第45話取って来い



「こりゃたまんねーな!!」



 地下八階層金デビの前線基地で瓜実金太氏は握り拳大の魔石の山に座り恵比須顔である。


 見つかった門の中にあるだだっ広いドーム状の空間はやはり地面を掘ると魔石が出てきた。


 それもさすがにドラゴンの物よりは小さいが地下五階層に出る牛鬼の物よりは大きくそれをノーリスクで大量に採掘できる空間を今金デビは独占状態である。


 そりゃ恵比須顔にもなろう。


「お前さんが三、ウチが七で本当に問題ないか?」


「そりゃ、俺が掘ったわけじゃないですから、ちょっとでももらえればいいです」


「俺だったら最低六は取るぜ?」


「あー、ならまた熱海の別荘使わせてください。あそこ気に入ったんで」


 希来里さんたちと行った山賊旅行で使った熱海の別荘を父親と母親がいたく気に入っていたのでまた連れて行きたい。


 あそこ暖炉があるんだよね。

 父親は冬にあそこに行き、暖炉に火を入れ、骨犬たちを侍らせてくつろぎたいらしい。アメリカのホームドラマみたいに。


「いつでも好きに使えや、あそこだけじゃなく葉山にもあるからそっちのカギも渡しとくわ」


 葉山の別荘もゲットだぜ。




 俺たちはもう四日この地下三階層にカンヅメだ。


 夏目はまだ来ない。


 飽きてきたかと言えば飽きてきたが、ここでは骸骨たちを全員出せるし、骸骨たちはみんな俺にかまってくれるから精神的にはだいぶ楽だ。


 今金デビは門の中側に大に前線基地を作ろうと急ピッチで工事を行っている。


 さすがに金デビでもこの最前線地下八階層に来られる探索者は数が限られているようで、そこまで急ピッチになってはいないが、日に日に出来上がっていく前線基地を見るのも楽しい。


 しかし問題もある。


 俺はここに手ぶらで来たし、前線基地で出る食事が自衛隊の戦闘糧食激似の横流し品としか思えない缶詰とパウチしかない。


 ぜいたくを言っていることは分かっているが、そろそろしっかりとした料理も食べたいし、甘味だって欲しい。


 俺は瓜実氏が出してくれたあったかいお茶を飲みながらため息を吐く。


「お前さん、もしかして飽きてきたか?」


「そこまでじゃないです、ただ、たまに頭が真っ白になりそうで……」


「おい誰か!! 早く夏目の嬢ちゃん連れてこい!! 特急で!!」


 叫ぶ瓜実氏の声をききながらもう一度ため息を吐く。


 

 俺が溜息を吐いていると、俺と瓜実氏がいるテントの外から声がきこえる。


「オヤジ、穴熊が来ました」


「あん、穴熊の誰だ?」


「須藤です」


 瓜実氏は須藤という名前をきいて舌打ちを一つする。顔が嫌そうだ。


「ちょっとばかっ野暮用で出てくるわ」


 瓜実氏はそう言うと険しい顔のままテントを出て行った。


 俺だけここにいてもしょうがないので拳大の魔石を一個握りテントを出る。







「はーい! 取って来いしたいひとー!」






 テントを出てすぐ俺がそう言って魔石を天高くかざすとジロとシロジロが超興奮しながら走りこんでくる。ハナが四本の腕を全部広げ全身で喜びを表現しながら滑り込んでくる。体高四メートルを超えるアオジロがギャロップを踏みながら嬉しそうに近づいてくる。


 ジロとシロジロの骨犬二頭とハナと骨馬のアオジロの四体か、これは腕が鳴るな。


「いくぞー!」


 俺だってレベル七、スキルによる補正は皆無だがそもそもの基礎体力はかなり上がっている。


 拳大の魔石を大きく振りかぶり、前線基地を囲む土嚢の壁の近くまで投げる。




 暴風がおきる。




 四体の骸骨たちが一斉に最高速で動き出したためダンジョンの硬い地面がめくれあがり、数メートルの土煙が舞い上がる。


 四体がもつれ合うように土嚢の壁に激突し、ドラゴンの初撃を止めるために作られた土嚢がボウリングのピンのように吹き飛ぶ。


 もう何がおこってるか分からんな、土煙凄いし。


 俺がぼうと突っ立ていると、土煙の中から一頭の骨犬が滑るように飛び出してくる。あれはシロジロだな。シロジロを追いかけるようにハナとアオジロとジロが襲い掛かるがアイススケーターのように地面を滑りシロジロは攻撃をよけ俺の前までたどり着き、お座りをして、俺が手を出すと口を開き魔石をのせてくれる。



