジョンの敵か。


 うんデカい。


 うん雄大。


 姿が見れて良かった。


 それじゃウメお願い。


 ウメが伽藍堂の中から出てくるとコンパウンドボウをかまえる。




 ビン。




 浄なる弦音が響き、光の矢が一本シロナガスクジラに吸い込まれていく。


 ビクンと一瞬シロナガスクジラが体を痙攣させ、ゆっくりと空中から落ちて、腹を上に向け地面に横たわり、死んだ。


 うん、ウメお見事。


 俺がウメを抱きしめると、ウメもやさしく俺を抱きしめる。


 これでこの松山ダンジョンまで来た目的は達成された。


 いや色々あったけど、このシロナガスクジラを見れて良かった。


 夏目もそうだろう?と夏目に目を向けると、


 じっと来た道を睨みつけている。


「来たのじゃ」


 夏目がそう言うと、黒い詰襟にプロテクターを着込み、真っ赤な腕章には白で愛の文字が書かれ、光沢がある黒い学帽をかぶった鬼龍院さんが歩いてくる。


 小脇にボウリング玉ほどの真っ黒な水晶玉を持っている、魔道具だろうか?


「御前すら倒せなかった門の中の敵を一撃とは、さすが三柱目様ですね」


 そう言いながら、俺と夏目に向かい歩いてくる。


 夏目がツンの腕の家からぴょんと飛び降り、俺と鬼龍院さんの間に立つ。


「下郎、顔を見せるなと言ってあったのじゃ」


 夏目の言葉に、


「私は三柱目様に喋っている!!」


 と、激高する鬼龍院さん。


「下郎、頭が高い、下がるのじゃ」


 夏目は激高する鬼龍院さんに向かい、冷たく言い放つ。


「なにが神だ! なにが星三つだ! それなら私が神を超えてやる!! 私のことを舐めるな小僧ども!!」


 そう叫んだ鬼龍院さんが高々と小脇に抱えていた黒い球体を両腕で頭上に掲げる。


「この魔道具は『嘆きの野薔薇』!! 星持ちがいないアメリカがダンジョン破壊のために開発した兵器だ!! その非人道的破壊力がゆえに、国際的に使用が禁止されている!! この爆弾で!! 私はお前らを殺す!!」


 そこまで言い切ると、鬼龍院は、掲げた黒い球体を地面に叩きつける。


「死ねー!!」


 地面に叩きつけられた黒い球体から、真っ黒い閃光が飛び散り、強烈な爆風が俺の体を包む。




 死んだ。




 確かにそう感じた。




 その瞬間、ウメが真っ白に輝き、その後光が黒い爆風を吹き飛ばしていく。


 発光するウメ。


 その光が俺と夏目を包み、黒い爆風から守ってくれる。


 ダンジョンが揺れるほどの爆発から数十秒。


 ウメの光に包まれた俺と夏目は、土煙舞うダンジョンで立っていた。


 ウメの発光が終わる。


 俺がウメに顔を向け、大丈夫?的な視線を向けると、ウメはなんでもない感じで俺の頭を撫でる。


 あたりを見渡すと、白く巨大な門はひしゃげ、吹き飛んでいる。


 ダンジョンの壁も天井もかなりエグれている。だがそれだけだ。ダンジョン破壊兵器というほどの威力は感じられなかった。


 夏目を見ると、自分の体を確認するように見て、あの爆発で無傷なことに驚きを隠せない様子だ。


 爆心地だと思われる場所には何もない。


 鬼龍院の死体も消し飛んでない。


 何がしたかったんだろう。


 くだらない最期だし、くだらない男だった。


 俺は鬼龍院が消し飛んだ場所をじっと見ている途中で思い出した。


 そうだ、俺と夏目以外にも人がいた。


 青鼻のクラウンー!!!!


 俺が焦ってハナが青鼻のクラウンをポイした場所に目を向けると、ハナが青鼻のクラウンを抱きしめとぐろを巻き、団子のようになり青鼻のクラウンを守ってくれていた。


 ハナー!!!!


 俺は青鼻のクラウンの命が助かったことより、ハナが生命の大切さに気がつき、自ら助けると言う行為に出たことに感動した。




 ハナ! えらい!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る