第50話天中じゃ!!
俺の前で片膝をつく星一つ、鬼龍院さん。
本当に止めて欲しい。
朝、さあこれからまたダンジョンを上って行こうと金デビ地下六階層中継基地を出たところで松山の御前の手先である耽美系右翼鬼龍院さんにつかまってしまった。
希来里さん? 下層には松山の人は下りてこないって昨日言ってましたよね?と希来里さんに抗議の視線を向けると、あたしが悪いっていったら殺す!という強烈な殺気をはらんだ視線で返されたのでサッと目を逸らす。
「鬼龍院さん、やめてもらえますか?」
鬼龍院さんが下げていた顔を上げ、少し笑みをこぼす。
「三柱目様がそれを望むなら」
そう言い、立ち上がり、学帽をかぶり直す。
「私の話をきいてもらえませんか、三柱目様」
そう言う鬼龍院さんの言葉は、おねがいしているようで絶対話きけよって感じの圧力を感じる。
ツンに首トンしてもらおうかな? でもそれしてもこの人またダンジョンの中で俺を追いかけまわしてきて現状と変わんないんだよな~。
俺が本当に嫌な顔をしていると、スッと俺の前に夏目が出る。
「邪魔じゃ、いね下郎」
と、言った。
「お嬢さん、いくら三柱目様のお気に入りでも、口のきき方はあるよ?」
鬼龍院さんが少し困ったように笑う。
「口のきき方? 誰にじゃ? お前こそタカシを舐め過ぎじゃ、お前のような下郎がタカシをいいように扱えるはずなかろうが。
お前は無礼を働いたのじゃ、タカシはお前の顔も見たくないと言う、だからもう二度と、顔を見せるな、分かったのじゃ? 下郎」
すらすらと澱みない夏目の口上に鬼龍院さんの笑顔が凍りつく。
「そもそも、お前らは自分より上とする者に対する礼儀がなってないのじゃ。下手の出方を知らなすぎじゃ。どっかで自分は特別だからちょっとした粗相などいくらでも挽回できると、許されると思っておるのじゃ。アホか? 地べた這う人の身で、空舞う神になぜ対等に話しができると思うのじゃ?
驕っておるからじゃ。
塵芥が思いあがって恥ずかしいのじゃ。
もう一度言うぞ下郎。
いね。
そして二度と顔を見せるな。
それがお前に今できる最高の礼儀じゃ」
夏目はそこまで言い切ると、持っている極端に短い上鎌十字槍の柄でポンと鬼龍院さんの学帽のツバを弾いた。
ふわりと鬼龍院さんの頭から学帽が飛び、逆さまにダンジョンの地面に落ちる。
落ちた帽子を目線の先に捕える鬼龍院さん。
「ガキ、覚悟はできているな?」
響くような低い声で夏目に問う。
夏目は答えず、身長差五十センチを物ともせず顎をほぼ垂直に上げ下から鬼龍院さんを見下げる。
鬼龍院さんの両目から黒い涙が垂れてくる。
それに続き黒い鼻血が、両耳と口の端からも黒い血が流れ出す。
「スキル「蠅の王」」
鬼龍院さんの体から流れ出した黒い血液が一斉に飛びたつ。
黒い制服の袖口や襟元からも一斉に飛びたつのは、血液だと思っていたが虫だ。
極小の蠅が鬼龍院さんの体から溢れ出し、大量に飛び立ち、ブンブン羽音を立ててあたりを真っ黒に染め上げる。
黒い蠅たちが夏目を飲み込もうとしたその時、夏目の体から真っ白な湯気が勢いよく噴き出し、黒い霧を晴らしていく。
プラズマの放電が一瞬煌めき、夏目が消え、鬼龍院さんの胸からプロテクターを突き破り、夏目が持つ単槍の穂先が突き出る。
「対ライガー用最終兵器ローリング・アクトⅡじゃ」
鬼龍院さんの背中にぴったりくっついた夏目が、体当たりするように上鎌十字槍を突き立てていた。
「ガキ、が」
鬼龍院さんが口から大量の黒い蠅と共に真っ赤な血を吐き出す。
「ガキが! 舐めるなよ!!」
鬼龍院さんがそう叫ぶと、槍が突き出た胸から大量の黒い蠅が噴き出す。
いままでの何十倍の量の蠅が猛スピードで夏目に襲い掛かる。
夏目は一気に回転し、突き立てた槍を残し消える。
「どこだガキー!!」