「よーしよしよしよし!!」



 俺がシロジロの頭を撫でまくるとシロジロが喜び尻尾をびったんびったん地面に叩きつけ喜びを表現する。


 ハナは悔しさから四本の腕を振り上げばっちんばっちん地面を叩き、アオジロは後ろ足で立ち上がりどっすんどっすん前足を地面に叩きつける。


 ジロはじっと俺の手の中にある魔石を睨みつけ、次のゲームへ精神を集中させているようだ。


 ジロの要望に応えニゲーム目行きますかと魔石を振りかぶると、


「やめろやー!」


 と瓜実氏が俺の振り上げた手に抱き着きスローイングを阻止した。


「ウチの! ウチの前線基地がぶっ壊れちまう! もうやめてくれ! 何でも言うこときくから!!」


 涙目の瓜実氏が必死の形相で俺に懇願してくる。


 でも、ジロもハナもアオジロもディフェンディングチャンピオンのシロジロさえもやる気満々だし、ここでやめるのもねぇ。


 俺が困った顔をしていると、


「分かった! せめて基地の外でやってくれ! 頼む! 一生のお願い!!」


 まあそれくらいならと思い取って来いガチ勢を引き連れ俺は基地を出る。


 そしたらそこに、三人の男が立っていた。


 三人とも白いおそろいのプロテクターをきている。


 真ん中の男が一番体がデカく、それでも希来里さんほど迫力はない。


「おい」


 三人の右端の男が俺を呼び止める。


「さっきの話し、納得いかん、もう一度瓜実を呼んでこい」


 パシられた。


 いや普通の時なら金デビにはお世話になってるしパシられるくらい全然いいのだが、今はガチ勢が爆発寸前のテンションなので無理だ。


「よく分かんないで、ほかの人にきいてください」


 俺はそう言い通り過ぎようとすると、声をかけてきた右端の男が一歩前に出て俺の進行方向を塞ぐ。


「俺が瓜実を呼んで来いと言ったんだ、行け」


「今手が離せないんで、ほかの人に頼んでください」


 俺がそう言うと、イライラしてたんだろう、男は拳を振り上げる。


 まあ誰かこの拳だって止めてくれるだろうとぼうと振り上げられた拳を見ていて気がついた。


 今ここにいるのは取って来いガチ勢、ジロ、シロジロ、ハナ、アオジロの四体。


 全然手加減できそうにない。


 ウメやメイドさんたち、百歩譲ってツンでも殺さない配慮ぐらいはしてくれそうだが、ここにいる四体は絶対にそれをしない。その確信が俺の中にはある。


 これはあかん。


 俺は焦りこぶしを振り上げた男に胴タックルのように抱き着く。


 反撃など考えていなかっただろう男はいきなり抱き着かれ焦り、


「お前! 俺になんてことを!!」


 と、口走りながら俺の腰を掴み、払い腰で投げた。


 ビタン。


 ダンジョンの硬い地面に投げ捨てられる俺。


 背中から落ちて肺の中の空気が全て出て、息ができない。




 あかん!!




 ハナが四本の腕を全て振り上げている!


 アオジロが後ろ足で立ち上がってる!


 ジロが口をこれでもかと開けて飛び掛かろうとしている!


 俺は今から起きる惨劇に備え、そっと目を閉じる。


 グロとかゴアとか、俺苦手なんだよ。


 一、二、三。


 三つ数えて目を開けると三人の男を踏みつけて拘束しているシロジロがいた。


 じたばたしているから生きてるっぽい。


 シロジロが褒めてって感じで首を斜めに傾ける。



 シロジロありがとう!



 グロ画像見ないで済んだ!



 これで今晩もお肉がおいしく食べれます!! 




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