第44話門の向こう
「伽藍堂、入り口を開け」
俺がそう言うと俺の前の空間が陽炎のように歪む。
ぬっとその空間から出てきた百五十センチほどの身長をした少し頭が長い骸骨。
頭の骨が少し後方に長く、仙骨が少し大きい以外は普通の骸骨だ。
ん? 肋骨の一番下の骨に細い手の骨が巻き付いている。つまり四本腕があるのか? ハナも四本腕だし、今、骸骨界では四本腕が流行りなのだろうか?
首を少し横にかしげる動作がカワイイ。
姫に次ぐ癒し系枠と言っていいだろう。
そんなことを考えていたら頭の中に浮かんでいた「12/12」の文字が消える。
ウメがダンジョンの虚空に矢を放ち、いきなりレベルアップした。
ここまでドラゴンをいくら殺そうがピクリともしなかったレベルアップが一瞬で動いたことを考えると、富士氷穴ダンジョンで殺した燃える大女よりも大物を仕留めたことになる。
ウメはご満悦な雰囲気を出しているが、攻撃するなら言ってほしい。
「セン、こっちおいで」
なんとなく仙骨も大きしい、頭の長さも仙人ぽいのでセンと呼んだ見たら、嬉しそうに近づいてきてくれる。
その少し後方に長い頭を両手で撫でると、二本の腕を伸ばし、俺の頭をお返しとばかりに掻き撫でる。肋骨に巻き付いている細い腕は動かないらしい。
ウメがサッと黒い布を出し、真ん中に切れ込みを入れ頭貫衣のマントを作ってセンに着せてくれる。
うん、なんかカワイイ。
黒いテルテルボウズみたいだ。
新しい仲間も増えたことだし、午後も一生懸命働くことにしよう。
◇◇◇◇
午後も別にやることは変わらない。ジロとシロジロを斥候に出し、前線にツンとハナとアオジロに乗ったアロハを並べ殲滅していくだけだ。
俺が歩くペースに合わせ進軍していく。
俺たちの後ろを金デビの最前線部隊がついてきて、黒い箱の魔道具をばらまき地下九階層までのメインストリートを作っていく。
俺はセンに手を引かれ歩く。
センは俺より小さいが、さすが骸骨の一員だ過保護感が強い。
小石一つで俺が転ばないように少し進路を変え、時折俺に変化がないか顔を見上げ確認する。
もうおばあちゃんを超え、初めてあんよをした赤子に付き添う母親のようだ。
センの過保護ウォークにより午前中のアタックより時間はかかっているが、それでもびっちり三時間はダンジョンウォークすると目的地にたどり着いた。たどり着いた? たどり着いたと言っていいはずだ。
地下九階層に下りる階段を探していたはずだが、そこにあったのは門だ。
この横浜ダンジョン入り口にある白い二十メートルはあるバカデカい観音開きの門そっくりな門があった。
俺は振り返り、後方からついてきている金デビの最前線部隊の先頭で指揮を執る瓜実氏に手招きする。
瓜実氏が走ってきて、
「いやーたまげたなおい」
と、玉ねぎ型のフルヘルムを脱ぎながら金歯を見せながら笑顔になる。
「瓜実さんも初見ですか?」
「そうだな、ここまで深く地下八階層を潜ったことないからな、お前さんのおかげだぜ」
ポンポンと俺の肩を叩く瓜実氏。
「それよりこの門、どうします?」
「だな~、お前さんこれ開けれるか?」
う~んどうだろう? うちの力自慢と言えばハナだが、この門デカいしな~。と俺が悩んでいるとスッとセンが前に出た。
門の前に立つセン。
トンッと右足で地面を軽く踏むと、センを中心に周りの地面が黒く染まる。
センがもう一度トンッと地面を踏む。
センの周りの黒い空間から真っ白な津波が吹き出し、真っ白な門と衝突し、その水圧により門を押し開けた。
門にぶつかり飛び散る真っ白な水滴、水滴にしてはデカい、よく見るとセンと同じくらいの大きさの骸骨がセンの周りを囲む黒い地面から何千、何万とすごい勢いで溢れ出し、鉄砲水のようになっていた。
門が骸骨の洪水に負け押し開かれるとセンがトンッともう一度地面を踏むと、キラキラとエフェクトが光り、何万と言う骸骨が消えていく。