体中の穴から蠅をまき散らしながら鬼龍院さんが叫ぶ。
「バカね、上よ」
希来里さんがあざ笑うかのようにつぶやく。
俺がダンジョンの天井を見上げると、地下六階層の高い天井に脇差を突き刺し、逆さまに天井に両足をつけしゃがみ込んでいる夏目がいた。
希来里さんの声をきき、天井を見上げる鬼龍院さん。
「そこかー!!!」
一斉に黒い蠅が天井にへばりつく夏目に向かい襲い掛かる。
「終わりよ、星持ちって言ってもピンキリね、まだ三賢会の魔女のほうが強いわ」
つまらなそうにそうつぶやく希来里さん。
夏目が天井で超超高速回転を始める。
バチバチプラズマの放電がおこり、大きな回転する雷球になった夏目が太陽のようにダンジョン内を照らした。
雷球からの放電に黒い蠅たちが燃やされ落ちていく。
雷球自体がゆっくりと落下してくる。鬼龍院さんに向かって。
「チッ!」
舌打ちをした鬼龍院さんが雷球をよけるため飛びのこうとした瞬間、雷球の中から彗星のようなスピードで一閃の光が鬼龍院さんに向かい超高速で落下した。
より正確に言うと、鬼龍院さんの脳天に。
鬼龍院さんの脳天に刺さる超超高速回転により生み出された運動エネルギーを頭頂部の一点に集中させ、銀二の玉を取り、栗鼠崎さんの顔面をグチャグチャしに、牛鬼を一撃で屠った夏目必殺のロケット頭突き。
ブローニングⅯ2の弾丸を易々弾き飛ばすダンジョン鉱物と特殊繊維で出来上がったドイツ軍型ヘルメットの強度を利用した大技だ。
仁王立ちする鬼龍院さんの脳天に頭をつけ逆立ちするように直立する夏目。
時が止まり、
鬼龍院さんの膝が折れて、ゆっくり土下座するように崩れ落ちていく。
コロンと前回りをしチャッと立ち上がる夏目。
「ダンジョン落とし改じゃ!」
そう言い、俺に向かい猫のように目を細め笑った。
「タカシ! これからはワシがタカシを守るのじゃ! 星も取ったのじゃ! もう安心なのじゃ!!」
そう言ってくれた。
俺は夏目を抱きしめる。
「ありがとな夏目」
「ワシがしたいだけじゃ!」
「それでもありがとう、俺が弱くてごめんな」
「タカシは弱くないのじゃ、やさしいだけじゃ、そのやさしさに付け込むバカがいけないのじゃ」
夏目が俺の胴に両手を回して抱きしめ返してくれる。
いや違うよ夏目、俺はやっぱり弱いんだ。
俺は自分の力で自分の障害を振り払うのが怖かったんだ。
相手を壊してしまいそうで。
壊した自分が何か別の物に変わってしまいそうで。
でも、それも終わりだ。
別に、別の物に変わったところで俺は俺だ。
いや、俺じゃなくなったも、夏目さえいればそれでいい。
俺は心の底からそう思った。
「ツン」
俺がそう声を出すと、ツンがサムズアップする。
姫が黒い石の十字架を作り、
ウメが鬼龍院さんを素っ裸にひん剥き、
サキュとドラが十字架に鬼龍院さんを磔にし、
ハナが四本の腕でそれを掲げ、
アオジロの上に夏目と俺と希来里さんが跨り、
鬼龍院さんの子飼いを置き去りにし、
全員で一気にダンジョンを駆け上がる。
一気にダンジョン一階部まで駆けあがると、ドーム状になった空間で地面を掘っている探索者たちの間を駆け抜け、ダンジョン入り口の門の前に鬼龍院さんが磔られた十字架を立てる。
晒しものだ。
ここまですれば、もう誰も俺に手出ししなくなるだろう。
「まだ足りないのじゃ!」
そう言うと夏目は、ニマニマしながら槍で鬼龍院さんの腹に『天中』と傷をつけた。
「てんちゅうじゃ!!」
夏目、字が間違ってるよ。
「のじゃ!?」
「天誅よ」
地面に指で漢字を書いて夏目に指導してくれる希来里さん。
「し、失敗したのじゃ!」
おろおろする夏目。
そう言えば夏目は小卒だった。
俺は漢字の書き取りドリルを買おうと心の中で誓った。
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