第60話戻りガツオ
装備を着込み、ダンジョン地下一階に下りる階段の前に立つ。
三日たっても武器は来なかったので松山ダンジョンでアタックを開始することにした。
夏目は昨日の夜に丹誠に砥いだステンレスのスコップを担いでそれ以外はいつもとさほど変わらない。
変わるのは全身真っ青なプロテクターで固めた南蛮御前が横にいることと、その後ろに黒、赤、白のプロテクターを着込んだ探索者が十人づつくらい物資を背負いついてくることぐらいだ。
「思ったより軽装なのね」
御前は俺と夏目が胴巻きとドイツ軍型ヘルメットくらいしか硬質な防具をつけていないことに驚いている。
今までこれで来たし、なんとなくです。
「夏目の姐さん、今日は勉強させていただきます」
赤兎馬の武田さんが夏目に頭を下げるが、今日は地下三階層に下り野営するだけだからそんな勉強になることないと思うけど、口出しすることではないから放っておく。
夏目とか、今日一歩も歩かないんじゃないかな?
いつもツンに抱っこだし。
さて、それじゃ全員出てきてもらおう。
「タロとシロジロは斥候、前線はツンと夏目、アオジロとアロハ、ハナが並んで。
姫とセン、サキュとドラは俺を挟むようにスクエア、最後尾はウメで。
それじゃいこうか」
俺がそう言うと、家に残してきたジロ以外が全員伽藍堂から出てくる。
さあ、ダンジョンアタックを始めよう。
俺が歩き出すと、その歩幅にきっちり合わせて伽藍堂の骸骨たちが動き出す。
楽しい楽しいダンジョンウォーキングの始まりだ。
御前が唖然と俺の骸骨たちを見ている。
「これは全員、あの大鉈の骸骨と同じ力を持つの?」
ツンを指さしながら震える声で聴いてくるが、どうなんだろう?
力だけならハナのほうが強そうだし、姫は魔法がすごいし、ドラとサキュは料理がうまい。それぞれ特徴があるけど、みんな頼れる俺の家族だ。それでいい気がしたので、
「よくわかんないですけど、とりあえず全員同じスピードで御前を失神させれると思いますよ」
と、いうと、プロテクターと同じくらい真っ青な顔色になっている御前はを放っておいて歩く、歩く、歩く。
今嘘ついたな俺、アオジロとかハナとか相手を失神とかさせられなそう、殺しちゃうから。
ツンに片手抱きされた夏目は、
「次は金太みたいに空が飛びたいのじゃ」
とか、不穏な相談をツンにしている。
やめてね、危険なことは。
ツンもうんうんと頷かないで。
ダンジョンの階段から階段を最短で行く道、メインストリートを進んでいるので出てくる敵はいない。
ジロジロと探索者に見られるくらいだ。
このダンジョンでも地下一階はゴブリンなのか御前にきいたらそうらしい。
接敵せず一時間半ほどでダンジョン地下二階層に下りる階段にたどり着き、そのまま下りて地下三階層を目指す。
なんとなく横を歩く南蛮御前を見ると、真っ青な全身プロテクターの上からスカイブルーのトレンチコートを着込み手には夏目の頭くらいある真っ青な宝石がはめ込まれた杖を持っている。
頭には白金に輝くティアラ、あれも魔道具なのかな? それともプリンセス好きなだけか?
そう言えば松山ダンジョンの来てから鬼龍院さんを見ていない。
「御前、鬼龍院さんは今回参加しないんですか?」
俺がそうきくと、御前は少し困った顔で、
「ほら、夏目さんに、あなたの前に出ないことが最大の礼儀だと言われて、今はダンジョンの外に出て、あなたに会わないようにしているのよ」
なるほど、律儀な人だ。
別に会いたくないからそれでいいんだけど。
御前に松山のご当地飯などの話をききながら二時間歩き、地下二階層と三階層を別ける階段にたどり着き、そのまま地下三階層に下りる。
ここまでで三時間半は歩きっぱなしなので、いったん休憩にする。
姫にテーブルと椅子を出してもらい、サキュとドラがお茶を入れてくれる。
テーブルには俺と夏目と御前と姫とセン。
夏目が松山銘菓まるごとみかん大福を俺と御前に渡してくれる。
「武田が松山と言えばこれだと言っておったのじゃ」
と、嬉しそうにみかん大福を頬張る夏目。
俺も食べると、大福もちの中に丸ごと小さな蜜柑が入っていて、なんというか、驚く。
そう言えば愛媛、蜜柑の本場だった。
大福を食べ、お茶をいただく。
このままあと三時間くらい歩くと今日の目的地、地下三階層と地下四階層を別ける階段に出て、そこが今日の野営地になる。
今は午前十時半。
目的地に着くのは午後二時くらいかな?