センの周りの黒い地面も消え、センが、それじゃ中に入りましょ?と首をかしげながら手を伸ばしこっちを見ている。
「……今骸骨、何匹いたんだ?」
震える声で俺にそう尋ねる瓜実氏。
「そうですね、万はいたんじゃないんですか?」
「門、手前に引いて開ける形状だったと思うぞ……」
「それより入りましょう」
と、俺は言い、センの手を取り、開いた門の中に入っていく。
俺が門に入ろうと動くとまずジロとシロジロが門の中に滑り込む。続いてハナ。
俺を守るようにツンとウメ、サキュとドラがスクエアーに俺を囲み、最後尾はアオ
ジロに乗ったアロハが守る。
俺はセンに手を引かれ、門をくぐる。
そこは広いドーム状の空間だった、既視感があると思ったらこの横浜ダンジョン一階部だ。あそこと同じなら、ここの地面を掘れば魔石が出るかもしれない。
なにもない広いドームの中央に一メートルほどの巨大魔石が転がっていた。
このドームの中にはこの魔石以外何も存在しない。
ウメが魔石に近づき、こっちを向き、ポンポンと自慢げに魔石を叩く。
ハンターが狩ったヘラジカの頭部の剥製を自慢するように、釣り人が釣った魚を写真に撮るときのような満足げな雰囲気と、猫がネズミを咥え飼い主に見せに来るときのように褒めて欲しいオーラに溢れている。
さっきのレベルアップ、ここにいる何かを殺して上がったのか?
三時間はウォーキングしなきゃ来られないこの距離を、たった一矢で仕留めたのか?
このデカい魔石、ドラゴンのだってハンドボールくらいだった。どんだけデカい敵がここにいたんだ?
なんて色々考えていたら、あれ? お気にめさなかった?的な感じでウメのテンションが下がっていくのが分かる。
これはいかんと、
「ウメ! 俺嬉しい! 最高!」
と、抱き着くとウメもうれしくなったらしく俺を抱きしめ、タカイタカイのように持ち上げくるくる回る。
ジロやシロジロ、ハナにもうれしさが伝わり俺とくるくる回るウメを中心にぐるぐる駆け回り、ほかの骸骨たちもぐるぐる回り、骸骨たちのロンドが始まる。
アオジロはタシタシと美しいギャロップを見せ、サキュとドラは回転しながら空中に舞い上がり、ツンは大鉈を使い美しい剣舞を見せてくれる。
センは自分の周りから骸骨を数百体出し、回る俺たちの周りをきれいな整列で行進させている。
俺は回りながら少し冷静になる。
俺たちのあと少したってから入ってきた金デビの最前線部隊が、腰抜かしてへたり込んでる。
うん、確かにはたから見ればこの骸骨ロンドは地獄の門を開くための邪悪な儀式に映っても仕方がないビジュではある。
瓜実氏が気合で立っているのを見ると、さすが横浜ダンジョントップランカーの風格を感じるが膝がガッタガタに震えている。
仕方がないから、
「そろそろ仕事に戻ろうか」
と、声をかけると、骸骨たちが俺の元に集まってきて頭を撫でたり体をこすりつけて離れていく。
最後にウメが俺の頭を一撫でし離れると、俺は瓜実氏に向かい近づく。
「ちょっとはしゃいじゃいました」
「お、おう、俺は世界の終わりの始まりの瞬間に立ち会ったかと思ったぜ」
「ここダンジョン一階によく似てるので、掘れば魔石出そうですよね」
「お、そうだな、俺らがちょっと調査するから、見張り頼めるか?」
「了解です」
俺はツンに全体の警戒をお願いする。
骸骨たちは調査する金デビを囲むように配置につく。
俺はハナの蛇の骸骨の下半身に座りペットボトルのお茶を飲む。
お茶を飲むと甘いものが欲しくなる。
いつも夏目が甘いものをお茶うけとして用意してくれていた。
急に、無性に夏間に合いたくなってきた。
俺の切なさを感じたのだろう、ハナがやさしく抱きしめてくれた。
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