昼食はそれからでもいいし、なんだったらもう少し遅くして昼食兼夕食にしてもいい。
朝はしっかりいつものお粥屋さんで食べてきたしね。
三十分ほど休憩を入れた俺たちはまた歩き出す。
そのまま三時間ほどウォーキング。
ダンジョンのメインストリートは全く敵が出ない。
そのまま何事もなく目的のダンジョン地下三階層と地下四階層を別ける階段までたどり着き、今日のダンジョンアタックは終わった。
◇◇◇◇
大きなテントを赤兎馬の人たちが張ってくれたので、俺と夏目の今日の寝床はそこになるらしい。
なんと簡易のベットまである。
俺と夏目はテントの前でコンロに火をつけお湯を沸かす。
夏目が金デビの最前線基地で気に入って今回無理を言って取り寄せた戦闘糧食Ⅱ型お赤飯の缶詰をお湯に入れ、夏目はシソとねぎを刻む。
ドラが藁を燃やし、串刺した鰹をあぶり出す。
サキュが根菜を鍋で煮込みけんちん汁を作る。
お赤飯と戻りガツオのたたき、けんちん汁。いただきます。
俺と御前と夏目、それに青鼻のクラウンが姫が出してくれたテーブルにつき食事をする。烏骨鶏の真田さんと赤兎馬の武田さんも誘ったのだが、チームと同じものを食べるのでと断られてしまった。
青鼻のクラウンはいいのだろうか?
チームで嫌われてるのかな? 嫌われてそうだもんな、コスプレが過ぎる。
「戻りガツオは刺身というが、たたきもうまいのじゃ!」
鰹をオンザお赤飯してもりもり食べる夏目。
御前も食べながら、
「いつも、こんな感じの食事?」
ときいてきたので、
「ですね」
と答える。
そもそも俺には骨犬たちがいて、普通の探索者の二倍は物資が運べる。
そこにアオジロが加わり、通常の探索者に比べれば三倍くらいの物資が運べているはずだ。
なので食い物は豪華にしたい、それくらいしかダンジョン内でホッとする瞬間はないのだから。
食事がすむと明日の打ち合わせ、明日は地下七階層まで下りる。
御前の話では横浜ダンジョンと同じく地下八階層の奥に白い巨大な門があるらしい。どんな敵がいるのか楽しみだ。
ダラダラと時間を潰し、夏目と同じ寝袋に入り寝た。
朝、夏目におこされる。
目を開くと夏目はフル装備で、スコップを担いでいる。
寝過ごしたかと急いで起きると夏目の表情が険しい。
「死人が出たのじゃ」
夏目が吐き捨てるようにそう言った。
テントを出るとそこでは赤兎馬の赤いプロテクターと烏骨鶏の黒いプロテクターを着た男たちがもめていた。
先頭に烏骨鶏の真田さんと赤兎馬の武田さんがいる。
「あれじゃ」
ダンジョンの壁に両手を広げ、真っ黒なプロテクターを着た死体が磔になっている。あの死体見たことがあるなと思ったら二日目に俺たちのお財布をしてくれたモヒカン頭の吉田君だった。
なるほど、吉田君がもめた相手は確かに赤兎馬、それで赤兎馬が疑われて烏骨鶏がそれを責めてる感じか。
御前もおきてきて困った顔で腕組みしている。
うん、でもあれ、赤兎馬関係ないと思うんだよね。
夏目、あれって。
「そうじゃな、腹に『中』と傷がついているのじゃ」
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